山中慎介インタビュー 後編
(中編:山中慎介から見た井上尚弥、アフマダリエフとも準備は万端 階級を上げた中谷潤人に噂される次戦は「やっかいな相手」>>)
9月14日、名古屋・IGアリーナで開催されるメインイベント「井上尚弥 vs アフマダリエフ」。そのセミファイナルに、WBO世界バンタム級王者・武居由樹(大橋)が登場する。
さらに、武居の将来的な対戦相手として、期待されるのが那須川天心(帝拳)。その天心に関しても、井上拓真(大橋)とのWBC王座決定戦が急浮上してきた。注目のカードが交錯するバンタム級戦線について、元WBC世界王者・山中慎介氏に話を聞いた。
【武居はより強くなっている可能性が高い】
――武居選手は前戦、1ラウンドTKOでユッタポン・トンデイ(タイ)を下しました。あの試合をどう見ましたか?
「ベルトを獲った(ジェイソン・)モロニー戦、V1を果たした比嘉大吾(志成)戦としんどい試合が続きました。でも、前回のユッタポン戦に快勝して、いい弾みになったと思います。右肩のケガからの復帰戦でもありましたし、あの勝ち方はメンタル的にも大きな意味を持ちますよね」
――KOアーティストらしく、"スカ勝ち"で勢いがつきそうですね。山中さん自身も、そういった経験がありますか?
「ありました。僕も1ラウンドでのKO(4試合)はありましたけど、その試合後の数カ月は過ごし方も変わるんですよ。いい感触が残ることで、さらに調子が上がっていく。その意味でも、今回に向けて武居はより強くなっている可能性が高いと思います」
――挑戦者のメディナ選手は、プロキャリア29戦25勝(18KO)4敗。どんな印象ですか?
「曲者でタフな相手ですね。
――ファイトスタイルは?
「攻撃的なんですが、いわゆるガンガン前に出るブルファイターという感じではないです。前に出ると見せかけて、中間距離での攻防もうまい。スタミナもあるので、武居が変につき合ってしまうと怖い部分もあります」
――武居選手が勝つためのポイントはどこにありますか?
「やっぱり、自分の距離で戦うことですね。特に前手の使い方やジャブ、ロングから左右のパンチをいろんな角度で打てる武居のスタイルを出していければ。得意とする長い距離で自分のリズムに持ち込めるかがカギだと思います。
メディナが負けた西田は距離感に非常に優れた選手ですが、武居もリーチがあってその点では上手いと思いますよ。自分の距離で戦えるかどうかで、展開は大きく変わるでしょうね」
――左のロングでの上下の打ちわけは、武居選手の得意のパターンですね。
「あれは相手からすると、かなり読みにくいと思います。ロングのボディーやアッパーもありますし、うまく使っていきたいですね」
――武居選手が"倒せるパンチ"をどこで当てるかにも注目です。
「前回のユッタポン戦では、初回に3度のダウンを奪ってTKO勝ちでした。
【天心と拓真、対戦が実現したらどうなる?】
――武居選手には、以前から期待されるカードもあります。同じキックボクシング出身の天心選手との一戦。一方、天心選手には、井上拓真戦の話題が急浮上しています。WBCの最新ランキングでは、天心選手が1位、拓真選手が2位に入っています。
「そうですね。中谷(潤人/M・T)がWBCとIBFのベルトを返上して王座が空位になれば、ランキング上位の1位と2位が争う形になるのは自然の流れでしょう。"天心 vs 拓真"という組み合わせが実現する可能性は十分ありますよね」
――この試合が実現した場合、山中さんはどう予想されますか? スタイル的には似ている印象もありますが。
「そうですね。どちらもスピードとスキルが持ち味で、どんな展開になるか非常に予測が難しいカードです。
――どちらが勝つのか読みにくい、非常に面白いカードですね。
「はい。王座決定戦としてもファンが納得するだけの実力者同士ですし、"すごいマッチメイクがきたな"という印象です。ただ、まだ正式発表されていませんから、現時点ではあくまで噂の段階ですけどね(笑)」
――天心選手にとっては、(ジェイソン・)モロニー(オーストラリア)戦、そして拓真戦と、元世界王者を倒してベルト狙う流れになります。
「本人も陣営も、"納得できる相手に勝ってチャンピオンになりたい"という気持ちは強いはずです。そもそもこの対戦カード自体、つい最近まで話題にもなっていなかった組み合わせですよね。まさかこの2人の対決が浮上してくるとは思っていませんでした」
―― 一方で、拓真選手はIBF王座を狙っているという話もありましたね。
「そうなんですよ。IBFのランキングでも現在4位につけていますから、そちらで王者を目指すのかなと思っていました。
――拓真選手は、どんなタイプのファイターだと見ていますか?
「まず、技術面は間違いなく世界トップレベルです。その上で、何を足していくかが常に課題としてあるのかなと。パンチ力を急に伸ばすのは簡単なことではありませんが、ボクシングはそれがすべてではない。本人が持っているポテンシャルは、さらに引き出せる選手だと感じています」
――倒す力については、天心選手にも通じる部分では?
「そうですね。天心も試行錯誤の真っ最中でしょう。彼もスピードやテクニックに優れています。決定力をどう高めていくか、そこは、拓真ともよく似た課題かもしれませんね」
――仮に実現した場合、どういった試合になると予想されますか?
「間違いなく、高いレベルの技術戦になるでしょう。KO決着になるとは考えにくいですが、非常に見ごたえのある試合になると思います。KOだけがボクシングの魅力ではないですし、そう感じさせてくれるような内容になる気がします。お互いにディフェンス力が高く、運動量やフットワークにも優れている。序盤から終盤まで、緊張感のある技術戦が続く展開になるでしょうね」
――また正式に決まったら、あらためて詳しく伺います。
「はい。
【プロフィール】
■山中慎介(やまなか・しんすけ)
1982年滋賀県生まれ。元WBC世界バンタム級チャンピオンの辰吉丈一郎氏が巻いていたベルトに憧れ、南京都高校(現・京都廣学館高校)でボクシングを始める。専修大学卒業後、2006年プロデビュー。2010年第65代日本バンタム級、2011年第29代WBC世界バンタム級の王座を獲得。「神の左」と称されるフィニッシュブローの左ストレートを武器に、日本歴代2位の12度の防衛を果たし、2018年に引退。現在、ボクシング解説者、アスリートタレントとして各種メディアで活躍。プロ戦績:31戦27勝(19KO)2敗2分。