米識者10人が語る井上尚弥vs.中谷潤人 前編

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 WBA/WBC/IBF/WBOスーパーバンタム級チャンピオンの井上尚弥vs. WBA暫定王者ムロジョン・アフマダリエフ戦のゴングが愛知県・名古屋市のIGアリーナに響くおよそ6時間半前、米国ネバダ州ラスベガスのアレジアント・スタディアムでは、7万482名の観客が思い思いにリングを見つめていた。

 NFLラスベガス・レイダースのホームである同会場のキャパシティは6万5000と伝えられていたが、それを上回る数のファンが場内を埋め尽くしている。

間もなく、4冠統一スーパーミドル級チャンピオン、サウル・"カネロ"・アルバレスと、ライト級王者から増量しながら全勝を続けるテレンス・クロフォードが花道に現れる。ファンは胸を熱くさせ、両チャンピオンの登場を待った。

【ボクシング】井上尚弥vs.中谷潤人を米識者10人が予想 モンスターの勝利予想も多いが「中谷が井上をストップする」という意見も
観客で埋め尽くされたアレジアント・スタディアム

 統一スーパーミドル級タイトルマッチは、UFCやMMAの興行を手掛けてきたTKOグループが仕切っていた。同社にとって初のボクシングイベントであり、メディアも取材申請をいつもと異なる形で行なわねばならなかった。ボクシングのビッグマッチではあまり見かけないMMAジャーナリストが相当数やってきている。

 そのなかのひとり、ラスベガス在住のアレックス・ベフニンは言った。

「来年の東京ドーム興行も、このくらい盛り上がるかな。ところで、コメントは集まったかい?」

 うなずくと、彼は「何人?」と聞いてきた。

「10名」

「ほう、そりゃあよかった」

 アレジアント・スタディアムが興奮の坩堝(るつぼ)と化す2日前の記者会見場、前日の計量会場、そして、カネロvs.クロフォード戦のプレスルームで、筆者は来年5月に予定される井上尚弥と中谷潤人の日本人頂上決戦について、識者たちにコメントを頂戴した。

 ベフニンの専門はMMAであり、足繁くボクシングマッチに通う人間ではない。が、「井上のパフォーマンスには注目している」と話した。

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アレックス・ベフニン

「井上はキャリアを通じて、自分より大きな相手と戦ってきた。

ライトフライ級だった男が、スーパーバンタム級の頂点に立つなんて、ものすごいチャレンジだ。パウンド・フォー・パウンドであることは疑いようがないし、マニー・パッキャオのように、もっとアメリカでファイトするべきだ。それだけのポテンシャルのある選手だからね。ボクシングを"超える"存在になれるよ。

 このところ、ダウンを喫しているけれど、それは相手が強者だからさ。中谷潤人もいい選手だが、井上のレベルじゃない。来年5月の試合は、井上にとって簡単なものとなるだろう。モンスターの強さがあらためて浮き彫りになると思う。4ラウンドで終わると考えているよ」

 プレスルームで声をかけたボクシング記者歴4年の27歳、『Reportero Deportivo』のイブラヒモ・マヨラールも即答した。

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イブラヒモ・マヨラール

「井上がKO勝ちするでしょう。中谷もとてもいい選手だと思いますが、レベルが違います。なんといっても、井上はトップ中のトップです。

チャンピオンのなかでも極上。モンスターらしさを発揮して、8ラウンドで中谷をノックアウトすると僕は思います」

 30年以上、ボクシングを取材してきた50歳のラジオ・ラヒームは、「ぜひ、俺も東京ドームで生観戦したいな!」と目を輝かせた。そして「高校時代からラジオショーを手掛け、今や生業としているから、このファーストネームで呼んでもらっているんだ」と白い歯を見せた。

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ラジオ・ラヒーム

「井上についてはバンタム級4冠を統一した試合から。中谷はこのラスベガスで、アンドリュー・モロニーを最終ラウンドで沈めた一戦以来、とても注目している。井上は小さい身体ながら、本当に偉大な選手だ。スキルもテクニックも高い。中谷は賢くて、パンチ力を備えている。

 攻撃面は五分五分じゃないかな。ディフェンスで勝敗が決まるように思う。ただ、実績では井上が有利。チャンピオンが井上で、挑戦者が中谷という点でもね。

内容が互角なら、ジャッジは井上にポイントを与えるだろう」

 ラヒームは額に手をやり、ひと呼吸置いてこう語った。

「僅差の判定で井上が防衛して大きな論議が起こり、それでリターンマッチ、という流れになるんじゃないか。俺は、そう考えるね。井上とアフマダリエフのファイトは明日の早朝4時からだっけ? カネロvs.クロフォード戦の取材を終えてクタクタになっているから、起きられないだろう。井上vs.中谷戦については、またじっくり話そうぜ」

 4人目は『RING』誌のビデオニュースを担当する22歳の英国人、ルイス・ハート。祖国の大学を卒業したばかりで、瑞々しい若者だ。

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ルイス・ハート

 「井上選手のことは、グラスゴーでやった試合から知っています。2019年の5月、WBAチャンピオンだった井上選手と、IBF王者だった19戦全勝12KOのエマヌエル・ロドリゲスがバンタム級統一戦で当りましたよね。井上選手も、17連勝中で15のノックアウトがありました。

全勝同士の一戦でしたが、格の違いを見せた井上選手が2ラウンドで呆気なく試合を終わらせてしまった。強烈なインパクトでした。本当にびっくりしましたよ。

 中谷選手は、KO of the Yearに輝いた2023年5月のアンドリュー・モロニー戦が印象に残っています。パウンド・フォー・パウンドを争う実力者のぶつかり合いですから、激闘になるでしょう。歴史に残る好勝負となるに違いありません」

 ハートは、「見通しを立てるのは難しいなぁ。どんな展開になるんだろう」とつぶきながら、「うーん、若干、井上選手が有利かな。でも、やっぱり50-50ですね」と答えた。

 ボクシングの現場に出て25年、『AMFM』誌で記事を執筆し、TV番組のホストも務めるポール・サルフェン(50歳)はテキサス州在住。今年5月に井上がラスベガスでラモン・カルデナスに8回KO勝ちした一戦を「克明に覚えている」と言った。

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ポール・サルフェン

「ここ数年、井上尚弥が日本のボクシング界を支えてきたのは、よく知っている。ライトフライ級からどんどん階級を上げ、すごみを増してきた。だが、カルデナス戦の2ラウンドにダウンを喫したシーンには目を疑った。

 彼は左フックでダメージを受けることが多い。気が強く、打ち合いを好む選手だから、接近戦となればリスクが生じるのは当然だ。

それにしても、あのパンチのもらい方はいただけない。昨年5月のルイス・ネリ戦の教訓が生かされていないように私は感じた」

 サルフェンは黒縁の眼鏡をかけ直しながら、訥々(とつとつ)と低いトーンで話した。

「井上の最大の武器は爆発力だ。ダウン後、カルデナスの左フックを警戒しながら巧みにコントロールして沈めたのは彼らしい。でも、実力的に格下である選手に倒されたのも事実。ディフェンスに問題があるように思えてならない。

 一方の中谷は、長身でリーチのあるサウスポーだ。ファイティングスピリッツも確かなものを持っている。何よりも井上より5歳若い点がアドバンテージだよ。何ラウンドかはわからないが、私は中谷が井上をストップすると見る。中谷のパンチは、カルデナスやネリより危険だからね」

(後編:井上尚弥と中谷潤人の対決は「"WAR"になる」と米識者 「井上はバンタム級時代のほうが特筆だった」との声も>>)

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