男子バレーボール日本代表

大宅真樹インタビュー 前編

【謙虚な"王者のセッター"】

 大宅真樹(30歳/日本製鉄堺ブレイザーズ)は、日本男子バレーボール界屈指のセッターである。Vリーグでは4年連続のベスト6、2023-2024シーズンにはMVPも受賞。SVリーグ1年目も、サントリーサンバーズ大阪を天皇杯、チャンピオンシップ優勝に導いた"王者のセッター"だ。

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 もっとも、彼は驕(おご)ったところがない。

「確かに"優勝したチームのセッター"ですけど、『誰がトスを上げても、このチームは優勝できるでしょ』っていうのが本心です。あれだけスパイカーが揃っていたので。僕がサントリーに入ったおかげで、優勝の経験をさせてもらった感覚です。

 自分はスパイカーに生かしてもらっているセッターだし、それは所属チームでも、代表でも同じ。いいスパイカーがいるから、なんとなくできているだけです」

 大宅は謙虚すぎる言葉を口にし、パーマをかけた前髪を右手でかき上げ、小さく笑みを洩らした。

 セッター大宅の実像とは――?

 ネーションズリーグ2025、日本ラウンドのアメリカ戦でのこと。

 1、2セットを取った後の3セット目、大宅は22-22の場面でコートに入り、すかさずレフトの髙橋藍へ低い弾道のトスを合わせた。さらにアンダーパスでつなぎ、間接的に得点に絡むと、最後は勝利を決める髙橋のバックアタックもお膳立てしている。決勝ラウンド進出へ、ひとつの仕事を果たした。

「自分が信用できるところに上げただけで......正直に言えば、1本目のレフトのトスはミスでした。自分では"低くなりすぎた"と思ったけど、それで(ブロックが)振れて決まったっていうか」

 大宅は正直だった。

真面目で、誠実な印象を強くした。

「もちろん、得点につながった"運"も大事だと思っています。(ロラン・ティリ)監督も『勝つために必要な2パーセントの運をどうつかみ取るか。それがつかみ取れないと勝利できない』ってずっと言っているんですが、そこに対しては日ごろから取り組んでいますね。運をつかむため、あきらめない姿勢を忘れないようにやっています」

【髙橋藍とのコンビの精度がアップ】

 昨シーズンのSVリーグ、大宅は髙橋とコンビネーションを深めてきた。その切磋琢磨が、代表でも実を結びつつある。運も実力になるほどに、だ。

「シーズン序盤は2人とも、遠慮していたわけではないですけど、"少々悪くても決まればOK"で終わらせてしまっていて。『自分がなんとかするから』っていうのが(髙橋)藍のスタンスですし。

 ただ、自分はチームとしてもっとうまく回せるようにしたかったし、勝ちたいから、『本当に好きなボールを要求してほしい』って伝えました。それから、だんだんと『この時はもうちょっとこういうトスを』と言ってくれるようになりました。コンビが合わなかった時期が、今は自分たちのためになっていると思います。おかげで、土壇場でも積極的に速いパイプを使えるし、ハイセットでも任せられるので」

 昨年12月、天皇杯で2人のコンビネーションの精度は格段に上がった。

髙橋も同じことを話している。ただ、大宅のほうが、優勝よりもその過程に目が向いていた。

「天皇杯から変わりました。大会を通じて、徐々にコンビがよくなる感覚があったんです。自分のなかでは、1試合目から決勝までで、藍とのコンビの精度はすごく上がっていきました」

 大宅は柔らかい声で言った。セッターは実直にトスに向き合うしかない。それは地道な作業だろう。

 結局のところ、3枚ブロックが来ても点が決まったらOKで、1枚で打たせても決まらなかったら批判を受ける。それがセッターの因果で、丁寧に作り上げても思うようにはいかない。だからといって、少しでも手を抜けば報いを受ける。プロセスに没頭するしかないのだ。

「セッターは考えることが多すぎて、考えすぎるとマイナスに働くこともある。

でも、考えないのをやめないからこそ、いい方向に向くこともあって......メンタルも影響します。メンタルがいい状態の時に考え続けると、いろんな発想が出て、『今日は楽しい。できそう!』ってなるんですが、メンタルがよくない状態で『やばい、考えすぎてる』ってなると、初歩的なプレーもできなくなるんです」

 答えをこじらせるほどに、考え抜く。それがセッターの本分だろう。彼自身、自らをそう律しているように映った。

【最初はセッターをやりたくなかった】

 大宅がセッターを始めたのは、中3のJOCジュニアオリンピックカップ(全国都道府県対抗で、将来のオリンピック選手を発掘する)だという。バレーボール一家に生まれて7歳から始め、ずっとスパイカーだっただけに、最初は「やりたくない。楽しくない」が先行したという。

「身長を考えると、上に行くなら......」という周囲の声に従ったが、最初はしっくりこなかった。うまくいかないと、真っ先にセッターがやり玉に挙げられるのも嫌だったという。

「高校の時はきつかったですね。でも、子どもの時に女子バレーをよく見ていたんですが、なぜか(元代表セッターの)竹下(佳江)さんに目が行っていたんですよ。

試合のテレビ放送があると家族みんなで見ていたし、地元にVリーグのチームが来た時は、竹下さんの試合を観に行ったし......」

 大宅は優しい声で言う。それも縁だったに違いない。爆ぜるような思いを発散させていたスパイカーは、高校、大学でその思いをぎゅっと押し込め、"セッターになろう"と努めた。

「スパイカー気質だったんで、本当のところは目立ちたい性格だったと思います」

 彼はそう白状し、こう続けた。

「でも、それだとセッターはうまく回らないんですよ。自分を殺してでも、性格を変えないといけない。『自分が』って我が出ちゃうと、スパイカーのことを思えないトスになってしまう。セッターは"下に回って支える"、じゃないですけど、そういう性格であるべき。スパイカーをどう輝かせるのかを考えるのが、一番大事なんです」

 それゆえ、自分のなかに宿したスパイカーの心を抑え込んでいるように見える時があるのかもしれない。

「そうかもしれません」

 大宅はそう答えて笑った。その疼(うず)きも、彼の一部だ。

(後編:大宅真樹が語る日本代表セッターとしての覚悟「自分が関田さんになる必要はない」>>)

【プロフィール】

◆大宅真樹(おおや・まさき)

1995年4月23日、長崎県出身。

178cm。セッター。日本製鉄堺ブレイザーズ所属。大村工業高校1年時に春高バレー優勝。U-18、U-21、U-23と世代別代表を経験し、東亜大学からサントリーサンバーズ(現・サントリーサンバーズ大阪)に入団。チームを4度のリーグ優勝に導いた。昨シーズン終了後、日本製鉄堺ブレイザーズへの入団が発表された。

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