Bリーグ2025-26シーズン注目選手
富永啓生(レバンガ北海道)後編

◆富永啓生・前編>>「ディープスリー」にレバンガHC「いつも想像を超えてくる」

 10年目を迎えたBリーグが開幕する。2025-26シーズンのB1は10月3日からレギュラーシーズンがスタートし、ポストシーズンを経て5月下旬にチャンピオンが決定。

B1所属26チームが東地区・西地区に分かれて頂点を競う。

 北から南まで散らばる26チームのなかでも、今シーズン特に注目を集めているのは「レバンガ北海道」だろう。今年7月のアジアカップでも活躍した「富永啓生」が移籍してきたからだ。24歳のシューターは、初めてのBリーグでどんな爪痕を残してくれるだろうか──。

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【Bリーグ】富永啓生「3P成功率50パーセント」宣言 渡邊雄...の画像はこちら >>
 富永のプレーを見ていると、あらためて「彼はこうでなくては──」と思わされる。

 Gリーグでは「短い時間の出場のなかで突如出場してもシュートを決められるように努めてきた」と話していた富永だが、やはり彼は長くコートに立ってシュートを打ち続けてこそ、いかんなく力量を発揮できる選手だ。

 富永もその点について、首を縦に振る。

「間違いなく(レバンガでは)自分がやりやすいシチュエーションをもらっています。昨シーズンまでは1本外したら『もう終わり』でしたが、今はそうではないので気楽にシュートを打っています。そのぶん『自分が点を取らないと』いう責任感はもちろんあるんですけど、それも含めてすごく楽しくやれていると思います」

 Bリーグに参入して9年。レバンガは1度も勝ち越しのシーズンを送ったことがない。前身のレラカムイ北海道時代までさかのぼっても、常にリーグ下位に沈んでいる。

 また、元日本代表の折茂武彦氏以外に全国的な知名度の「顔」も出てきていない(引退後も折茂氏が球団でもっとも有名な人物だろう)。富永の契約年数は1年だが、レバンガは折茂氏以来はじめて「彼のチーム」と言えるような選手を手にしたのではないか(レバンガは今季、NBAドラフト全体3番目指名の実績を誇る29歳のジャリル・オカフォーも獲得した)。

【富樫勇樹が富永に伝えた希望】

 他チームの選手たちも、富永のプレーぶりを注視している様子だ。

「富永選手が今年からBリーグに来るということで、昨年アメリカでは悔しい思いもしてきていると思うんですけど、本当に力のある選手です。シュート力は間違いなく日本で一番の選手だと思っています」(渡邊雄太/千葉ジェッツ)

 2022年のFIBAアジアカップ。ディープスリーを次々と決める富永の姿を、渡邊はベンチで「冗談だろう」とでもいわんばかりの笑顔で見守っていたのが印象に残る。NBA時代にシーズン3P成功率40パーセント超えという高確率を記録している渡邊ですらも、ただの3Pシューターの域には収まらない富永のBリーグ参戦に対し、高い関心を寄せている様子だった。

「いち先輩として負けたくないという気持ちはあります。ただ、こうして国内リーグで彼とマッチアップできることはすごく楽しいこと。ロイブルHCには東京オリンピックでコーチをしていただいたので、Bリーグの試合で戦うことにすごくワクワクしています」

 富永と東京オリンピックの3×3日本代表でともに戦った保岡龍斗(ファイティングイーグルス名古屋)は、富永が多くの経験を得てBリーグに来たことについて、こう話していた。

 富樫勇樹(千葉ジェッツ)はベンドラメ礼生(サンロッカーズ渋谷)と一緒に放送しているポッドキャスト『Club 93 Podcast』に富永をゲストとして迎えた際、Bリーグに来る可能性を示した富永に対して「(3P)シュートを20本打てるチームに行ってほしい」と伝えていた。

 果たして富永は、よく知るロイブルHCが指揮するレバンガに入ったことによって、より彼らしくプレーできる環境を手にした。

 富永の魅力は、シュートが入れば入るほど自らの興奮に増して豹変していく様(さま)にある。

ふだんの富永はさほどふざけることもなく、どちらかといえば謙虚で静かな人物だ。そんな彼がコートでビッグショットを決めると、大仰ともいえるジェスチャーで観客に応える。その二面性と呼べるほどの乖離が、また見る者を惹きつける。

「大勢の観客の前でプレーすることによって、より乗っていくことができる」と、富永は話している。言い換えれば、彼には自らを昂(たかぶ)らせる「熱」が必要で、だからこそシュートを打ち続けなければならない。

【日本代表を引っ張る存在に】

 9月22日行なわれたBリーグのティップオフ会見。富永はシーズンの目標として「3P成功率50パーセント達成」を掲げた。大風呂敷を広げた、あるいは大言壮語したというわけでないのは、彼の真面目な表情が物語っていた。

 もちろん、「50パーセント」は相当に難易度の高い目標だ。だが、仮にそれが優良シューターの指標的な数字とされる「40パーセント」だったら、富永らしさは薄れていたのではないか。

 50パーセント。つまり半分は入れる、いや、入れたい──。

そんな彼が抱いていそうな無邪気な思いが、富永啓生という選手を一層、目の離せない存在にする。

「自信はあります」

 目標について問われた富永は、ほとんど即座にそう返し、力強く言葉を続けた。

「50パーセントを決め続けることによって、オフェンスでチームに勢いを与えることができるので、そこにフォーカスしてがんばっていきたいなと思います」

 日本代表チームという観点からも、富永がBリーグに舞台を移したことは大きい。

 今年7月のアジアカップで、日本は準々決勝進出決定戦に敗れて総合9位。八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)、渡邊、河村勇輝(シカゴ・ブルズ2ウェイ契約)、比江島慎(宇都宮ブレックス)といった主力を欠いたとはいえ、この先に向けて不安を残す内容となった。

 そのなかで、全試合で先発出場した富永は42.3パーセントの確率で3Pを決めて、チーム2位の平均16.8得点を記録。数少ない明るい材料を提供した。11月から始まるワールドカップ・アジア地区予選でも、レバンガで出場機会を得ながら試合勘を養いつつ、NBAシーズン真っ只中で参加の望めない河村ら海外組不在の状況で、チームの先頭に立つことが期待される。

 Bリーグは今シーズン、節目の10年目。試合のレベルは年々上がり、個人の技量も右肩上がりだ。そのなかにおいても、少しでも隙を与えればシュートを打ってしまう富永のプレーぶりは異彩を放つに違いない。

<了>


【profile】
富永啓生(とみなが・けいせい)
2001年2月1日生まれ、愛知県名古屋市出身。

元日本代表センターの父・啓之氏の影響により幼少からバスケットボールをはじめ、桜丘高3年時のウインターカップでは得点王に輝く。高校卒業後はアメリカへと渡り、レンジャー・カレッジを経て2021-22シーズンよりNCAAディビジョン1のビッグ10カンファレンスに所属するネブラスカ大に編入。最終学年にはエースとしてチームをNCAAトーナメント出場に導く。2022年7月にA代表デビューを果たし、2023年のFIBAワールドカップでは得意の3Pシュートでパリ五輪出場権の獲得に貢献した。2024-25シーズンはGリーグのインディアナ・マットアンズでプレー。2025年6月、Bリーグ・レバンガ北海道に加入することが発表される。ポジション=シューティングガード。身長188cm、体重81kg。

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