9月4日、東京世界陸上前の公開練習では、「17歳の高校生で出られるのが一番うれしいです。それに初めての世界陸上が東京開催ということで、うれしさがさらに大きくなりました」と、目を輝かせていた久保凛(東大阪大敬愛高校)。

本番に向けてはこう語っていた。

【東京世界陸上】涙の予選敗退 注目の17歳・久保凛はなぜ「何...の画像はこちら >>
「叶うなら強い選手と走りたいと思っています。できれば、世界陸上2大会連続2位で、パリ五輪では優勝しているキーリー・ホジキンソン選手(イギリス)と走りたいです。プレッシャーのあるなかでも自分の走りをされていると思います。自分は今回が初めての挑戦だし、まだ世界には名前が知られていないからこそ、思いきって挑戦できる部分もあると思います。彼女に食らいつくような走りをしたいと思っています」

 7月下旬のインターハイでは、左膝の裏を傷めた状態ながら800mと1500mで計3レースを走っていた。さらにそのあともケガで2週間ほど練習を積めない時期があった。久保はそのときの心境を、次のように振り返る。

「不安な時間でしたが、そこからはうまく調子を戻していい感覚がつかめてきています。万全な状態というわけではないですが、ケガを言い訳にするわけにはいかないので、しっかり調子を戻して頑張っていきたいと思います」

【経験したことにないレースに戸惑い】

 そして迎えた初めての世界陸上で、久保は言葉どおり調子を戻していたものの、厳しい洗礼を浴びた。

 9月18日、イブニングセッションで行なわれた女子800m予選。憧れのホジキンソンは第1組を走って1位通過を果たしていた。第3組に登場した久保は、パリ五輪銀メダリストで世界ランキング2位のツィデ・ドゥグマ(エチオピア)と走った。

 久保は内側の3レーン。ドゥグマは最初の100mを最速の13秒86で入り、オープンレーンもすかさず先頭に立ったが、久保は外から内側に殺到する選手たちとかぶり、前に出られなかった。

「前半は3、4番手につけてレースを進めたかったのですが、最初のスピードも足りなかったのに加えて、外からかぶされた時にちょっと遠慮をしてしまったところがありました。自分の持ち味を発揮するレースができませんでした」

 さらに不運だったのは、前の2組がともに400m通過が59秒台前半と速かったのに対し、久保の走った3組は先頭のドゥグマが1分00秒05に抑える展開に持ち込んだため、集団の隊形が崩れず、固まった状態で身動きが取れなくなってしまったことだ。力の差があれば一瞬スピードを緩めてうしろから外側に抜けることもできるが、それを実行できるほどの経験と勇気はなかった。

 結局、前の選手のペースに合わせるしかなかった久保は、落ちてきた選手をひとり交わしたものの、記録は2分02秒84の7位で予選敗退が決まった。

【悔し涙を力に成長する】

 レース直後から悔し涙を流し続けていた久保は、ミックスゾーンでも赤い目をして言葉を詰まらせながら記者の質問に答えていた。

「大会が始まる前からたくさん応援をしていただいて幸せでしたし、楽しんで走ろうと思っていたけれど、前半から全然うまくいかなくて......。スローペースになると絶対に勝てないということはわかっていました。何もかもうまくいかなくてラストまで何もできずに終わってしまいました」

 苦い思いをしたなかで収穫もあった。

「高校生のうちに世界陸上に出たいとずっと思っていたので、まずは出場できたことが収穫だと思います。でもレースでは本当に何もできなかったので、まだ力不足だというのをあらためて感じることができました。

それも今回よかったかなと思っています」

 久保は、海外の選手たちのような激しい位置取り争いをするレースの経験が足りていないが、現状、競り合う選手がわずかしかいない国内のレースで経験を積むのは難しい。この世界陸上で、同じ競り合いでも2位に入ったアジア選手権とは違う、格段にレベルの高いレースを経験できたことは貴重だ。

 今後、さらに上を目指すならば競り勝つために何が必要なのか、克服しなければならないことは何か、肌で実感できたのは大きな収穫だろう。

「うしろについてのスローペースは、経験したことのないレースでした。そのなかでゴチャゴチャになったり、ほかの選手に体が当たってバランスを崩したり......。これも海外のレースでは当たり前のことだと思うので、もっと海外の試合に出て経験を積むのも必要だと思いました」

 これから先に向けて、久保はこう続ける。

「世界でもしっかり通用する選手になることが目標。まだ全然通用もしていないし、世界の舞台で思いきったレースができていないことも弱い部分だなと感じたので、またイチから磨き直して、もっと強い久保凛を見せられるように頑張りたいと思います」

 17歳で初めて経験した世界陸上での悔しさは、彼女が本気で目指す世界挑戦への第一歩になった。

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