久保建英は日本代表のアメリカ遠征でメキシコと戦った後、所属するレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)に戻って、ラ・リーガで"古巣"レアル・マドリードと戦っている。
どちらの試合も勝つことはできていない。
だが、久保が"らしさ"を見せたのは、間違いなく後者だった。プレー内容の違いは、今後の久保、ひいては森保ジャパンを論ずるのにひとつの目安になるかもしれない。
「遅すぎる投入だった」レアル・マドリード戦の久保の起用法に関しては、現地でも批判的な声が少なくない。レアル・マドリードが前半途中で退場者を出し、ラ・レアルが数的優位だったこともあるだろう。「うまく使えていない」という意見もある。
その不満は、久保がレアル・マドリードを相手にダメージを与えていたからこそ、と言えるだろう。久保は出場時間30分足らずでも、強力な武器になっていた。ピッチのなかでやるべきことを見つけ、周りと連係しながら、攻め崩す姿は実に痛快だった。
今シーズンのラ・レアルは開幕から4試合勝ち星がなく、「うまくいっている」とは言えない。
しかしながら、イマノル・アルグアシル監督からセルヒオ・フランシスコ監督が継承した"チームの仕組み"は、壊滅的な歪みを起こしていない。それぞれの選手が連係するために起用されており、それをトレーニングしているのも伝わってくる。サッカーの匂いはしてくるのだ。
たとえば、レアル・マドリード戦で久保は右サイドアタッカーで起用されているが、フラン・ガルシア、アルバロ・カレーラス、アルダ・ギュレルに三方を囲まれるも、パス交換で打開する手段を持っていたし、新入団のファンタジスタ、カルロス・ソレールとのワンツーでは何度も相手ディフェンスを動揺させていた。連係を見せる一方、縦への鋭い突破も効果的で、シュートに行く場面もあった。結局ゴールは決められなかったが、右サイドを中心に躍動していた。
【下位脱出をかけての戦い】
一方、森保ジャパンのメキシコ戦で、久保は2シャドーの一角で起用されたが、活躍は単発だった。試合最大の決定機だった南野拓実のボレーを演出した場面では、同じ左利きの堂安律とのコンビで崩した。他にも可能性を感じさせるコンビだったのは間違いない。ただ、回数が少なすぎた。
そもそも、堂安が右ウイングバックというのは控えめに言ってトリッキー、率直に言えば"宝の持ち腐れ"で墓穴を掘っていた。言い換えれば、仕組みとして破綻していたのである。堂安、三笘薫、前田大然、伊東純也など欧州のトップチームで得点力を輝かせる選手を、なぜウイングバックで起用するのか?
余談になるが、久保が出場しなかったアメリカ戦は半ばジョークだった。ウイングバックの問題だけでなく、長友佑都を左センターバックで起用する答えをどう導き出したのか(FC東京でいいプレーをしたのは右サイドバックで、だった)。後半は4バックに変えたが、望月ヘンリー海輝はサイドバックでは技術が足りず、守備対応も頭を抱えるほど悪かった。とどめにセンターバックふたりは3バックが基本の選手たちだった。
森保ジャパンの欠陥が表面化し、久保の活躍が凡庸の域を出ないのは、自明の理と言える。
森保ジャパンでの久保は、才能を半分眠らせている。トップ下か右サイドアタッカーかといった論争はあるが、それ以前の問題だろう。チームの仕組みに欠陥があって、適材適所ではない場合、組織が機能するはずはない。
久保は近い距離でパートナーを得ることで単騎での突破にも迫力が増すし、機動力を脅威に無数の選択肢からダメージを与え、相手を間合いに入れない。
「コンビネーションに優れている点こそ、久保の才能」
ラ・レアル関係者は絶賛しているが、チームの仕組みがあって、優れたボールプレーヤーが近くにいた場合、手がつけられなくなるはずなのだ。
レアル・マドリードのポルトガル代表、手練れのカレーラスでも、久保の素早さに翻弄されていた。コースを切って対応するも、わずかでもコースを作られる、あるいはワンツーで崩され、クロスを上げられてしまう。そこでジリジリと間合いを詰めてボールを奪いに行ったところ、完全に裏を取られてしまって置き去りになる場面もあった。
ラ・レアルで久保を取り巻く環境も、楽観的とは言えない。開幕4試合勝ち星なしは深刻である。しかし、土台に本質的な不具合があるわけではない。
19日(現地時間)、ラ・レアルの久保はベティスと下位脱出をかけて戦う。