落合晃インタビュー後編(全2回)

【東京世界陸上】男子800m落合晃19歳の決意「日本記録は絶...の画像はこちら >>
 今シーズン、駒澤大入学後もしっかりと結果を残し続けている800mの落合晃は、9月13日から始まる東京2025世界陸上に向けて、調整を続けている。

 大学初戦となった4月12日の金栗記念では1500mに出場し、自己ベストの3分44秒18を出し、その2週後の日本学生個人選手権800mでは日本陸連が設定した世界陸上の開催国枠エントリー設定記録(1分45秒88)で走った。

続く、静岡国際ではセカンドベストの1分45秒16と調子を上げた。

 さらに、6月の日本選手権は1分45秒93で大会連覇を達成。世界陸上参加標準記録1分44秒50には届かなかったものの、環境が変わったばかりの難しいなかでも、最初から先頭を走る積極的なレーススタイルは崩さず、1分45秒台をコンスタントに出している。

 インタビュー後半では、駒澤大学への進学を決めた理由や、世界陸上の目標などを語ってもらった。

【環境変化はプラスになっている】

――800mで世界を目指そうと考えるなかで、進学先に駒澤大学を選んだのはどういう理由からですか?

落合晃(以下、落合) 大八木弘明総監督の「Ggoat」というプロジェクトは「世界のトップを獲る」という目標を掲げていて、僕の「世界と勝負したい」という思いと合致していました。それを体現できるなら、駒澤大で大八木総督に指導していただくのが一番だと思い、進学を決めました。実際に世界と戦っている選手たちと、種目は違うけど一緒に生活できるというのはすごく刺激を受けます。

――上京しての寮生活には戸惑いもありましたか?

落合 環境の変化は僕だけじゃないと思いますが、やっぱり1年目で寮生活にもまだ慣れていないし、大学が始まってからは授業もあって生活のリズムも変わったので最初は苦労しました。今は、少しずつ1日の流れもつかめるようになってきた感じです。

――環境の変化で苦しい部分はあったと思いますが、そのなかでも6月の日本選手権までに1分45秒16も出して、世界陸上の開催国枠エントリー設定記録もクリアと、やるべきことはできていますよね。

落合 最低限のことはなんとかやりつつ、45秒台はコンスタントに出せているのでそこはよかったと思います。ただ、5月末からのアジア選手権の決勝は世界陸上を目指すには一番いいというか、先頭が1分44秒5くらいのペースでいけていたので、そこに乗ればというレースでした。でもうまくコンディションが合わせられず5位に終わったのがすごく悔しかったです。

――7月には菅平合宿も行なったそうですが、大学に入って練習内容に変化はありますか?

落合 今回の菅平はスタミナ面を強化するためにジョグの距離を少し増やして走ってきましたが、基本的な練習のサイクルは高校時代のメニューに沿って組んでくれています。少しプラスアルファしている部分もあり、練習の質としては上がっている感じがします。

400m5~6本のインターバルで、高校時代は最後にスピードを上げても53~54秒でしたが、今は56秒からビルドアップしていき、最後は51秒や50秒まで上げていくような練習をしています。

――駒澤大に入って、これまでと違うなと手応えを感じる部分はどういうところですか?

落合 大八木総監督には「有酸素系がまだ弱い」と言われていますが、春先に高地トレーニングとしてアルバカーキ(アメリカ)に行かせてもらい、そこで有酸素強化の練習をできたことで、4月の1500mで自己ベストも出せたし、今のコンスタントに走れる結果に繋がっていると思っています。今はトラック1周目の余裕というのが一番の課題だと思っているので、そこにも持久走の動きがすごく必要だと思っています。

――スプリントはどうですか?

落合 400mの高校時代のベストは48秒76でしたが、今走れば47秒台では走れると思うのでレベルアップはできていると思います。100mは未知数ですが、加速走なら11秒0から10秒台はいけると思います。もちろん800mで日本記録を更新したい気持ちも強いけど、まずはケガをせずにやろうという感じです。

【東京世界陸上】男子800m落合晃19歳の決意「日本記録は絶対に更新して少しでも爪跡を残せるように」
環境の変化にも対応しながら成長を続けている photo by Murakami Shogo

【世界を見据えて突き進む】

――大学に入って、もう一度体を作り直しているという感じだと思いますが、高校生で日本記録を出した重荷はありませんか?

落合 世界で見ると1分44秒8では戦えないと思うし、「日本ではなくて世界を見て、もっと頑張らないと」というのはすごく思います。大八木総監督にも「世界で勝負しなければダメだ」と言われているので、重荷にはなっていません。だから、日本選手権も「最低限日本記録更新はしたい」と思っていたので、勝っても悔しさのほうが強かったです。

――これからの世界との戦いを考えると、最大の目標にするのはどこになりますか。

落合 やっぱり(2028年の)ロス五輪が一番大きな目標かなと思います。その先はまだわからないのでまずは学生のうちに五輪に出場をして、そこで勝負したいという思いが一番強いです。

――パリは経験をしてみたい五輪でしたが、今年の世界陸上はどう考えていますか?

落合 日本記録は絶対に更新して少しでも爪跡を残せるように頑張りたいと思っています。あわよくば準決勝に駒を進められたらいいなと。東京開催なのは環境としても大きなチャンス。アジア選手権の時とは違ってしっかりコンディションも整えて一番いい状態で臨めると思うので、そこで結果を出したいなと思います。

――そのために、課題にしているのは何ですか?

落合 ラストで競り勝たなければいけないということは常に言われているし、ラスト200mを25~6秒で上がらないとダメだと思っています。600mを1分17秒で通過してラストを26秒で上がれば43秒台が見えてくるので、そのラップをイメージして練習に取り組んでいます。そのプランを実現して世界の選手と競り合い、そこで何かをつかめたらなと思います。

――そのあとの課題というのも見えていますか?

落合 今すぐではないですが、総監督には「長い距離の練習も必要だぞ」とは言われています。海外の選手は10マイル走などをやると聞いているので、自分も10マイルくらいまでは走れるようになりたいと思います。それも考えて駒澤大にしたというもの少しはありますけど、駅伝に関しては今のところ「ちょっとすみません」という感じですね(笑)。

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 中学・高校時代はほぼひとりで練習をしていたという落合。今は1500mを目標にしている3年の工藤信太朗が仲間となって、精神的な余裕も生まれ、楽しく練習ができていると笑顔を見せる。

 上京する時に思っていた「都会を散策してみたい」という思いは、大会の時に通った新宿駅の人の多さに圧倒されて実現していない。「滋賀と比べると今は寮の周りだけでもいろいろあるので、それで十分です」という彼は、陸上だけに集中する学生生活を送っている。

 19歳の落合が東京世界陸上で日本陸上界の新しい扉を開くのか、男子800mの予選は9月16日に行なわれる。

Profile
落合晃(おちあい こう)
2006年8月17日生まれ。滋賀県出身。滋賀学園3年時のインターハイ800mで、1分44秒80を出して日本記録を更新。久しく注目を集める選手が出てこなかった800mでの日本記録更新に注目が集まった。今年4月に駒澤大学に進学し、大八木弘明総監督のもと、世界のトップを目指している。

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