〈サーブで崩し、ディフェンスを優位に動かし、しぶとく拾って攻めに転じる〉  

 それは日本男子バレーが活路を見出してきた仕組みと言えるだろう。言い換えれば、攻守一体。

組織としてひとつも欠けることはできない。その精度、丁寧さこそが日本の拠りどころだ。

 バレーボール男子世界選手権(世界バレー)予選ラウンド、日本はトルコ、カナダと戦い、一敗地にまみれている。2試合連続ストレート負けで敗退が決定した。昨今、国際大会でメダルを争ってきたチームにとって、ゆゆしき事態だ。

「試合の結果は、もちろん悔しいです。ただ、(ロサンゼルス五輪までの)4年サイクルの1年目で。チームの熟練度というか、歯車が噛み合わないところは多く、個の力で戦うところが多かったと思います」

 日本代表、小野寺太志は静かな口調で語った。小野寺は今の男子バレーの躍進の一翼を担ってきたひとりと言える。日本バレーが誇るオールラウンドなミドルブロッカーは、世界バレーのコートで何を感じていたのか。

【男子バレー】世界バレー敗退で小野寺太志が見せた静かな闘志 ...の画像はこちら >>
「まだ試合を見返していないし、"もっとこれができた""あれができた"という反省は帰ってからしようと思っています。それよりも、期待してくれていたファンに申し訳ない。
あらためて、"日本男子バレーは強い"と思ってもらえるようにしないと」

 取材エリアの小野寺は、後ろに手を組みながら質問に答えていた。フィリピンでも人気で、サーブのたびに「タイシ」と呼ぶ声が響いた。

「毎年、フィリピンで試合をやっているんで。日本戦にもたくさん応援の方が来てくれて、今日もホームのような試合でした。それは感謝したいですし、結果を出すことで応えたかったですが......」

 その真摯さが、彼の土台になっているのだろう。

「周りと比べて、できないことのほうがずっと多いですよ」

 昨年行なったインタビューで、小野寺は自らのバレー人生を語っていた。

「高校も3年生の時、全国大会に負けて出られなくて......当時、東北高校は十何年連続で春高に出場していたのに、僕の代で負けて出られなくなり、負けた悔しさは今も残っています。全部が順調に進んできたわけじゃない。それこそ、石川祐希が同年代でユースからずっと一緒ですけど、彼は日本の世代のトップで、どんどん先に行ってしまう。髙橋健太郎も先にシニア代表に入り、彼らと自分を比べて"勝ててない"って感じて。海外遠征も"自分はなぜ選ばれているの"って」

【高さに苦しんだミドルブロッカー陣】

 しかし驕らずにバレーと向き合ったからこそ、高さだけでなくオールラウンドな能力を極めたのだろう。戦術的ポジショニングなど含めて「ミスが少ない」と言われる世界有数のミドルブロッカーになった。

「特につなぎでミスをしない」

 パリ五輪で日本代表を率いたフィリップ・ブラン監督は、小野寺のディテールを高く評価していた。

 ネーションズリーグでは2023年に銅メダル、2024年は銀メダルを獲得した史上最強のジャパンで、小野寺は異彩を放った。パリ五輪は準々決勝で敗れたが、終盤に貴重なクイックを決めるなど、常に試合を動かした。

 パリ五輪後、彼はこう誓っている。

「4年後のロス(五輪)を見据えていかないといけないって思っています。パリではメダルを目指して獲れず、悔しさが残る大会でした。ロスでリベンジじゃないけど、みんなが『メダルを獲れる』って言ってくれるチームを作らないと。そのためにSVリーグでも高みを目指して。あの舞台を、あのシーンを経験した選手は12人しかいないんで」

 有言実行だった。昨シーズンは所属するサントリーサンバーズ大阪で、天皇杯優勝、SVリーグ初代王者を経験。この1年、ひとつひとつ積み上げてきた。

 しかし、世界バレーでは失意の結果になった。

 日本のミドルブロッカー全体が高さに苦しみ、彼自身も忸怩たる思いだっただろう。たとえばカナダ戦は、敵が高い壁を作っていた。カナダのブロックポイントは10点だ(日本は2点)。

「カナダのほうがサイズはあって大きくて、ブロックポイントやスパイクで劣ってしまう。日本人はサイズで劣る分、頭を使ったプレーをしていかないといけないと思っています。ブロック、スパイクで冷静な判断していかないと、高さで劣る分、ミドルというポジションは頭で戦う必要があって。そこが日本人ミドルに求められることだと思います」

 日本は細部で優って勝利を重ねてきたが、この大会は相手が上回っていたか。敵ブロックに当たったボールがなぜか相手につながれる、そんなシーンも少なからずあったが、それは偶然ではあるまい。強かった日本はその奇跡を生み出していたはずだ。

 ミドルは攻守の土台で、そこのディテールが狂うと命取りになる。

「バレーは相手があることなので、自分たちのプレーだけでどうこうってわけじゃなくて。相手のプレースタイルだったり、対応の速さだったり、ブロックディフェンス含め、チーム全体で対処しないといけない」

 小野寺はそう言って、やや饒舌になった。

「今日の試合で言うと、とくに真ん中の攻撃に多く通されてしまった分、自分がいい展開を作れず、ディフェンスにもうまくつなげられませんでした。そこはミドルブロッカーとして、特に反省しないといけないところ。何より、追いつきそうな展開を作ったのはサーブの部分だと思うので、サーブで崩したあとのブロックディフェンスの対応の精度だったり、点につなげるチャンスを多く作る必要がありますね」

 彼は丁寧に説明した。築き上げてきた日本スタイルをアップデートできるか。大事な役回りが小野寺に託されるはずだ。

「このメンバーで達成できなかったことを、来年もっと強くなった日本で成し遂げるため、悔しさを抱えながら過ごせればと思います」

 小野寺は静かに闘志を燃やすように言った。

 17日のリビア戦は消化試合ではない。
 

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