プレミアリーグ第5節、三笘薫所属のブライトンはホームでトッテナムと対戦する。昨季は17位に沈んだトッテナムだが、監督をトーマス・フランクに代えた今季は、開幕以来4戦して3勝1敗。
片やブライトンはここまで1勝1分2敗。マンチェスター・シティに勝利したものの、フラム、エバートン、ボーンマスという最近の成績に照らすと格下に値するチームに勝つことができなかった。調子はいまひとつ。移籍でチームを去った選手の穴が埋まっていない状態だ。三笘の調子もチーム同様いまひとつ。自慢のドリブルで観衆を沸かせることができていない。
しかし、前戦のボーンマス戦では得点を奪うことはできた。後半3分、右ウイング、ヤンクバ・ミンテ(ガンビア代表)の折り返しにファーサイドで反応。同点とする今季初ゴールを頭で押し込んでいる。
"ごっつぁんゴール"とは言わないが、絶賛されるべきすごいシュートを決めたわけではない。そこに居合わせたポジション取りのよさ、得点への嗅覚は讃えられるが、印象度ではアシスト役を演じたミンテの右サイドにおけるウイングプレーのほうが勝ることになった。得点とアシスト。価値が高いのは得点だという解釈に従えば、三笘の評価はミンテを上回ることになる。しかし、欧州の採点サイトに目を通せば、ミンテの評価は三笘を上回っていた。試合を通しての評価で勝ったのは左ウイングではなく、右ウイングだった。
得点機以外に三笘は見せ場を作ることができなかった。ウイングプレーはこの日も不発。ウイングらしさの象徴である縦突破は開幕して4戦で、まだ1度も決まってない。日本代表の2試合(メキシコ戦、アメリカ戦)を加えれば6試合連続だ。前方向への推進力と相手の逆を取る力、そしてなにより果敢さを発揮できずにいる。ブライトンの調子が上がらない一因に見える。
三笘がブライトンでプレーし始めたのは2022-23シーズン。今季で4シーズン目を迎えるが、縦勝負の頻度は年々減っている。
【ウイングかストライカーか】
三笘のポジションはあくまでもウイングだ。そしてサッカーは、ゴールライン際からのマイナスの折り返しこそが最上級の決定機となる。得点の可能性が最も高まる瞬間だ。とはいえ、折り返すだけではアシストが精一杯で、ゴールは望めない。アタッカーとしての名声は上がらない。ウインガーといえども、得点はほしい。ウイングはそんなジレンマを抱えながらプレーしている。
昨季の10ゴールはそういう意味で意義深かった。単なるウインガーからアタッカー色の強いウインガーに変貌を遂げたシーズンだった。
ただし、ウインガー色が薄れたことは事実だった。ウイングのスペシャリストとしての魅力に、特に終盤、翳りが見えたシーズンだった。その流れが今季はさらに加速した様子だ。
日本サッカーの話をすれば、かつては中盤にいい人材が集中する傾向があった。小野伸二、中田英寿、中村俊輔がその代表になるが、それがいまやウイングに代わった。三笘、そして久保建英はその代表だ。ウイングはつい10年前まで日本にほとんど存在していなかった文化だ。
その象徴が、1990年にブラジルから帰国し、日本リーグ時代の読売クラブに入団した三浦知良だ。ブラジル時代、全国選手権で左ウイングとして名を売っていたカズは、帰国当初、両国のギャップに悩まされた。鳴り物入りで入団したにもかかわらず、最初のシーズンにカズが挙げたゴールはカップ戦等を含めても4点。
カズはその気配を察し一念発起する。ドリブルが得意なウインガーから、点が獲れるストライカーに転身を図ろうと自分自身を徹底的に改造。その結果、1996年のJリーグで得点王に輝くことができた。だが、セリエAのジェノアでそれは通じず、1シーズンで帰国する憂き目に遭った。
日本に4-3-3や4-2-3-1がなかった時代だ。カズがウインガーとして勝負する環境が国内に用意されていれば、その後も欧州でウイングとして十分通用したのではないかと筆者は見ている。少なくともブラジル時代のカズは、かなりキレキレのウインガーだった。その進化形が三笘であり久保なのだろう。
【ウイングバックの感覚に慣れてしまった?】
三笘はなぜ縦勝負を挑まなくなったのか。森保一監督が採用する3-4-2-1の4の左(左ウイングバック/WB)というポジションと関係があると見る。WBはウイングより平均ポジションが20メートルほど低い。
より高い位置で構えるウイングは、ポジション的に自軍ゴールから遠く離れた場所になる。ボールを奪われる場所としてリスクは低い。「さあ、縦勝負を挑んでください」と言われているような場所なのだ。自慢のドリブル&フェイントを披露するに相応しい舞台である。
タッチライン際を縦に勝負しないウイングは、近距離で目を凝らすことになるスタンドの観衆には魅力的に映らない。
ポジション的に、あるいはプレッシング的に、奪われても構わない場所であるにもかかわらず、三笘は絶対に奪われないプレーをする。安全運転に終始する。縦と真ん中の関係が50対50なら相手は迷うが、縦という選択肢がないとなれば残るは真ん中。
ストライカーは点を獲ってなんぼだが、ウイングはストライカーではない。抜いてなんぼとは言わないが、主戦場はあくまでタッチライン際だ。縦勝負をトライしない姿に、見る側が魅力を見出すことはできない。
トッテナム戦で三笘と対峙する相手の右SBはペドロ・ポロ。スペイン代表のレギュラークラスの好選手だ。レベルの高いSBである。つまり、ここで活躍すれば目立つ。名前を売るチャンスなのだ。
今季初となる縦突破、マイナスの折り返しを決めることはできるか。その期待は得点と同じくらい、いやそれ以上に高まる。
日本代表の浮沈のカギを握ると言っても過言ではない三笘。その動向から目を離すことはできない。