9月13日、マニラ。試合後の取材エリアで、髙橋藍は、現地のフィリピン人記者の質問に流暢な英語で答えていた。
どんな状況でも、笑顔さえ作って受け応えできるのは髙橋の度量と言えるか。
その日、バレーボール男子世界選手権(以下、世界バレー)で日本(世界ランク5位)はトルコ(同16位)にセットカウント0-3とストレートで敗れている。9番のラマザン・マンディラーチのサーブに苦しみ、5本のエースをとられたことで流れを分断された。1次リーグは3試合の短期決戦。初戦の黒星でダメージがないはずがない。
「向こう(トルコ)のリズムで勢いがありましたし、日本は選手ひとりひとり、チーム全体が乗りきれませんでした。相手のサーブがよかったので、それで崩されて得点を決めきれず、失点を重ねてしまいました。でも、それを跳ね返す力をつけていくことが必要で、敗北から強くなれると思っています!」
彼は前向きに語りながら、コートで起きていた"逆風"も振り返っている。
髙橋は"守りから勝負を旋回させる"アウトサイドヒッターと言えるだろう。オールラウンドのプレーが持ち味で、レシーブは彼の代名詞であり、この日も余すところなく技量の高さを披露していた。「レセプション(サーブレシーブ)は耐えられていたかな、って思います、9番のサーブ以外は......。そこは(リベロの)山本(智大)選手と耐えて、どうにか流れを変えられたらよかったと思いますけど」
髙橋がそう振り返ったように、ディフェンス面では瓦解を防いでいた。数字は雄弁で、レセプションは成功7本で最多、効果率も最高25%だった。また、ディグ(スパイクレシーブ)も成功10本で最多、効果率も75%と同じく最高だ。髙橋が拾うと、宮浦健人が弾丸のような一撃を決め、石川祐希がフェイントで敵コートに落とすシーンもあった。
【「託されたときに決めきる」】
「初戦の硬さとか、そこまで悪かった感覚はあまりなくて」
その肌感覚は正しい。
一方、髙橋のアタック成功本数は4本だった。彼のような攻撃もトップレベルなサイドとしては忸怩たるものがある数字だろう。
「自分はスパイカーなので、得点をとることで(気持ちが)上がっていく、というところもあって......」
彼は正直に気持ちを明かしている。守備はチームを旋回させるが、彼自身を乗せるのはアタックなのだろう。ただ、トルコに研究されていたか、あるいはサーブで押されていたことも影響したか、ほとんど2枚、もしくは3枚のブロックにつかれていた。
「自分たちにとって、間違いなく(ブロックディフェンスが)ストレスになっていました。もちろん、それでも決めきることができたり、リバウンドを取れていたり、もあったんですけど。やはり、決めきれなかったポイントもあったので、それを得点につなげられないと厳しいし、そこは自分的にはもう少し打数もあってもよかったかなって思うのですが......。チームでもっとコミュニケーションを取っていけるように」
髙橋は言葉を選んで言った。その語尾に無念さが滲んだが、すぐにポジティブな思考を被せた。
「自分自身は(セッターの)大宅(真樹)選手を信じて跳んでいるので、大宅選手のフィーリングで、託されたときに決めきる。そこでチームを救っていける、というのが自分に必要な力だと今日あらためて思いました」
髙橋はサントリーサンバーズ大阪で天皇杯、SVリーグで優勝を手にしているが、そこでコンビを組んでいたのが大宅真樹だった。シーズンを重ねることでコンビを成熟させてきた自負はある。3セット目は、そのコンビのよさが片鱗を見せていた。髙橋はそのトスをクロスへバックアタックで次々に決め、13-13と流れを引き寄せたかに見えたが......。
勝負師の明朗さがある髙橋は、敗北に囚われず、すでに次の算段を整えていた。
――次の(15日)カナダ戦は負けられなくなりましたが、どんなメンタルの作り方で挑みますか?
筆者が訊ねると、彼は少し思案する仕草をしてから言葉を紡いだ。
「そうですね......やるしかないって思っています。自分たちがやってきたことを出すのみ。試合のなかでも成長できると僕は思っているし、それが自分たちの強さにつながっていくと思うので。カナダは間違いなくいいチームで、いいサーブ、いいブロックがあるので、そこに対して日本はスマートに戦っていけるか。(1次リーグの残り)2試合勝つしかないので、しっかりと気持ちを切り替えて」
髙橋は明るい表情を浮かべて言った。暗さは似合わない。逆境で反撃する強さは、彼のもうひとつの代名詞だ。
「引きずっても仕方ない。やるしかないと思っています!」
自らを叱咤するように言って、取材エリアを出てからファンゾーンに入ると、まるでロックスターが登場したような大歓声を受けていた。