現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 久保建英はベティス戦で先発復帰するもチームは再び敗北を喫し、開幕から5試合未勝利が続いている。

 今回はレアル・ソシエダの地元紙『ノティシアス・デ・ギプスコア』で同クラブの番記者を長年務めるマルコ・ロドリゴ氏に、今季の久保のプレーを分析してもらった。

【攻撃に関与する回数は増えた】

 代表戦で負ったケガの影響がまだ残る久保建英はチームにあまり貢献できておらず、レアル・ソシエダはラ・リーガで低迷している。開幕から5試合を終えて2分3敗と成績不振に陥るチームにとって、目前に迫る第6節マジョルカ戦の勝利は、シーズン序盤の重要なターニングポイントとなる。その直後に昨季の王者バルセロナとの非常に難しいアウェーゲームを控えていることを考えるとなおさらだ。

久保建英の今季のプレーを地元スペイン人記者が分析「シュートの...の画像はこちら >>
 時期尚早ではあるが、セルヒオ・フランシスコを監督に据えたことが適切だったのか、サポーターの間で疑問視する声もすでにあがっている。一方、久保をはじめとする選手たちがピッチで新監督を助ける活躍をほとんどできていないのも事実だ。

 今季の久保はラ・リーガ4試合で先発し、1試合のみベンチスタート。バレンシアとの開幕戦(1-1)で得点を挙げて幸先のよいスタートを切り、第2節エスパニョール戦(2-2)では同点劇の立役者のひとりとなった。流れが変わったのは第3節オビエド戦(0-1)からだ。ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)が1部に昇格したばかりの相手に初黒星を喫しただけでなく、久保の出来もおそらく今季最低のものだった。

 その後の2試合はフィジカル面の問題により輝けなかった。インターナショナルブレイク後の第4節レアル・マドリード戦(1-2)は、メキシコとの親善試合で軽く捻挫し、サン・セバスティアン到着時にもまだ足を少し引きずっていたこと、代表戦後のチーム練習に1度しか参加できなかったことが影響し、途中出場。第5節ベティス戦(1-3)は痛みに顔を歪めながら交代した。

 シーズン序盤の低迷を不安視するラ・レアルサポーターは今、久保を苦境に立たされたチームを牽引すべき存在だと認識している。

本来のポテンシャルを信頼しているからこそ、今以上の活躍を強く求めているのだ。役割の変化により攻撃に関与する回数が増えたことは昨季から最も進歩した点であるが、それでも現時点ではまだ十分と言えないようだ。

【シュートの精度は期待されているほど高くない】

 昨季までの久保はイマノル・アルグアシル前監督のもと、ピッチを広く使うためにサイドに張りつくプレーを求められ、多くの試合で活躍の場が制限されていた。一方、今季はより多くの自由を与えられている。これは、過去3シーズンでラ・レアルから去っていったダビド・シルバやミケル・メリーノ、マルティン・スビメンディなどが担ってきた役割を久保が今季、引き継ぐ番になったことを意味している。

 自由度が高まった久保は、以前ほとんど足を踏み入れなかったエリアに頻繁に姿を見せ、サイドと中央を行き来し、MF陣と連係しながらペナルティーエリア手前を動き回り、近年、相手に読まれやすいと批判されていたラ・レアルの攻撃に大きな活力をもたらしている。

 しかし何よりも重要なのは、最終局面におけるプレーの精度と判断力だ。久保は試合の流れをよく理解し、戦術眼に優れ、周囲で起きているあらゆることをよく把握している。この特性を生かし、時間とスペースが限られている場合でも、常にほぼ正しい決断を下せている。

 問題はその後の、頭の中で描いたシュート、クロス、ラストパスを実行する瞬間だ。彼のすばらしいアイディアはうまくいかず、結果につながらないことが多い。それは当然彼のスタッツ、そして得点数に悪影響を及ぼしている。

 サン・セバスティアンの人々は、久保の重要な働きがあまり数字に反映されていないという印象を持っている。

これは特に昨季、顕著だった。セルヒオ・フランシスコは、「久保にもっとゴールに近づくことを求めている」と話していたが、初得点を挙げたバレンシア戦ではうまくいったものの、試合を重ねるごとにその勢いは失われている。

 シュート自体は悪くない。左足は正確で力強く、相手GKを脅かすだけの十分な威力を備えている。しかし、シュートの精度は、得ている決定機の数を考えると、期待されているほど高くない。久保は右サイドから中に切り込み、ファーサイドを狙うシュートを打つ傾向にある。この彼らしいプレーは数々の美しいゴールを決める原動力になっていた。だが、相手ゴールから大きく外れてしまうシュートが数えきれないほどあるのも事実だ。

【クロスのクオリティーは?】

 久保のクロスのクオリティーについては多くの議論があり、しばし批判されることもあるが、これは特に彼を責めるべきではない。というのも、久保はふたつの点で明らかに不利な立場に置かれているからだ。ひとつ目は利き足と反対のサイドでプレーしているため、ふたつ目はクロスを生かせる優れたストライカーがいないためだ。

 さらに久保はダブルマークを受けるのが常になっている。この状況に直面した場合、ゴールラインまでボールを運び、得意ではない右足でクロスをあげるしか選択肢がない。

一方、利き足の左サイドから上げた時は、常に正確なボールを供給していることを特筆しておきたい。

 ここで前述したFW陣の問題点が浮上する。センターフォワードを務めるのはミケル・オヤルサバル、オーリ・オスカールソン、ジョン・カリカブルだが、いずれも空中戦に優れているとは言えない。これはラ・レアルが長年抱えている欠点であり、クロスをあげる選手の精度が低いという印象を生む一因となっている。これは久保だけでなく、他のチームメイトにも言えることだ。

 上記は主に流れのなかでのプレーに関するものだ。一方、久保のセットプレーは他の選手と比べて効果的でない。

 ラ・レアルは今季、アストン・ヴィラからセットプレーのスペシャリストであるホセ・ロドリゲスをコーチングスタッフに迎えた。彼はここまで、同じ左利きの久保よりも力強いボールを蹴るセルヒオ・ゴメスやブライス・メンデスにキッカーを任せている。

 久保のキックは正確だが、味方の頭に向かってより緩やかに飛ぶため、相手ディフェンスに軌道を読まれ、クリアする時間を与えてしまう。これは久保が改善すべき点のひとつである。

【ベティス戦は足首の問題が影響か】

 ベティス戦の久保は足首の問題が影響したのか、パフォーマンスは再びよくなかった。

彼はまた、いつもと少し異なる役割を担っていた。

 ラ・レアルは当初、久保を攻撃の起点にすると思われたが、シーズン序盤のアンデル・バレネチェアの目覚ましい活躍により、攻撃の大部分を左サイドに集中させるようになっている。これは今後、久保にとってプラスに働く可能性があるだろう。

 左サイドで生まれた連係のおかげで久保は、ボールをフリーでもらうことができた。これによりダブルマークを受けず、ジュニオル・フィルポと何度か1対1の局面で対峙したが、この有利な状況を決定機に結びつけることはできなかった。

 これらのプレーの多くは前半に行なわれ、後半の早い段階で1-2のリードを許した直後にチームは崩壊した。久保は後半21分に交代を余儀なくされたが、明らかなフィジカル面の問題を抱えながらピッチを去った。

 この1週間ずっと足首をケアしながら過ごしてきた久保とラ・レアルにとって、次節マジョルカ戦は憂鬱なシーズンを好転させるべく、是が非でも勝利しなければならない重要な試合となる。

髙橋智行●翻訳(translation by Takahashi Tomoyuki)

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