9月15日、マニラ。バレーボール男子世界選手権(世界バレー)、日本は"勝たなければ次がない"カナダ戦に臨んでいた。

初戦でトルコにストレート負けを喫し、もうあとがなかった。

 髙橋藍はひとりコートで吹っ切れていた。やるべき道筋が見えているようで、迷いがなかった。惨敗を喫したトルコ戦から切り替えていた。

「それぞれの意識の問題なんですけど」

 髙橋はそう言って、カナダ戦を振り返っている。

「昨日の練習で、自分は福澤(達哉、日本代表で長く活躍した)さんと話す機会があって、『藍は藍らしく』って言われたことで、だいぶ気が楽になりました。"チームのために"というのを考えすぎていたと思います。自分がまずは得点をとっていく、そこで"主人公になる"じゃないですけど、それでチームを引っ張っていけばいいかなって。それが今日のプレーにつながったかなって思いますね」

 彼はチーム内で際立った数字を叩き出していた。トルコ戦では4点と低調だったが、カナダ戦は最多11点に増えた。サーブもエース2本だけでなく。相手の守りを崩していた。

守りのレセプション(サーブレシーブ)、ディグ(スパイクレシーブ)の回数も最も多く、積極性が目立った。フェイクセットのような美技も見せ、アグレッシブな姿勢が彼のファンタジーを引き出していたと言える。

 にもかかわらず、チームは再びセットカウント0-3(20-25、23-25、22-25)でストレート負けだった。

「力不足です」

 髙橋は無念さが滲む声音で言っている。

【男子バレー】髙橋藍「ロス五輪への1年目? 関係ない」無類の...の画像はこちら >>
 何が試合の分岐点だったのか?

 トルコ戦に続きカナダ戦も、それを語るのが難しい試合の連続だった。ずっと悪い流れだったわけではない。しかし、拮抗したなかで流れを失った。

 カナダ戦の髙橋は、その狭間で悪戦苦闘していた。

 たとえば1セット目は、6-6になるまで勝負は拮抗し、髙橋がブロックアウトを狙ったスパイクを成功させ、勢いに乗れそうな気配もあった。しかし、そこから6連続失点。ルーク・ヘアのサーブで崩され、自慢のディフェンスに乱れが出た。

「間違いなく、自分たちで難しい状況を作っていました」

【引き寄せた流れを手放した日本】

 髙橋はコートに流れていた空気を説明している。

「1セット目、向こうのペースのまま失点してしまって......そこは正直、トルコ戦から少しネガティブな雰囲気を引きずっていた選手も多かったと思います。自分は"切り替えないと"という思いだったし、そこでアグレッシブにやっていく。それが自分の強みだと思っていたので。アタック決定率も、サーブも、個人的にベストとは言えないけど、"勝つための数字を出せた"とは思っています。ただ、チームとしてその流れに持っていかないと」

 1セット目終盤、髙橋はもう一度、流れを引き寄せる。自らのサーブで連続ブレイクし、エースも奪って、13-18から16-18まで追い上げた。しかし、チームの勢いは出ず、再び突き放されてしまった。

 2セット目も、髙橋はパイプ攻撃でバックアタックを炸裂させ、7-6と逆転に成功している。それが口火になったのか、エースである石川祐希のブロックポイントが飛び出し、サーブはネットの先にかけて相手コートに落とすようなエースで、10-7としてチームごとリズムに乗ったかに見えた。ところが、カナダに連続ブレイクを許し、10-13と逆転されてしまった。

 2セット目の終盤も、髙橋は19-24と絶体絶命からエースを決めてブレイクし、"サーブで崩し、ブロックディフェンスを優位に粘り、しぶとく得点する"というお家芸を見せて23-24と迫った。ただ、"時すでに遅し"の感もあり、最後まで攻めたサーブはネットに阻まれた。

「あれを前半から出したかったですね。あそこであの形に持っていくことができた、というのは日本代表の力だし、プラス材料でしょうけど......その流れを3セット目につなげないといけなかったと思います。あそこで乗りきれなかったのが、もったいない。どの状況でもあの形を作り出せるように、自分たちが求めていかないといけないし、もっと出せるはずで......」

 髙橋は口惜しそうな表情を浮かべた。

 3セット目も、髙橋は8-8に追いつくブロックタッチのスパイクを決め、9-8と逆転する得点の契機を作るサーブも打っている。再び逆転されたが、フェイクセットで宮浦健人の一撃をアシスト。緊迫した状況での創造的プレーは、彼の真骨頂だった。

 しかし、チームはすぐに流れを手放してしまった。

 日本が世界5位にランクされる実力やアジアでの人気にあぐらをかいていたわけではなかっただろう。特別、士気が低かったわけでもない。

「ロス五輪に向けた1年目」

 そんな大義もあった。ただその分、目の前の切迫感を欠いていなかったか。

――パリオリンピック後、代表の1年目で"これから作っていく"というムードだったのでしょうか?

 質問をぶつけると、髙橋は少し考えながら答えた。

「それぞれ考え方はあると思うんですが......自分は、そこは関係ないなって。日本代表としての責任、覚悟は常に持っているべきもので、コートに立って戦っていると、調子のいい悪いは出ますけど、そのなかでも100%の力を出し、"チームが勝つため"に戦えないと」

 カナダ戦の髙橋は"勝負の天才"ぶりをあらためて披露した。相手が動揺する姿も見抜き、自らが潮目になっていた。吹っ切れた彼は希望だった......。

「今回の負けを忘れず、まずは"予選通過も難しい"という事実を受け止めて」

 自他ともに認める無類の負けず嫌いが、「敗北を受け止める」と言う。捲土重来。王者になるための順序だ。

 17日の世界バレー最後のリビア戦が、1年目の集大成となる。

編集部おすすめ