後編:連覇に向かうドジャース 日本人2投手が担うもの
【メジャー最高級の先発投手と呼べる内容と結果】
もう"メジャー最高級の先発投手"と呼んでいいのだろう。ロサンゼルス・ドジャースの山本由伸は2年目の今季、ここまで29試合で167回2/3を投げて、11勝8敗、防御率2.58と好成績をマーク。防御率は1年目の3.00から大きく良化させ、リーグ2位につけている。
「ヤマモトはうちのチームにとって本当に欠かせない存在だ。十分な援護はできていないけど、それでも彼は動じることなく、常に自分の仕事に集中し、チームに勝利のチャンスを与え続けてくれている。だからこそ、彼はナ・リーグでもトップクラスの投手なんだと思う。安定感が本当にすばらしい」
9月上旬、デーブ・ロバーツ監督が述べた賞賛は、正直な思いであることに違いない。ブレイク・スネル、タイラー・グラスノー、佐々木朗希など、今季もドジャースの先発投手陣は多くの故障者が続いてきた。そんななかで山本こそがいわゆる"Safety Blanket(安心毛布=心のよりどころ)"。27歳のエースの存在がなければ、ドジャースがナ・リーグ西地区首位を走るのは難しかったはずだ。
特に9月6日、ボルチモア・オリオールズ戦で9回2死までノーヒッターを続けた投球はあまりにも見事だった。"あとひとり"のところでジャクソン・ホリデーに右越え本塁打を許して快挙達成はならなかったものの、スポーツニュースなどでも繰り返し流された快刀乱麻のピッチングは圧巻。昨季ア・リーグのサイ・ヤング賞を獲得したデトロイト・タイガースのタリク・スクバルも「あの日のピッチングは本当に印象的だった」とため息をついたほどで、その名は球界に轟いた感がある。
このスクバルをはじめ、今では多くのエリート投手たちが山本のすばらしさに気づいている。
「速球のコマンド(統率、制球)が本当にいい。それに他の球種のコマンドもいい。いいアーセナル(数多くの武器)を持っている。球自体は全体的に平均以上で、特に速球のコマンドはかなり平均を上回っている」
【絶好調のままプレーオフで支配的存在になれるか?】
内外角をていねいに投げ分ける精密コントロールこそがおそらく山本の最大の長所だろう。無四球試合は今季すでに4度を数え、背後で守るドジャースの同僚たちもその質の高さをよく指摘している。
また、球種の多さ、フォームの完成度の高さも特徴のひとつ。コールもまたそれらに感心させられていることを隠さなかった。
「3つの球種が本当にいい。ひとつ目は速球、ふたつ目はスプリット、そしてスローなブレイキングボール、カーブだ。カーブはテンポを変えるいい球だと思う。
今年3月に受けたトミー・ジョン手術からリハビリ中のコールだが、山本を褒め称える言葉は止まらなかった。最後に「彼は本当にいい投手だ。史上最高額の投手なんだから!」と笑顔。2023年12月に山本がドジャースと結んだ12年3億2500万ドルの契約は大きな話題となったが、実際に今となってはもう誰も「払いすぎ」とは思わないだろう。
9月18日まで3試合連続で1安打ピッチングを継続した山本は今秋、まさに絶好調。近い将来、ノーヒッターを成し遂げ、サイ・ヤング賞を受賞しても驚くことではない。ただ、そんな山本が真の意味で"スーパーエース"として認められるためには、プレーオフでの支配的な投球が必要になってくる。
去年の山本はプレーオフでも4試合で2勝0敗、防御率3.86という安定した働きでドジャースの世界一に貢献した。ただ、初登板となった地区シリーズ第1戦では3回5失点と打ち込まれ、ヤンキースとのワールドシリーズで7回途中まで1安打に抑えた以外、すべて5イニング以内で降板した。
今季のドジャースはブルペンが崩壊しており、先発ローテーションの投手たちがより長いイニングを投げることが連覇への必須条件になりそうだ。
「去年は1年目でいろいろ慣れないことがありました。今年はやっていることはそんな大きくは変わらないですが、より落ち着いて自分のやるべきことをやれている感じですかね」
今春、山本はそう述べていたが、今季のより安定したパフォーマンスを見て心強く感じているファン、関係者は多いはずだ。
気力、体力が充実し、今まさにピークにいる背番号18。いよいよ集大成の時期が近づいても、1年前よりリラックスしてマウンドに立てるのだろう。身長178cm、80キロという小柄なエースが、名門球団を背負って立つプレーオフの季節がもう間近に近づいている。