欧州サッカー主要リーグの移籍市場が、9月1日に閉じられた。最終日に超大型契約がまとまったり、名門クラブが巨額の補強費を投じたりと、今夏も欧州のオフシーズンは熱かった。
【今季のドイツ・ブンデスリーガには9人の日本人選手が在籍】
今夏の欧州の移籍マーケットで、「日本人選手はあまり動かなかった」という印象を持たれている方は多いかもしれない。
確かに移籍の可能性が囁かれていたブライトン&ホーブ・アルビオンの三笘薫や、レアル・ソシエダの久保建英、リバプールの遠藤航、スポルティングの守田英正といったビッグネームは残留した。ただそれでも、今夏も多くの日本人選手が欧州の新天地でシーズンの開幕を迎えたことも事実だ。
一番大きな注目を集めたのは、トッテナム・ホットスパーが580万ユーロ(約10億円)の移籍金を支払って川崎フロンターレから獲得した高井幸大だろう。Jリーグから直接5大リーグへ移った選手の移籍金としては、歴代最高額となった。これまでJリーグの選手の多くが、不当とも言えるほどの廉価で取引されてきたなか、これはポジティブな事例だ。高井は残念ながら、移籍後すぐに怪我をしてしまい、チャンピオンズリーグの登録メンバーからも外れてしまった。欧州での1シーズン目は、別のチームに期限付き移籍する線もあるか。
もともと日本人選手の多いドイツ・ブンデスリーガでは、今季も9人が8クラブに所属している。そのうち、バイエルン・ミュンヘンの伊藤洋輝とマインツの佐野海舟を除く7人が新加入選手だ。そのうち、鈴木唯人は早くからマークされていたようだ。フライブルクは7月1日にマーケットが開くと同時に、現在23歳のMFの加入を発表している。
鈴木が昨シーズンまで所属したデンマークのブレンビーは近年、主要リーグへ多くの選手を供給しており、欧州でのキャリアを始めたい日本人選手にとって、選択肢のひとつとなりそうだ。現在もチームにはふたりの日本人選手がいる(福田翔生と内野航太郎)。ちなみに、鈴木の移籍金1000万ユーロ(約17億3000万円)はブレンビーのクラブ史上最高額である。
【堂安はフランクフルトへステップアップ】
比較的小規模で選手育成に定評のあるフライブルクから、アイントラハト・フランクフルトへステップアップしたのが堂安律だ。フライブルクはクラブ史上最高額の移籍金2100万ユーロ(約36億円)を手にしている。フランクフルトはこの半年だけでも、1月にオマール・マルムシュ(マンチェスター・シティ)を7500万ユーロ(約130億円)で、7月にウーゴ・エキティケ(リバプール)を9500万ユーロ(約164億円)で売却しており、採算は取れているはず。
フランクフルトのマークス・クレーシェ強化担当は現在27歳の日本代表アタッカーのことを、「私たちが望んでいた逆足のウイング」と表現しており、堂安が得意とする右サイドからのカットインなどを期待されているようだ。またクレーシェ氏は『南ドイツ新聞』のインタビューで、選手を高値で売る秘訣について聞かれて、こう答えている。
「まず選手が2、3年後にどのくらい成長し、どのくらいの価値になるかを定める。そしてそれを発言していく。この業界はかなり透明なので、メディアがそれを書く。そうするとその金額がみんなの頭の奥の方に刻まれていく。いきなり1億ユーロと言ったら、不信感を抱かせてしまうだろう」
すでに堂安はカップ戦とリーグ戦の3試合で4ゴールと1アシストを記録し、クレーシェ氏の見立てが正しかったことを示している。
町野修斗と彼の新天地ボルシアMGの契約に予想以上の時間がかかったのは、ボルシアMGがまず人員を整理する必要があったから。町野が昨季所属していたホルシュタイン・キールのオーラフ・レッべSDは、昇格組のチームがずっと残留争いをしていたにも関わらず、2桁台の得点を叩き出した町野に1000万ユーロ(約17億円)以上の移籍金を要求した。
最終的に、ボルシアMGが800万ユーロをキールに振り込み、各種ボーナスと、将来のさらなる移籍の際にキールに支払われる金額を入れると約1000万ユーロになる形で落ち着いた。これはキールにとって、史上最高の移籍金である。近年のボルシアMGは、良く言っても中堅クラスのチーム。昨季のキールに続き、残留争いに巻き込まれないよう、町野の決定力に期待がかかる。
【確立された感のあるベルギーからドイツへのルート】
まったく噂が聞こえてこないなかザンクトパウリに移籍し、いきなりレギュラーを掴んだのが藤田譲瑠チマである。ブンデスリーガでは長谷部誠、細貝萌、遠藤航といった日本人選手がセントラルMFとして認められ、愛されてきた。そして1年前にマインツに加入した佐野海舟の圧巻のパフォーマンスにより、このポジションの日本人選手の人気はさらに高まっている。藤田も遠藤と同様に、ベルギーのシント=トロイデンからブンデスリーガにたどり着いた。
町田浩樹もベルギー経由でブンデスリーガの道を選んだ。
「ベルギーリーグは、Jリーグの選手にとって概して良いリーグと言えるだろう。そのレベルは基本的にJ1と5大リーグの中間くらいで、適度なステップアップとなる。また、ベルギーのクラブは経営に苦労しているところが多く、移籍金でそれを埋め合わせる必要があるため、交渉の場で協力的な姿勢を見せることが多い」
町田は残念ながら、ブンデスリーガのデビュー戦で左膝前十字靭帯を断裂してしまった。新天地も日本代表も、彼の早期復帰を待っている。
8月末に決まった菅原由勢のブレーメンへの買取オプション付きローン移籍は、ドイツでも驚きを持って受け止められた。しかしディフェンダーが次々と負傷したチームにおいて、有事の際の獲得候補リストに菅原の名前があったのは間違いない。また新監督に就任したホルスト・シュテフェンと、代理人事務所が同じという縁もあった。
「ユキは本当にフレンドリーで礼儀正しく、とてもユーモアがある」とクラブのメディアスタッフは菅原について語る。地元メディアやファンと接する機会が多いブンデスリーガでは、こういったポジティブな要素が、その土地で認められてうまくやっていくための助けとなる。
瀬古歩夢も2022年から3年半を過ごしたスイスのグラスホッパー・チューリッヒを去り、フランスのル・アーヴルと2027年までの契約を結んだ。冨安健洋、伊藤洋輝、町田浩樹、高井幸大らが負傷し、日本代表の最終ラインは不安を抱えている。W杯を1年後に控えた今、瀬古が5大リーグで結果を残せば、代表の定位置も見えてくるか。
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