【東京世界陸上・記者の推し選手】男子競歩・山西利和は3度目に...の画像はこちら >>

9月13日(土)から21日(日)まで開催される東京2025世界陸上。果たして、世界最高峰の舞台で日本人選手たちはどんなパフォーマンスを見せるのか。

大会を取材する記者たちに「推しの選手」を聞く本企画、今回はスポーツライター・折山淑美さん編です。

●村竹ラシッド(JAL)男子110mハードル

 9月13日に開幕する、世界陸上東京大会。参加標準記録有効期限の8月24日を経て、世界ランキングなどで選考された選手を日本陸連は9月2日に発表。これまで代表が決定していた選手に加えて代表80名が出そろい、戦いに向かうことになった。

 そのなかで最も注目されるのは、2023年世界陸上ブダペスト大会で優勝して早々と東京大会の出場権を獲得し、昨年のパリ五輪で金メダリストとなった女子やり投の北口榛花(JAL)の大会連覇がなるかどうかだが、今季になってメダル候補になってきた男子選手ふたりにも注目したい。

 そのひとりは男子110mハードルの村竹ラシッド(JAL)だ。この種目で先に世界に肉薄したのは、同じ順大の先輩の泉谷駿介だった。23年ブダペスト大会では日本人初の決勝進出を果たして5位になった。だがそれを追いかけるように日本記録13秒04で並ぶと、昨年のパリ五輪では決勝進出を果たして5位になった。

 その時は「5位というのはいいのか悪いのかわからない、中途半端な順位。しかもメダル争いに加われていたかもしれないので、かなり悔しさが残ります」と苦笑していた村竹だが、今季はその結果を自信に変える走りを見せてきた。

 4月のダイヤモンドリーグ(DL)初戦の厦門大会で2位になると、5月はDL第2戦の柯橋大会でも2位。さらに同月18日のセイコーゴールデングランプリでは優勝して月末のアジア選手権もしっかり勝ち切る強さを見せた。

 その後のDL2戦ではともに4位と安定した結果を残していた村竹が、大きな壁を破ったのは久しぶりの国内大会だった8月16日のAthlete Night Games in FUKUI。追い風0.6mだった決勝では余裕を持ったスタートから徐々にテンポを上げると、最後まで崩れることなく走りきって日本人初の13秒突破となる12秒92を出したのだ。

 この記録は世界歴代11位で、今季では12秒87のコーデル・ティンチ(アメリカ)に次ぐ世界トップリスト2位の記録となり、一躍メダル圏内に突入となった。

 8月28日のDLファイナルでは「1台目の踏み切りが合わなかった」ために最下位の8位に終わったが、それは1台目のハードルの踏み切りがうまくいかなかった時点で、世界陸上に向けて思いきって無理をしないと決断した結果だった。世界陸上本番では冷静な走りでメダルを狙えるはずだ。

 同じ短距離でもパワーを最大限発揮する100mに比べれば、ハードルがあることで動きが制限されるのがこの110mハードル。かつては大柄な選手たちの独壇場という雰囲気もあったが、技術種目でもあるだけに、世界の短距離界に風穴を開けてもらいたい。

●三浦龍司(SUBARU)男子3000m障害

 長距離でも技術種目といえるのが3000m障害。その種目で2021年東京五輪では7位になり、2023年世界陸上ブダペスト大会では6位、そして昨年のパリ五輪でも8位と世界の舞台で着実に入賞という結果を残してきた三浦龍司(SUBARU)も表彰台を狙える位置までステップアップした。7月11日のDLモナコ大会で、自身が持つ日本記録を6秒48更新する今季世界トップリスト3位の8分03秒43を出して2位になったことで、世界陸上への期待値がグンと上がった。

 今季は4月のDL第1戦で8分10秒11を出したあと、足を痛めて練習ができない時も少しあったが、5月18日のセイコーゴールデングランプリ優勝で復活すると、その1週間後のDLラバト大会では8分13秒39で13位と徐々に調子を戻していた。

 そして準備期間をしっかり取って臨んだDLモナコ大会では、ペースメーカーが8分切りのペースで引っ張り、それにパリ五輪王者のスフィアン・エルバカリ(モロッコ)が付く展開のなか、三浦は、序盤は後方に控えから徐々に順位を上げ、2000m通過は8番手でトップと8秒6差。だがそこから追い上げを開始して残り400mを切ったあたりで2位に上がると、ラスト200mを過ぎてからはエルバカリとの差を一気に詰めた。

最後は及ばなかったが、0秒25差まで迫る終盤の強さを見せた。

 最初から独走しての日本記録ではなく、世界トップランナーとの勝負を意識したレース展開のなかで出した記録でもあっただけに、本番での勝負に期待できる内容と結果だった。

 日本の陸上走種目といえば、長い間「マラソンしか通用しない」というイメージがついていたが、持久力だけではなくスピードや身体能力も必要なこの種目で世界に対抗することは意味があるものだ。長距離=マラソンではなく、他種目を選択しても可能性はあるということを、後に続く選手たちに意識させるためにも、この種目の日本人初メダルが欲しいというのが本音である。

●山西利和(愛知製鋼)男子20km競歩

 メダルへの期待となれば、過去5大会で9個のメダルを獲得している男子競歩は外せない。大会初日の35kmでは川野将虎(旭化成)が3大会連続のメダル獲得を目指すが、大会9日目の20kmでは2019年ドーハ大会と2022年オレゴン大会を連覇した山西利和(愛知製鋼)の復活に期待だ。

 3連覇がかかった2023年ブダペスト大会は、前年の連覇達成後に目標が曖昧になったこともあって24位に沈み、昨年は厚底シューズを試したことで持ち味である歩型が乱れてパリ五輪代表を逃していた。だが昨年春からは、自分の歩きに合う厚底シューズも見つけた。そして2月の日本選手権では、13kmからのペースアップで独歩状態を作るとそのままペースを落とさず、鈴木雄介(富士通)が2015年に出していた世界記録を26秒更新する1時間16分10秒で優勝して世界陸上代表内定を決めた。

 その後もワールドカップ・ポーランド大会20kmで優勝し、トップ選手が揃うグランプリ大会のラ・コルーニャでも優勝。世界ランキングも6月10日以降は1位を維持し、世界のトップ選手たちにも復活を強く印象づけている。

 競歩はパリ五輪では35㎞が外され、男女20kmと混合マラソンリレーの3種目が行なわれたが、来年からは20kmがハーフマラソンの距離になり、35kmはフルマラソンと同じ42.195kmで実施される予定。山西は20km競歩の「最後の世界記録保持者」として名前を残す可能性が大きいだけに、「最後の世界王者」という称号も一緒に保持してほしい。

●男子4×100mリレー

 2019年ドーハ大会以来メダルから遠ざかっている男子4×100mリレーも、久しぶりにメダル獲得の可能性が大きくなってきた。7月の日本選手権後には100mで世界陸上参加標準記録(10秒00)突破ラッシュとなるなど、機運が高まる日本男子短距離。4×100mリレーにおいてその原動力となるのは、5月の世界リレーの主力として3走で好ラップを出している鵜澤飛羽(JAL)と桐生祥秀(日本生命)の充実だ。

 アジア選手権と日本選手権200m優勝の鵜澤は、その2大会を含めて今季は20秒1台前半を4回出し、追い風2.1mの参考記録ながら20秒05も出して日本人初の19秒台突入を射程圏内に捉えている。さらに桐生も日本選手権100m優勝後、8月には8年ぶりの9秒台となる9秒99を出して勢いに乗っている。

 ふたりはともに3走のスペシャリストでもあるが、技術だけではなく精神力の強さも必要な難しい3走候補がふたりいる状況は大きな安心材料になる。ふたりは直線区間も好ラップで走れるだけに、走順のバリエーションも増えるのが強みになる。

 また10秒00を出して100m代表になった守祐陽(大東文化大)はどこでも走れるタイプで、終盤も減速しないのが持ち味だ。さらに10秒00を出しながらも個人種目の選考基準を満たせなかった栁田大輝(東洋大)も混合4×400mリレーメンバーとして選出されたことで、世界陸連のルール上、4×100mリレーに出場する可能性を残している。

 ポイントになるのは10秒3台のラップタイムで走れる1走を準備できるかだが、サニブラウン・ハキーム(東レ)が万全に近ければその務めは十分に果たせる存在になる。

 ただ、故障のために7月の日本選手権では予選敗退だったサニブラウンがどこまで状態を戻しているかは大きな注目点になるが、高2で10秒00を出している清水空跳(星陵高)を含めた全体的なレベルアップで、サニブラウン抜きでもメダル争いに食い込めそうな期待感もある。

 高校3年から日本男子短距離を牽引し、新たな世界に踏み込ませてくれた桐生の長年の努力に報い、そして次世代につなげるためにも、地元東京大会でのメダルはぜひともほしいところだ。

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