福田正博 フットボール原論

サッカー日本代表の9月シリーズ。メキシコ戦、アメリカ戦の2試合で福田正博氏は得るものが多くあったという。

現時点のベストメンバーで臨んだメキシコ戦で、森保一監督が手にした収穫とは?

【個々の選手の力量を感じた】

 サッカー日本代表の9月のテストマッチは、メキシコに0-0、アメリカに0-2の1分1敗だったが、森保一監督や選手、チームスタッフにとっては多くの収穫があった2試合になった。

サッカー日本代表で楽しみな3人を福田正博が挙げる W杯本番へ...の画像はこちら >>
 まず来年のワールドカップへの糧となるのは、アメリカという開催国を舞台に、移動なども含めた試合間隔中2日を経験できたことだ。交代枠が5人に増えて以前よりも1試合あたりの選手への負担量を軽減できるとはいえ、それでも過酷な条件下で選手をいかに休ませることができるか。ベスト8以上を狙う日本にとって、本番を想定したシミュレーションは必ず生きてくるはずだ。

 メキシコは試合前まで、日本をナメていたのだろう。ワールドカップでの経験や実績、FIFAランクは日本の17位に対してメキシコは13位。彼らには、格下である日本代表を分析して試合に臨むより、優先すべき自分たちのテーマがあるようなプレーを見せていた。

 それでも以前までの日本なら、メキシコにやられていただろう。だが、いまの日本はしっかりとした守備から攻撃を展開し、前半はメキシコを一方的に押し込んだ。勝利こそ奪えなかったが、相手を苦しめたところに日本サッカーの成長が表われていた。

 とりわけベーシックなところの高まりは見逃せない。メキシコ相手にマンツーマンで守れたのは、日本の個々の選手の力量が高まっているからだ。マンツーマンでついたところで、1対1が弱ければあっさり守備は破綻してしまう。

球際の強さ、攻守の切り替えの速さ、セカンドボールの回収など、そういった部分がいまの日本は格段にレベルアップしている。

 加えて、久保建英(レアル・ソシエダ)、三笘薫(ブライトン)、堂安律(フランクフルト)、鎌田大地(クリスタル・パレス)、上田綺世(フェイエノールト)などの選手たちが、相手のプレッシャーを受けても簡単にボールを失わない。失わないどころか、ワンプレーでプレッシャーをかいくぐって前へと運べる。彼らがボールを失えばDFラインは上げられないが、彼らがボールを前に運べばDFラインを高くでき、相手を押し込むことにつながった。

 ただし、来年の本番でも「メキシコ恐るるに足らず」かと言えば、それは話が別だ。W杯本番で対戦することになれば、メキシコも日本を細かく研究し、よさを封じるべく対策をして試合に臨んでくる。そこを打ち破っていかなければ、ベスト8以上には進めない。

【メキシコ戦で光った3人】

 そのメキシコ戦のスタメンが、現状の日本のベストメンバーと言える。センターバック陣は故障者が多いながらも経験のある板倉滉(アヤックス)が存在感を見せ、GK鈴木彩艶(パルマ)、ボランチ遠藤航(リバプール)、FW上田のセンターラインがしっかり仕事をした。

 とりわけ、上田は高く評価している。ゴールこそ奪えなかったものの、ボールをキープしたり、時間をつくったりと、日本代表の攻撃が機能するための難しい仕事をメキシコ相手にしっかりと果たしていた。

 鎌田は遠藤とともに守備的MFに入ったが、有機的な選択肢であることを証明した。今回は故障などもあって招集外だった守田英正(スポルティング)、田中碧(リーズ)を含め、ほかのボランチにはない特長が鎌田にはある。

彼が中盤の底にいることで、攻撃に転じた時にほかの選手が攻め上がれる時間をつくり出せるのが魅力だ。守備面では、もともとガツガツ当たらずともピンチの芽を摘み取れるポジショニングのよさがあるし、強度も以前に比べて増している。

 スペインのようなボールを保持するチーム相手にはより守備強度が高い選手を置きたくなるが、鎌田を配置すれば日本はボール奪取後のボール保持時間を長くすることができ、ひいては相手の攻撃時間を削ることにつながる。そうした選択肢を森保監督が手にできたのは収穫だった。

 その鎌田とともに、オフ・ザ・ボールの動きで不可欠な存在感を示していたのが南野拓実(モナコ)だ。ボールを持って個で仕掛けられる三笘や久保、堂安といった選手たちに注目が集まるが、彼らが持ち味を発揮しやすいようにスペースをつくる動きでチームに貢献しているのが南野であり、鎌田だ。メキシコ戦でもそうした動きを見せていた。

 南野は、前回のカタールW杯予選ではチームの中心的な存在だったが、リバプールからモナコへの移籍によってコンディション面が整わず、W杯本番では悔しい思いをした。だが、以後はモナコでポジションを確保し、結果を残し続けて南野本来のパフォーマンスを取り戻した。

 スペースに出ていったり、反転したりというプレーはもとより、守備面でのタスクもしっかりこなせる。森保監督からの信頼も厚いだけに、南野が今シーズンをケガなくしっかり送ってくれることが、日本代表のW杯での成否につながるだろう。

【両サイドのアタッカー起用は楽しみなチャレンジ】

 森保監督の采配で言えば、メキシコ戦の両サイドに攻撃的な三笘薫、堂安律のアタッカーを配したのは驚きだった。

過去の日本代表がアジア予選とW杯本番では戦い方を変えたように、今回もW杯に向けて3―4-2-1の両サイドアタッカーには守備力の高い選手に変更すると予想していたからだ。

 もちろん、W杯本大会でもグループリーグの組み合わせだったり、決勝トーナメントに進めば、相手との実力の兼ね合いで変わる可能性はある。しかし、現時点での森保監督は、日本がW杯アジア予選を通じて築きあげたものをベースに、それをブラッシュアップしていこうという考えなのだろう。

 こうした取り組みができるのも、先述した日本の個々の力量が高まっているからだ。守備を固めるところから始まる過去のW杯での戦いから、次のステップに踏み出す。これは楽しみなチャレンジだと思うし、今後に予定されている親善試合でどういう準備をするのかにも注目していきたい。

>>後編「W杯本番に向け、アメリカ戦で光った選手とは?」

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