福澤達哉インタビュー 中編

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6月、7月のネーションズリーグでは、うまくいったこともあれば、ハマらなかった部分もあったが、大きな可能性を秘めた新しい選手たちが登場した。元日本代表の福澤達哉さんに、今後の男子バレーボール日本代表が世界の強豪と戦ううえで、「目指すべきチームの形」について語ってもらった。

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【新メンバーの活躍とこれから】

――ネーションズリーグでは新戦力も含め、さまざまな選手が活躍しました。福澤さんが特に印象的だった選手は誰ですか?

福澤達哉(以下、福澤) 新戦力で言えば佐藤(駿一郎)選手ですね。身長が高いミドルブロッカーが求められるなか、204cmの佐藤選手が大会を通してブロック、攻撃面で世界に対して十分通用する姿を見せたのは、非常に大きな収穫でした。

 そしてリベロの小川(智大)選手の活躍も欠かせない。パフォーマンスの高さは、もともとわかりきっていましたが、選手間のコミュニケーションにおいて彼のポテンシャルがとてもいい形で発揮されて、何度もチームを救っていました。ブロックが何枚必要なのか、相手の出方によってポジショニングをどうするのか。試合中の指示も含め、コート内を小川選手がコントロールしていました。テレビ中継や国際映像でも小川選手が試合中にどれだけ声を出しているかも伝わってきたはずです。中国、ブルガリアラウンドは若い選手も多いなか、小川選手の存在はかなり大きかったと思います。

――パリ五輪で主軸を担った選手から代わったポジションもありました。

福澤 オポジットに関しては、パリ五輪にも出場した宮浦(健人)選手が、西田(有志)選手不在のなか、ネーションズリーグを含む今季の試合で、どれだけのパフォーマンスを発揮できるかという強い思いや覚悟がひとつひとつのプレーから伝わってきました。得点後の感情表現も含め、自分の見せ方も彼なりの形でできていたと思いますし、安定したパフォーマンスでチームの攻撃を牽引していて、申し分ない働きでした。

 しいて言うならば、これまでどちらかというと"仕事人"のイメージでしたが、今後は小川選手や石川(祐希)選手、(髙橋)藍選手と同等にチームにもプラスアルファの影響を与える存在になってほしい。

強力なリーダーがひとりいるチームではなく、複数の柱があるチームが強いチームなので、プレーだけでなく、チームが劣勢時の声かけなど、自分のパフォーマンスに加えてチームに対してどう働きかけていくかということに目を向けていければ、さらに上のステージに到達できるはずです。

――セッターもパリ五輪まで主軸を担った関田誠大選手に代わり、ネーションズリーグでは大宅真樹選手、永露元稀選手が大半の試合に出場しました。

福澤 セッターはいつの時代もダイレクトに点数へ影響する中継地点なので、いい時は目立たず、悪い時は悪目立ちするのが宿命でもあります。特にコンビバレーは日本が世界と戦ううえでの生命線であり、2本目のつなぎの役割を担うセッターには、高い精度と技量が求められます。大宅、永露両選手はそのプレッシャーを感じながらプレーするという、いい経験ができたと思っています。この1点、この1本と課題を痛感するなか、次へつなげるためには経験を重ねて技量を磨くしかない。ただし、すべてがセッターのせいではなく、強い「個」が結集したチームだからこそ、もっと問うべき課題もあるはずです。

【チームとしての課題とは】

――問うべき課題とは、具体的に?

福澤 日本が理想とするバレーをするために、トスの精度は生命線でもあるけれど、「トスが上がらなかったら勝てないチームなんですか」と言えば、そうではないですよね。理想はあるけれど、そこにたどり着くためには時間が必要。トスが合わない、リズムが少し狂っているという時にチームとしてどう対応するか。それこそがチームとして求められる強さではないか、と思うのです。

 結果を見たときに「あの1点を取るためのトスが上がっていたら勝てた」と捉えるのもひとつですが、「あの1点を取るためのトスは割れてしまったけれど、チームとしてもっとマネジメントができたんじゃないか」と考えることもできる。

 トスだけでなくサーブも同じです。「サーブが走らなければ勝てない」というのは確かだけれど、強いチームというのは「サーブが走っていないから、今日はこっちの戦術にシフトしよう」と柔軟に対応できる。セッターとアタッカーにも同じ考えが当てはめられるはずです。

――理想を求めながらも、うまくいかないときにどうするかが大切になるということですね。

福澤 そうです。具体的な例としては、2008年から2009年のブラジル代表がまさにそうでした。リカルド(・ガルシア)という世界一のセッターのあとを継ぐ形で、ブルーノ(・レゼンデ)という選手が出てきた。彼は私と同じ歳なのですが、代表デビューしたての彼のプレーは、言葉を選ばずに言えば、「うわ、めっちゃ下手くそやん」と思ったわけです(笑)。

 じゃあ、それでブラジルが負けていたか、といえばそうじゃない。勝つんです。なぜ勝てたのかというと、ジバ(ジルベルト・ゴドイフィヨ)やダンチ(・アマラウ)といった技量の高いスパイカーたちが、うまくカバーし、トスが合わなかろうが得点にして、勝利につなげる。そうこうしているうちにブルーノは世界的なセッターへと成長していきました。

 ブラジルだけでなく、どの国にもこのタイミングが必ずあり、日本もまさに今がそうかもしれない。理想を求め、練習のなかでクオリティを求めるのは大事なことなので、そこは厳しくやるべきですが、試合ではチームとしていかに点を取るかに集中する。プレーの良し悪しにフォーカスするのではなく、もっと客観的かつ冷静に判断して、修正すべきところを修正して戦術を組み直す。それができるようになれば、ポーランドやブラジルなどの強豪国のように、「勝てるチーム」ではなく「負けないチーム」になれると思っています。

――「勝てるチーム」と「負けないチーム」の違いはどんなところですか?

福澤 負けないチームはいい時だけでなく、悪い時も修正して立て直せる。粘り強さに加え、「この1点は逃せない」というところは確実に取り切る。また話が戻りますが、当時のブラジルは世界ランキングも1位で「我々は世界トップなのだからどんなチームにも負けてはいけないんだ」というプライドがありました。

 日本も目指すところは同じで、今まさに、そのスタートラインに立っています。だからこそ、うまくいかない時も「あのパスが返らなかった」「あそこでいいトスが上がらなかった」と考えるのではなく、じゃあそうなった時にどうするかに目を向けることが重要。もちろん人間なので「あの1本が......」と思うのは自然な流れですが、うまくいかなかった時に何をすべきかという発想や感覚、マインドのスイッチを持つことも大切です。

――「個」としても強くなり、「組織」としても強くなる。世界トップに向けて着実に進んでいると捉えていいですか?

福澤 そう思っていただいていいし、そう思ってほしい。

そしてそのチームの中心になるのが、石川選手と藍選手です。石川選手はパフォーマンスが上がりきっていませんでしたが、どんな状態でもチームにとって欠かせない選手であるのは間違いない。たとえスパイク決定率が30%だったとしても、石川祐希という選手がコートにいる重要性をどこまで示せるか。周りから見れば、石川選手がチームの柱であるのは揺るぎない事実なので、彼が与える影響力は非常に大きい。その分、石川選手が背負わなければならないプレッシャーも大きいのですが、彼ひとりで背負うものではなく、チームとして信頼関係を築くなかで、石川選手ももっと周りを頼っていい。

 ネーションズリーグでは藍選手の調子がよかったので、彼が引っ張っていたことも、チームにとっては大きな収穫です。世界選手権では石川選手もピークを合わせてくるはずですので、また新しい姿、戦い方が見られるのではないでしょうか。

つづく

後編>>「福澤達哉が語る世界バレー展望」


profile
福澤達哉(ふくざわ・たつや) 1986年7月1日生まれ、京都府出身。2005年、中央大学1年時に日本代表に初選出され、大学4年時の2008年北京五輪では清水邦広とともにチーム最年少で出場を果たした。翌年のワールドグランドチャンピオンズカップでは、32年ぶりの銅メダル獲得に貢献し、ベストスパイカー賞受賞。大学卒業後はパナソニックパンサーズ(現・大阪ブルテオン)に入団し、2009‐2010年シーズンと2011年‐2012年シーズンのVプレミアリーグ優勝に貢献。ブラジルやフランスでも経験を積み、現在はパナソニックグループに勤務するかたわら、解説者として活躍している。

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