福澤達哉インタビュー 後編
前編はこちら>>
中編はこちら>>
「すべての大会で表彰台を目指す」という目標を掲げるバレーボール男子日本代表は、9月12日から世界選手権(世界バレー)に臨む。元日本代表の福澤達哉さんが注目している日本代表のプレーや、世界バレーの楽しみ方を聞いた。
【最適な選択ができれば勝機あり】
――9月12日からはフィリピンで男子の世界選手権が開幕します。4年に一度の開催から2年に一度の開催へ、レギュレーションが変わって初めての開催となりますが、日本代表にとってはどのような位置づけなのでしょうか?
福澤達哉(以下、福澤) 世界選手権はもっとも参加国が多く、歴史が長い。レギュレーションは変わってもバレーボールの世界一を決める、ここで勝ったチームが本当に強いと証明する大会であることは変わりません。
日本代表にとっては、2028年ロサンゼルス五輪へ向けて、現時点で世界のどの位置に立っているのかを見極める絶好の機会です。日本だけでなく各国の代表チームも監督が代わり、新しい選手がどんどん出てきて、ここからの4年で世界の勢力図も間違いなく変わっていくなか、日本がどんなパフォーマンスを発揮して存在感を示せるか。結果が求められる大会であるのはもちろんですが、世界に与えるインパクトも重要。いろいろな選手が出てきて、経験値を増やし、層が厚くなる。日本のバレーボールがいいサイクルで回っているのは間違いないので、非常に楽しみですね。
――ロラン・ティリ監督、選手ともに「すべての国際大会で表彰台を目指す」と公言しています。
福澤 そのためには、まず初戦の入り方が大事です。予選リーグの初戦はトルコ。高さがあり、力を持った選手が揃っているので、そこで勝ちきって大会に入ることが大きなポイントになるでしょう。順当に勝ち上がっていくと、おそらく準々決勝でポーランドと対戦する組み合わせなのですが、どの相手に対してもやはりカギになるのはサーブとレシーブです。
日本だけでなく、どの国もサーブ&ブロックがどんどん進化するなか、ネーションズリーグで負けた試合はまさにサーブ&ブロックにやられていました。そこで日本が強みを発揮するには、やはりレシーブとつなぎが重要です。いかにラリーへ持ち込んで自分たちのペースでゲーム展開をコントロールできるかがカギとなります。個の力だけに頼るのではなく、リバウンドを取ってからファーサイドで攻撃を展開するためのブロックカバーやトスの精度、これまで磨いてきた日本の形が発揮できれば活路は見出だせるはずです。
チームとしての共通認識を持って、どれだけ選択肢を持ち、ベストな判断ができるか。最適な選択をするためには、練習から徹底的に繰り返して詰めていく。そうやって日本の強さを磨いていければ、どんな相手に対しても勝機はあるはずです。
【石川祐希のマインドはチームに必要】
――あえて注目選手、期待する選手を挙げるとしたら?
福澤 もちろん全員と言いたいですが、成長が求められるポジションという意味で言えば、セッターにはやはり注目しています。個人に注目するというよりも、セッターとスパイカーの関係性。組み立てやフィニッシュの形、試合を重ねていくなかでどこにポイントを置いているのか。そこはしっかり見たいですね。
日本代表はどのポジションも、いい選手が揃っているので、見どころや期待する選手を挙げるのは難しいんですよ(笑)。あえて挙げるならばセッター、そして石川(祐希)選手です。
――主将の石川選手、あえて注目選手として挙げる理由は?
福澤 やはり世界の勝ち方を知っている存在であり、キャプテンとして石川選手のリーダーシップが非常に大きなポイントであるのは間違いない。ステージが上がれば上がるほど、1点を取りきる力と「1点の怖さ」を知っているか、というところに直結する。今の日本代表で「1点の怖さ」を知っている選手は、やはり石川選手です。だからこそ、彼個人が1点を取るために勝負するというだけでなく、彼が知る「1点の怖さ」のマインドをチームで共有して、試合だけでなく練習中からキャプテンとしてチームをどうまとめていくか。ここに注目をして見ていきたいですね。
【世界バレーで見てほしいポイントは?】
――世界選手権はフィリピン開催です。ネーションズリーグは何度か開催されていますが、世界選手権は初めて。バレー熱、日本代表人気が非常に高い場所での開催ですね。
福澤 フィリピンはもちろんですが、アジア全体のバレーボール人気が年々高まってきているのも確かです。今年のネーションズリーグ・ファイナルラウンドは中国開催でしたが、決勝戦のポーランド対イタリアもかなり多くの観客が入って、声援を送っていました。自国のチームでないにもかかわらず、あれだけの観客数、熱気があるのは衝撃でした。アジアの盛り上がりがバレー界全体を変えていくのではないかと思わせる勢いがあるので、個人的にも非常に楽しみです。
――あらためて、現地やテレビ中継、配信で世界選手権を観戦する際、どんなところを見て楽しんでほしいですか?
福澤 一番の楽しさは、日本代表がどのチームと対戦する時も必ず平均身長は7~8cm下回っている、ということなんです。フィジカルや身長の高さが圧倒的優位とされるスポーツで、身長の低い日本代表が高さで劣る相手に勝っていくのは単純に面白いですよね。
そこから、どう勝っていくのか、と深堀りする。チーム間のつながり、レシーブからのつなぎでフィニッシュに至る過程。この流れを見ることがバレーボールで一番盛り上がるポイントです。
時速130kmのサーブが相手コートに突き刺さった、ブロックの上からスパイクを打った、ラリーの最後に3枚ブロックでシャットアウトなど、象徴的なシーンはいくつもありますが、僕がいろいろな試合を見て、解説してきたなかで感じるバレーボールの一番盛り上がる瞬間は、レシーブを上げて、つないで、最後のラリーを取りきった瞬間です。
そして、それがもっとも数多くできるチームが日本です。どんな試合でも1試合に一度はロングラリー、メガラリーがありますが、日本はそのラリーで最後に点を取って勝てるチームであり、レシーブや粘りで相手にプレッシャーがかけられるだけでなく、最後に打ち切れる選手もたくさん揃っています。繊細さとダイナミックさ、この両方が揃っているのが日本バレーの大きな魅力だと思っているので、ぜひ多くの方々に見て、楽しんでほしいですね。
profile
福澤達哉(ふくざわ・たつや) 1986年7月1日生まれ、京都府出身。2005年、中央大学1年時に日本代表に初選出され、大学4年時の2008年北京五輪では清水邦広とともにチーム最年少で出場を果たした。翌年のワールドグランドチャンピオンズカップでは、32年ぶりの銅メダル獲得に貢献し、ベストスパイカー賞受賞。