「どこのチームも、うちとやるのは難しいと思う」と、クリスタル・パレスの鎌田大地は言っていた。8月のコミュニティシールドで、昨季FAカップ王者の自軍が、PK戦の末に昨季プレミアリーグ覇者のリバプールを下した、今季開幕前哨戦でのひと言だ。
チームからは、最大の「個」であったエベレチ・エゼが、開幕直後にアーセナルへと去った。にもかかわらず、リーグ戦以外も含めて昨季終盤の4月後半から負け知らず。連続無敗は、クラブ史上最多タイの18試合へと伸びた。就任2年目のオリバー・グラスナー監督のもと、基本システムになった3-4-2-1から、ボール非保持時には素早く4-5-1へと移行する堅守態勢は見事だ。
その徹底された組織のなかに、過去18試合のうち、膝を痛めていた3試合を除く15試合に出場し、先発が12試合を数える鎌田もいる。9月27日のホームで、リーグ首位に立つリバプールとの今季プレミア無敗対決を制した第6節(結果は2-1)が、最新にして最良の例だろう。
鎌田個人が目立っていたわけではない。国内のオンラインメディアでは、10点満点で2点という酷な採点さえもらっている。だが個人的には、及第点以上とした他の複数メディアに賛成だ。いずれも、スタメンに名を連ねた前節までのリーグ戦3試合と同様に7点は与えられていた。この日のパレスは、クロスの処理を誤った終盤の1ミスで追いつかれ、エディ・エンケティアによる土壇場の勝ち越しゴールを必要とした。しかし、28%のポゼッションとは裏腹に、終始、勝って然るべきチームだと思わせた。リバプールにボールは持たせても、スペースは与えない。試合開始から25分間足らずで、相手GKアリソン・ベッカーに3度のビッグセーブを強いた前半は、今季のパレスの試合で最高の前半だったと言ってもよい。
【賢明な動きと的確なボールさばき】
その45分間には、統率のとれた守り、仕掛けるタイミングが完璧なプレッシング、迅速かつ効果的な攻撃といった、機能している集団の特長が集約されていたかのよう。その一員である鎌田も、そうした魅力をピッチ上で体現していた。
持ち前の優れたスペース察知能力は、攻守両面で役立つようだ。鎌田が、インターセプトから一気のスルーパスを試みたのは、開始早々の7分。立ち上がりから、アウェーチームのボール支配が続いたセルハースト・パークが、最初に沸いた瞬間だった。
その2分後、鎌田は、FWのイスマイラ・サールが決めた先制点に繋がるCKを蹴るのだが、続いて11分後に訪れた追加点のチャンスにも関与している。新MFジェレミ・ピノのシュートが、アリソンに防がれて終わったカウンター。きっかけは、センターサークル内で相手CBイブラヒマ・コナテにプレッシャーをかけた鎌田によるボール奪取だった。
頻度は低いのだが、チームが指揮官本来の嗜好性とも一致する「つないで組み立てる」機会を得れば、フランクフルト時代にもグラスナー体制下でプレーした鎌田の賢明な動きと的確なボールさばきがビルドアップで生きる。
たとえば前半40分の攻撃。最後は、中盤中央で鎌田とコンビを組んでいたアダム・ウォートンの折り返しに、サールが合わせたチャンス。しかし、鎌田も確かに絡んでいた。
まずは、自陣内でCFジャン・フィリップ・マテタのポストプレーに反応して受けたボールを、一旦右に振ってそのまま前線へ。左インサイドでパスを交わしてから裏に抜けると、ボックス内で相手選手に後ろから手をかけられながらもキープしてつないだことにより、ウォートンによるラストパスが可能になった。
セルハースト・パークの記者席で、筆者の前にいたラジオ実況担当が、逆に「カマダらしくない」と表現したプレーは、前半アディショナルタイム1分。1タッチで右ウイングに届けようとしたパスを、珍しく蹴り損なった。だが、その4分後には、しっかりと"らしい"プレーを見せてもいる。
鎌田は自陣内で相手選手がヒールで狙ったパスをインターセプト。ふたりがかりでマークされながらも、巧みな足裏コントールでのキープから味方につなぐと、スタンドからは「イェーィ!」と歓声が上がった。このポゼッション奪回の結果として、惜しくもポストを叩いたマテタのミドルシュートがある。
【気迫を感じさせるプレーも】
後半には、タックルでファンを喜ばせもした。しかも、立て続けに2度。11分と12分に仕掛けた、相手MFライアン・フラーフェンベルフへのボディーチェックと、スライディングタックルだ。いずれもファウルを取られたものの、リバプール中盤深部のプレーメイカーを自由にはさせず。1点ビハインドの敵が攻勢を強めていた時間帯に、ひと息つく暇を自軍に与えるビルドアップ阻止でもあった。
倒れたフラーフェンベルフを尻目に、ファウルの判定が不服そうにも見えた鎌田を眺めながら、7カ月ほど前に聞いたファンの鎌田評が思い出された。
昨季第26節フルハム戦、そのパスワークを「ヒュゥゥゥズ!」の掛け声で讃えられるセンターハーフ、ウィル・ヒューズと鎌田の差を尋ねたところ、答えてくれた若いサポーターのひとりが、「ヒューズは、うまいだけじゃなくて、俺たちのために戦う気迫を感じさせてくれる」と言っていたのだ。今では、鎌田を見る彼の目も変わっているのではないか?
昨季の鎌田自身は、試合後にたびたび、「常にボールを握れるチームではないので、守備の部分は多少、感覚的には変えたところもあるし、いい経験と思ってしっかりやっていくことが大事」「自分でボールを奪いきるところだったり、もっと成長できると思う」などと、取り組む意欲を語っていた。
もちろん、同じグラスナー体制下でも、ポゼッションサッカー路線ではない、パレスのチーム環境を受け入れての発言だ。それだけに、貴重なマイボール時には、自分本来の攻撃面でも、より具体的に貢献度を示したいところだったに違いない。
惜しい場面は、体を張ったビルドアップ阻止の前後にも見られた。フィードを受けて中央を上がり、サールに絶妙のスルーパスを通したのは後半3分。
同15分に狙った1本はカットされてしまった。自らのプレッシングで、ボールロストを誘発した流れからのスルーパス。鎌田は、天を仰いで悔しがっていた。
しかしながら、選手の精神面において、勝利にまさる特効薬はない。ベンチに下がった6分後、終盤に投入されていたエンケティアが文字通りのラストチャンスで劇的に相手ネットを揺らす。すると、グラスナーを先頭にベンチから駆け出したパレス陣営のなかには、指揮官を追い越して勝利を喜ぶ、影の日本人功労者の姿もあった。
現プレミアリーグ随一の"いやな"チームと、その主力である鎌田の戦いは続く。