村竹ラシッドインタビュー後編(全2回)

東京世界陸上で110mハードルで5位入賞を果たした村竹ラシッド(JAL)。2024年のパリ五輪で5位入賞を果たしたところから今大会まで、この1年で本格的にメダルを狙えるようになった道のりを振り返ってもらうとともに、次なる目標について聞いた。

村竹ラシッドの新たな目標と野望 海外で「勝つ試合を増やして」...の画像はこちら >>

【パリ五輪から世界陸上まで1年の歩み】

――昨年のパリ五輪で5位になった時は、3位と0秒12差で「もう少し頑張ればメダルに届いた」と言っていました。あの時から本格的にメダルが見えるようになりましたよね。

村竹ラシッド(以下、村竹) そのとおりですね。メダルに対するビジョンがパリ五輪前より鮮明になって、より目指しやすくなった部分はあると思います。あの時は正直、準決勝を通過できるかできないかぐらいの実力でした。実際に準決勝は記録上位のプラスで突破でしたが、実際に決勝を走ってみると思っていたより戦えたかなと感じました。その時の記録は当時の自己ベストからだいぶ離れていたし、それを考えたらもっといけるなと思いました。

――パリ五輪後はヨーロッパを8日間で3レース走る予定を組んでいましたが、どういうビジョンがあっての挑戦でしたか?

村竹 パリ五輪で一緒に走ったファイナリストと比べると、圧倒的に海外での実戦経験が足りないと感じました。コーチからは、世界陸上や五輪でファイナリストになった年は、ダイヤモンドリーグなどランクの高い試合も出やすいと聞いていたので、それなら早速ということで回れるだけ回りました。

 事前に五輪で決勝に残ることを想定して「こういうローテーションでいきたいね」と出場試合の候補も考えていたので、結果的にそんな感じのローテーションを組んで回ることになったんです。

――ヨーロッパでの連戦でなにかを得た実感はありましたか?

村竹 最後のクロアチアの大会を勝ちで終われたのはよかったです。(強い)メンバーが揃っているなかで、しかもシーズン最後の使いきった体でも13秒14という、いい記録を出して勝ちきれたのはとても自信になりました。

――今季はダイヤモンドリーグから出始めて、4月と5月の中国大会はともに2位で、記録も13秒14と13秒10。

そのあと国内のゴールデングランプリを経て、アジア選手権も出場と厳しいスケジュールのなかで勝ちました。想定どおりでしたか?

村竹 勝つべき試合は勝てたのでそこは評価したいし、最初のダイヤモンドリーグ2戦も思っていたより記録も順位もよかったです。シーズン序盤でまだ仕上がっていないトップ選手も多かったのかもしれませんが、2位を取れたのは自信になったし、今思うとよく頑張ったなと思います。

――初めての遠征だった前年とは、違いましたか?

村竹 気持ちに余裕があったと思います。ただ、そもそもちゃんと走りきれるのかという不安がありました。初戦は冬期練習の成果が数字に表れるので「ちゃんと冬期をうまく練習できたのかな?」という不安のほうが大きくて、どういう選手たちと走るのかを考える余裕はありませんでした。それである意味、うまく集中できていたのかなとも思います(笑)。

――その冬期練習は、どういうところを改善しようと取り組んでいたのですか?

村竹 パリ五輪とヨーロッパの連戦を終えてから、股関節の可動域がまだまだ足りないと感じて、そこにフォーカスして柔軟性や可動域を高める練習を多く取り入れました。シーズン序盤からそれをうまく生かせているなと感じています。

 後半の走りも伸びる感覚になったし、できることが増えたなと思います。可動域が広まった分、抜き足をハードルに変な角度で当ててもうまくリカバリーできるようになりましたし、リード足の振り上げや振り下ろしのスピードもかなり上がってきています。ただ、まだ物足りない部分もあるので、次の冬期練習でも継続してやり続けたいと考えています。

【12秒台の感覚の再現性が課題】

――それがうまく8月のアスリートナイトゲームズイン福井で出した12秒92の日本記録に繋がったと思いますが、走っていて12秒台の感覚は違いましたか?

村竹 13秒0台や1台を走る感覚とはまるで違いました。その感覚はちゃんと文章に起こしてメモとして保存しているし、感覚としても体のなかに残っています。そこをもっとうまく咀嚼して、どう再現性を高めていくのかも、この冬の練習の課題になってくるかなと思います。そう考えると今年も大変な冬期になりそうです(笑)。

――「12秒台を出すこともメダル獲得のひとつの条件」と話していましたが、それを福井で出せたことで、村竹選手自身も世界陸上のメダル獲得がリアルになったのではないですか?

村竹 実際に世界陸上も12秒台を出せばメダルが獲れていました。ただ、だからといって国立競技場で12秒台を出せるかといったら話は別。福井と国立ではタータンの質(トラックの素材)やハードルの材質、風などのコンディションなど、何もかも違うというのは自分もコーチもすごく分かっていたので、(周りの声に)惑わされることはなかったですね。

 実際に記録のアベレージをもっと高めていく必要があると考えていたし、去年はアベレージが大体13秒2台で、上振れした時に13秒0が出る感じでした。今年はそのアベレージが0秒1上がり、上振れした時は12秒台が出る感じになりました。だからどんな条件でも13秒05から13秒00くらいを出せるようにしていけば、12秒台の再現性がもっと高まってくるかなと思いますし、もっと(メダルへの)鮮明なビジョンが見えてくると思っています。

――来年は五輪も世界陸上もない年ですが、どういう目標を持ってすごそうと思っていますか?

村竹 新設の世界陸上アルティメット選手権(9月11日~13日/ブダペスト)があって、そこでの上位入賞を目指して頑張りたいと思っています。それに今回の結果でダイヤモンドリーグもいろいろ回れると思うので、転戦して経験を積んで記録のアベレージを上げて、国内のベスト記録と海外のベスト記録の差をなくしていくのが大事になってくると思います。

 あとはダイヤモンドリーグも2位が最高なので、1回は勝ちたいなと思いますね。どこかでタイトルは取りたいなと思うし、ダイヤモンドリーグファイナルも含めて勝てる試合をどんどん増やしていきたいです。

――2028年のロサンゼルス五輪までは走り続けることになりそうですね。

村竹 そうですね。ロサンゼルス五輪までは頑張りたいと思います。でも、今は試合もないのでしっかり休養を取って冬に備えるつもりです(笑)。今季の試合のなかでも多くの課題が見つかったので、それをこれからのオフシーズンに長い時間をかけてまとめないといけない......。やっぱり競技から一旦離れるからこそ見えてくるものもあると思うので、休みの期間をうまく使ってじっくり考えていきたいと思っています。

Profile
村竹ラシッド(むらたけ・ラシッド)
2002年2月6日生まれ。千葉県出身。松戸国際高校3年時に110mハードルでインターハイを制す。順天堂大進学後は着実に実力を伸ばし、2022年、大学3年時に世界陸上オレゴン大会に出場。

JAL所属となった2024年は、パリ五輪に出場すると5位入賞を果たした。今年の8月にはアスリートナイトゲームズイン福井にて、日本人選手として初の12秒台となる12秒92の日本記録を出した。

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