男子バレーボール日本代表

大宅真樹インタビュー 後編

(前編:大宅真樹はチームを勝たせるために我を抑える 髙橋藍にも「本当に好きなボールを要求してほしい」>>)

【関田と比較されることは「予想できていました」】

 8月23日、都内。9月13日に開幕するバレーボール世界選手権(世界バレー)に向け、男子バレーボール日本代表はコンビネーションを深めていた。

「もう一丁!」

 選手たちの声が会場に響き、周りも鼓舞するように手を叩く。

 大宅真樹はセッターとして、味方が上げたボールを宮浦健人、小野寺太志、石川祐希らに振り分けていた。それぞれ、タイミングや角度などをアジャストさせる。

【男子バレー】大宅真樹が語る日本代表セッターとしての覚悟「自...の画像はこちら >>

 次々と決まるスパイクにも、次のプレーへの思考を止めない。コートでは自在にスパイカーを操るが、同時に、彼自身が"セッターというポジションの自分を動かしている"ようにも映った。

「セッターを本気で楽しめているなって思うようになったのは、ここ2,3年ですかね。セッターって考えることが多いんですよ。マイナスな面をフォーカスされることも多くて、そういうのを考えると、なかなか楽しめなかったんです。メディア対応などで『バレーは楽しい』と言っている時も、本心で楽しめているかなって疑っていました」

 大宅はそう言って笑みを浮かべた。その用心深さこそ、セッターの資質なのかもしれない――。

 ネーションズリーグ2025、日本代表のセッターのポジションは注目の的になった。代表を支えてきた名手、関田誠大がケガの治療で休養し、大宅、永露元稀の2人が代わりに入った。2人は決勝ラウンド進出に貢献したが、関田のセットアップと比較されることは相当なストレスだったはずだ。

「今シーズン(の代表活動)に入る前から、そうなることは予想できていました」

 大宅は毅然として言った。

「関田さんと比較されるのはわかっていたし、『関田さんがいれば』って意見も出てくるかなって。でも、そこに関してはあまり考えていないですね。SNSもあまり見ないようにしていますし、黙らせるには結果を出すしかない。だからこそ、自分はチームを下から支えて、(石川)祐希、(髙橋)藍、宮浦(健人)が決められるように、って思います」

 彼は覚悟を決めていた。そもそも、多少コンビが合わないことは想定内だろう。これまでは関田がチームを回してきたわけで、大宅も永露も、新たにコンビを練り上げなければならない。技術だけではなく、セッターにはそれぞれのキャラクターにも差があるだけに、関田とは"異なる世界"をコートで構築して立ち向かうしかないのだ。

「関田さんがやっていたことに近づかないといけないのはわかっています。でも、自分が関田さんになる必要はない。

 自分には自分のよさがあって、永露には永露のよさがある。お互いがそこを理解し、試合でどんなパフォーマンスを見せるか。

2人ともそこにフォーカスできているし、どっちが出てもまったく違うバレーになるのは強みだと思っています。流れを変えたいとき、違うタイプのセッターがいることは武器になるはずですから」

【「祐希のほしいトスがわかってきた」】

 世界バレーに向けて、大宅には手ごたえがあった。ネーションズリーグでは、大会後半に入って出場機会が減ってしまったが、「戦う準備は整ってきた」という。それは彼のバレー観についての話を聞いた時、じわりと表出した。

「自分にとってのバレーの面白さは......たとえば、不安に思っているトスのコンビネーションがあったとします。それをどうにかしようと、映像を見ながら研究して、その次の練習で克服できた瞬間に、『うわ、やった!』って感じになります」

 大宅は楽しそうに言ってから、こう明かしている。

「今は(石川)祐希とのコンビのところで、すごくいい時間を過ごせていると思っています。祐希のほしいトスがわかってきました。説明は難しいんですが......そのトスは、今まで上げてきたレフトへのトスのなかで、僕が難しいと思っていた、あまり好きではない、得意としていないトスで......それをちょっとずつ上げられるようになってきました。だから、今はすごく楽しく練習ができています!」

 口角を上げる姿に、セッターの愉悦が滲んでいた。臨戦態勢は整った。

「世界バレーでは、自力で試合に出られるような機会を作りたいですね。

ネーションズリーグもそうでしたが、ベスト8の壁が高い。世界バレーで表彰台に立ったのもしばらく前のことですけど(1974年大会の銅メダル)、そこに行けたら自信になると思います。大会を戦えるのは楽しみだし、自分がどの位置の選手なのか、確認できるとも思っています」

 最後に、セッターの実像を探る質問をぶつけた。

――もしタイムマシンで過去に戻り、小学校時代にぼんやりと竹下(佳江)さんを観ていた"大宅くん"に会えたら、なんと伝えますか?

 大宅は間髪入れずに答えた。

「『早くセッターに変わりなさい』って言いたいですね(笑)。小さい頃からセッターをやってほしいですよ。性格、人間性も含めてセッターになれていたら、と思うので。

 スパイカーから転向したあとの高校時代はけっこうきつかったですからね。 スパイカーより自分が目立ちたい、自分が打ったら決まるのにってエゴが出てしまい、恩師からもそれを指摘されました。だから、子ども時代の自分に会えたら『すぐセッターをやりなさい』って言います(笑)」

――大宅くんはなんと返すでしょうか?

「シカトするでしょうね。『誰、こいつ?』って」

 セッターの作り出す世界は独特だ。

【プロフィール】

◆大宅真樹(おおや・まさき)

1995年4月23日、長崎県出身。

178cm。セッター。日本製鉄堺ブレイザーズ所属。大村工業高校1年時に春高バレー優勝。U-18、U-21、U-23と世代別代表を経験し、東亜大学からサントリーサンバーズ(現・サントリーサンバーズ大阪)に入団。チームを4度のリーグ優勝に導いた。昨シーズン終了後、日本製鉄堺ブレイザーズへの入団が発表された。

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