福田正博 フットボール原論

■大混戦のままシーズン終盤を迎えているJ1。最後に頂点に立つのはどのチームなのか? 福田正博氏が例年の優勝争いから、今季上位の残り試合の勝点計算をした。

【Jリーグ】大混戦のJ1優勝ラインは「勝点73」と福田正博 ...の画像はこちら >>

【ハードワークが継続している京都】

 J1は各チームとも、残り10試合を切る大詰めに突入し、優勝争いの激しさが増している。Jリーグは上位から下位までの実力差が小さいのが特徴とはいえ、この時期に京都サンガF.C.が首位に立ち、3位に柏レイソルがつけていることを開幕前に予想できた人は皆無ではないかと思う。

 京都の快進撃は、FWラファエル・エリアスの存在が大きい。昨シーズンは前半戦に勝点を奪えずに低迷したなか、夏場に加入したラファエル・エリアスが15試合で11得点と大爆発し、J1残留を決めた。今季は開幕から高い得点力を見せつけ、29試合終了時点で得点ランキング1位タイの16ゴール。ストライカーとして申し分のない結果を残している。

 ただ、それだけではないのが京都の強さだ。ラファエル・エリアスは5月上旬から7月末までの10試合のうち故障の影響などで7試合を欠場し、3試合に途中出場しただけだったが、この間のチーム成績は5勝3分け2敗と他の選手たちが気を吐いた。

 代わりに1トップをつとめたFW長沢駿のほか、MFの奥川雅也、松田天馬、米本拓司、さらにDFの福田心之助らゴールを決めきって勝点を積み上げた。それができた根底には、曺貴裁(チョウ・キジェ)監督が課すハードワークが必要なサッカーのなか、暑い夏場でも選手たちの運動量が落ちなかった点にある。

 また、前半戦にスタメンとして中盤を支えた川﨑颯太が7月にマインツへの移籍で抜けたが、その穴を感じさせないほどほかの選手たちが躍動している。チーム全体で攻守に激しさを出し、そこからつくるチャンスをラファエル・エリアスが高確率でモノにする。

 9月12日のサンフレッチェ広島戦でも試合終了目前にラファエル・エリアスが決めたことで貴重な勝点1を手にした。

ただ、ラファエル・エリアスは次節(9月20日)の清水エスパルス戦はイエローカードの累積で出場停止。エース不在のなか勝点を奪いきれるかは注目だ。

【監督のサッカーがハマっている柏】

 柏レイソルは、今季から就任したリカルド・ロドリゲス監督のサッカーがハマればやるのではと予想していたが、これほどの結果を出していることには驚きしかない。

 柏のスタイルはボールを保持する時間が長いため攻撃的だと思われがちだが、実はボールの保持時間を長くすることで守備のリスクを低くしている。リーグ最少の負け数、リーグ2位タイの引き分け数がそれを物語っている。

 シャドーをつとめる小泉佳穂と渡井理己、右ウイングバックの久保藤次郎などの選手たちのうまさが目を引くが、リカルドサッカーの体現には1トップの垣田裕暉の存在が不可欠だろう。前線で体を張り、泥臭くプレーする。彼がガムシャラに相手ボールを追うことで、中盤やDF陣の守備がしっかり機能し、チームのサッカーが成立していると言ってもいいほどだ。

 FWには日本代表の細谷真大もいるが、プレー時間を比べれば、垣田の存在がいかに大きいかがわかるだろう。ただし、柏が優勝を勝ち取るためには、細谷の力は必要なものだ。「どうしても1点がほしい」状況で、細谷がスピードなどの持ち味を発揮してゴールを奪えれば、柏が栄冠に近づくことになるはずだ。

 鹿島アントラーズは、シーズン前半は接戦を勝ちきり、勝点を積み上げて首位を快走していたが、6月下旬から7月にかけて3連敗。それまでのようにギリギリの試合展開をモノにできずに停滞した。

それでもズルズルいかずに、8月のアビスパ福岡戦や清水エスパルス戦は相手に先制点を奪われながらも、なんとか同点に追いついて引き分けに持ち込み、優勝戦線に踏みとどまれたのは大きい。

 そして第29節は、湘南ベルマーレに3-0と快勝。京都のラファエル・エリアスと並ぶ得点ランク1位のFWレオ・セアラや右SBの濃野公人などに、シーズン前半の調子を取り戻すようなゴールが生まれたことも、この先の終盤戦に向けては大きい。

【優勝への勝点計算の仕方】

 第29節を終えた時点での上位陣の順位は、勝点55に京都(1位)と鹿島(2位)がいて、勝点54で柏(3位)とヴィッセル神戸(4位)がつづき、FC町田ゼルビア(5位)とサンフレッチェ広島(6位)は勝点51だ。

 勝点差だけにフォーカスすると、首位・京都から町田や広島までは勝点4差。まだまだ行方はわからないように映るのだが、リーグ戦の優勝争いにはまた違う見方もある。

 Jリーグの優勝ラインの基準は、シーズン38試合であれば勝点76。独走になれば76以上になるし、混戦になれば76よりも低くなる。ただ、混戦になっても勝点70を割るケースはなかなかない。そして、この「76」という数字は「1試合あたり勝点2を取る」計算だ。2試合だと勝点4、3試合だと勝点6。つまり優勝のためには2勝1敗以上のペースで進んでいかないといけない。

 さて、この勝点76という視点に立つと、現時点(第29節終了時)で勝点55の京都と鹿島は残り9試合で7勝2敗の成績が必要になる。勢いに乗れば不可能ではないものの現実的なラインで考えると、ここから残り試合を「勝点2ペース」で進み、勝点18を上積みすると73。今季の優勝はこのあたりでの着地になるのではないか。残り9試合で勝点18を稼ぐには、6勝3敗とか5勝3分1敗などの成績が必要になるが、これはかなり現実味が増すだろう。

 一方、この勝点73に柏、神戸、町田、広島が到達すると考えると、ハードルはグッと高まる。特に、柏を除いた3チームはACLを戦うスケジュールもあり、残り試合が他チームよりも1試合少ない。勝点54の神戸が残り8試合で勝点73に到達するには、勝点19を上積みする必要がある。これは2勝1敗ペースでは足らず、8試合を6勝1分け1敗で乗りきって到達する計算だ。町田や広島はさらに厳しい状況にある。

 ただし、最後まで何が起きるかわからないのがサッカーであり、ドラマチックな展開が待ち構えているのがJリーグでもある。

 ましてや逃げる3チームというのは、初優勝を狙う京都、久しぶりの優勝を目指す鹿島と柏である。選手たちのほとんどが優勝争いの経験を持ち合わせていない。

経験がないというのは歯車が狂った時に立て直せないリスクがある。

 目の前の試合がひとつ終わるたびに優勝への重圧が大きくなっていくなか、選手たちがプレッシャーから逃げずに立ち向かうことができるのか。そこは優勝への大きなポイントになるだろう。

 果たして最後に笑うのは―――。今季もJリーグは最終節まで目が離せない展開が続きそうだ。

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