スターダム

スターライト・キッド インタビュー後編

(前編:スターライト・キッドは「素顔でデビューするつもりだった」 スターダムのマスクウーマンが語るデビューからの10年>>)

 ヒールターン、"闇落ち"という選択を経て、スターダムのスターライト・キッドは新たな強さを手に入れた。デビューからの10年で経験した光と影、今後の野望を赤裸々に語った。

【女子プロレス】スターライト・キッドが振り返る強制ヒールター...の画像はこちら >>

【覚醒したヒールとしての才能】

――2021年6月12日、STARSと大江戸隊の「全面戦争イリミネーションマッチ」で敗れ、キッド選手はヒールユニットである大江戸隊に強制加入となりました。

キッド:自分の意志じゃなかったから、感情が追いつかないというか......。気持ちはSTARSなのに、ユニットが大江戸隊という。

――どう踏ん切りをつけたんですか?

キッド:6.26青森大会、AZMとの試合後に(刀羅)ナツコに黒のマスクを渡された時です。イリミネーション以降、私は2週間ほど悩んでいました。ファンの方にも複雑な思いをさせてしまった。ナツコに真っ黒なマスクを渡された時に、「私がしっかりしないとダメだ」と決意しました。「もうSTARSには戻れない」と思うとつらかったけどね。

――7.4横浜大会で新テーマ曲、新コスチュームで入場、反則行為もあり、観客からのブーイングは激しいものがありました。

キッド:ブーイングは、ヒールとしては正しい反応なので、逆に喜びしかなかったですね。ここで完全にヒールとしてのスイッチが入りました。試合中の歓声やSNSでの反応も、めちゃくちゃハマっているというか......。「お客さんが見たことのないスターライト・キッドが刺さったんだな」って思いました。

――ご自身を客観的に見ていたんですね。

キッド:入場曲と新しいコスチュームがバッチリすぎました。入場曲が気に入りすぎて、ベビーに戻った今も使っています(笑)。

【ハイスピード王者でも「速い」だけじゃない】

――8.29東京・汐留大会、なつぽい選手からハイスピード王座(素早い動きを得意とする選手向けのベルト)を奪取しました。

キッド:ハイスピードは8度目の挑戦で、やっと獲得したベルトです。「この戦いで大江戸隊に加入した意味を出さないといけない!」と。だから新しいガウンで入場し、初披露のラ・ケブラーダも相当な覚悟で飛びました。

――大江戸隊に加入してから技が増えた印象があります。

キッド:今まで使ってこなかった、相手を持ち上げて落とす技も増えました。ヒールとしてラフファイトも加わり、技のバリエーションが広がりましたね。

――STARS時代は飛び技を多用するハイフライヤーのイメージでした。

キッド:そのイメージを崩したかったのもあります。「キッド=キッズ&スピードファイト&空中殺法」というイメージから抜け出すのが難しかったんですよ。

それが低迷していた理由のひとつでした。でも、(2021年2月13日の)ジュリアとの試合で「自分は速さだけではなく、力強さも求められているんだ」ということに気づいて、戦い方も変えていきました。

――ハイスピード王者だと、自然と展開の速い戦いになるものですか?

キッド:タイトルに合った試合運び、見せ方をしないといけないのはもちろんです。でも、私がハイスピード王座を保持していた時は、速さのなかにある"戦い"を重視していたので、試合時間は少し長かったと思います。

――現在のハイスピード王座の試合は15分1本勝負。当時は30分1本勝負でしたね。

キッド:見ている時は展開が速くて「すごい」と思っても、振り返った時に「試合後の印象に残りにくいな」と感じたんです。だから、自分が王者の時は工夫して戦い方を変えていました。

――だから新たな技も開発していたんですね。日頃からプロレスの試合を観るのですか?

キッド:プロレスの試合だけじゃなく、さまざまなものを取り入れて「これだったら、自分なりにこうできそう」と考えます。それに私は、他の所属選手と技がかぶるのが本当に嫌。だから同じ技だとしても「自分が一番きれいにやってやろう」「入り方を変えてオリジナリティを出そう」とか、けっこう考えています。

使う技が固定されてきたのは、ここ1、2年ですね。

【宿命のライバル、AZMの存在】

――2022年2月にAZM選手に敗れてハイスピード王座から陥落。6度目の防衛に失敗しました。

キッド:なんでか、6度目の防衛戦が鬼門で......。2022年5月に獲得したアーティスト・オブ・スターダム王座も6度目の防衛戦で獲られてるので(苦笑)。

――ただ、今年の9.6横浜では、稲葉ともか選手相手にワンダー・オブ・スターダム王座の6度目の防衛に成功しました。

キッド:初めて6度目の防衛に成功したのはうれしかったですね! "白のベルト(ワンダー王座)"は永遠に私が防衛し続けます(笑)。

――キッド選手にとって、AZM選手はどんな存在ですか?

キッド:AZMは3期生なので、4年先輩。練習生の頃からずっと一緒に過ごしてきた、一番年齢が近い先輩です。本当に家族ぐるみでご飯を食べに行くような仲で、ともに成長してきたライバル。AZMがいなかったら、私もここまでなれてないだろうなって思います。

――現在、同じユニット「NEO GENESIS」に所属していますね。

キッド:ただ、2020年7月にAZMがハイスピード王座を獲った時、「私とは圧倒的な差ができた」って思いました。

あの頃、私は低迷していて余計に焦りを感じた。ちょうど高校を卒業して「プロレス一本でやっていく」と決めた時期でもあったので。

 コロナ禍もあって結果が出ないことも続き、プロレスをやめようかと悩んだこともあったんですけど、2021年2月のジュリア選手とのワンダー戦を機に、「自分もやれる」と手応えを感じました。今は「AZMに並んだか、抜かしたかくらいまではいけたな」って。そういう気持ちにさせてくれるライバルは、やっぱり大切ですね。

【大江戸隊からの追放と、新ユニット立ち上げ】

――2024年4月27日、大江戸隊を追放された時のことを振り返っていただけますか?

キッド:加入した時もそうですけど、また自分の意志で移動させてもらえなくて(苦笑)。突然で気持ちが追いつかない部分もありました。ただ正直な話、2023年は少し低迷していたんです。新設されたNEW BLOODタッグ王座は戴冠したけど、メインのタイトルになかなか絡めなかったり、9月にケガで離脱したり。それにあの頃は、「自分に求められているのはヒールじゃないのかも」って薄々感じていました。

――自覚していたんですね。

キッド:そうですね。私が本格的にヒールとして登場した2021年7月4日に大江戸隊のリーダーである(刀羅)ナツコがケガをして、私は大江戸隊のリーダー的な存在だったんですが、2022年10月に復帰。

翌年の9月には、私がケガして欠場してしまった。

 同年11月に復帰してもフワフワしていて、ユニットで置いてかれている感じでした。でも、大江戸隊のみんなと別れたくない気持ちもあったので、追放された時は悲しかったです。そういえば、大江戸隊ではナツコとのタッグを1回しか組んでないんですよ。それも追放された一因ですかね(苦笑)。

――たぶん、それはないと思いますが......。追放されたあと、中野たむさんとのタッグの試合が組まれるなど、彼女に救われましたね。

キッド:たむちゃんがいたから戻って来られましたし、なつぽいの存在も大きかった。今となっては「ナツコ、あの時に大江戸隊を追放してくれてありがとう」という感じです。

――その3カ月後、新ユニット「NEO GENESIS」を立ち上げましたね。

キッド:立ち上げるまでの"無所属期間"には「全ユニットと組む」という初めての経験もしましたね。

――今まで敵対していた選手たちと組むことに抵抗はありませんでしたか?

キッド:私はヒールとして悪いことをしてきたので、「ごめんなさい」という気持ちでしたね。

それを受け入れてくれる人もいれば、「今まで何をしてきたんだ!」と反対する人もいました。でも、それはそれで楽しかったです。

 そうやっていろんなユニットと組んで、鈴季すずと星来芽依ちゃんとは「意外と手が合うな」と感じました。それで6.22代々木で芽依ちゃんとシングルで対決したあとに、気持ちをやんわりと伝えたんです。

 そしてQueen's Quest(QQ)のAZMの存在も引っかかっていた。だから大江戸隊とQQの「最終敗者以外4人ユニット追放イリミネーションマッチ」でQQを追放されたAZMと天咲光由を勧誘しました。

――今回はご自身の意志でユニットを立ち上げましたね。

キッド:初めてでした(笑)。既存のユニットに入るのもよかったかもしれないけど、NEO GENESISを立ち上げて正解だったと思います。今年4月に(鈴季)すずは脱退しましたが、私はワンダー王者、AZMはSTRONG女子王者(9月27日の後楽園ホール大会で上谷沙弥に敗れ陥落)、芽依ちゃんがハイスピード王者、最近までは私とAZMと光由でアーティスト王座と全員がベルトを巻いていたし、新春ユニット対抗リーグ戦も優勝。ユニットとして結果を出したと思います。

【目指すはスターダムでのグランドスラム】

――今後の目標はありますか?

キッド:ワンダー王座の価値、そして地位を上げたい。「スターダムといえば、ワンダー王者のスターライト・キッドだよね」と言われるところまでいきたいですね。

――ワンダー王座の最多防衛記録は上谷沙弥選手の15回。そこを目指すのでしょうか?

キッド:それ以上に、1試合1試合の防衛戦をしっかり戦いたい。それを積み上げた先に"記録"が見えてくると思います。私のような体格(身長150cm)の選手がトップ戦線に入るのは、昔はあまりなかったと思うんです。だから「無差別級の女子プロレスだからこそ、この体格でもトップになれる」というのを証明していきたいです。

 あとは、スターダムをもっと広めたいですね。スターダムは世界一のプロレス団体だと信じています。個人的な目標として、スターダムが管理するタイトルのグランドスラムを達成したい。あとは"赤"のワールド(・オブ・スターダム)王座だけなんです。今、グランドスラムを達成できる唯一の選手だと思います。

――10月20日には、新宿FACEでキッド選手のデビュー10周年記念大会 『キッちゃんファミリー危機一髪!?』が開催されます。

キッド:ありがたいことに、チケットは発売初日に完売しました。私は"なつ&さおりー(なつぽい&安納サオリ)"のように大規模なものは求めていません。

 もちろん、大田区総合体育館で開催した2人は素晴らしいと思います。ただ、私は私自身が楽しみたいし、周りの人たちにも楽しんでほしい。お祭り的な感覚のほうが強いですね。そのなかで、何かを残せたらいいなと思っています。

【プロフィール】

スターライト・キッド

身長150cm、体重48kg。スターダム7期生。2015年10月11日にプロレスデビューを果たす。2018年3月28日、新設されたフューチャー・オブ・スターダム王座の初代王者に。2021年6月、ユニット「大江戸隊」に強制加入。同年8月、なつぽいを破りハイスピード王座戴冠。2022年3月、渡辺桃とともにゴッデス・オブ・スターダム王者に。2024年5月、大江戸隊から追放。同年7月、自らが中心となる新ユニット「NEO GENESIS」結成。同年12月、5度目の挑戦で悲願のワンダー・オブ・スターダム王座を奪取した。

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