現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」
足首の負傷が長引く久保建英が、今季2度目の途中出場となったバルセロナ戦。敗北を喫したレアル・ソシエダは、ラ・リーガ開幕からまだ1勝と大きく低迷している。
今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、レアル・ソシエダの成績不振の原因および調子を落としている久保のパフォーマンスについて分析してもらった。
【守備が脆弱で得点力不足】
新たなプロジェクトを開始したラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)にとって、今シーズンは望ましいスタートとは程遠いものとなった。夏の移籍市場では補強の遅れと多数の選手の退団に加え、最も痛手となったのは、予想どおりとはいえマルティン・スビメンディ(アーセナル)の移籍によりチームが混乱を極めたことだ。
栄光の時代を築いたイマノル・アルグアシルから監督の座を引き継いだセルヒオ・フランシスコは、プリメーラデビューを飾ったものの、クラブからは十分なサポートを受けられてはいなかった。今季はこうした状況とプレー面の懸念が重なり、セグンダ降格の憂き目にあった2006-07シーズン以降、最悪のスタートとなった。ラ・リーガ最初の5試合でわずか勝ち点2というのは明らかに不十分な成績であり、チーム内には不安が広がっていた。ラ・レアルが初勝利を挙げたのは開幕から6試合目のことだ。
スタートの悪さの主な原因は、サッカー界では古くからある"守備が脆弱で得点力不足の場合は厳しい状況に陥る"というものだ。ラ・レアルはイマノル時代の晩年に比べ、客観的に見て攻撃面はかなり向上しているものの、FW陣だけでなくその他の選手たちも依然として決定力の問題を抱えている。第3節オビエド戦(0-1)は、前半完全にゲームを支配して多くの決定機を作ったにもかかわらず、得点できないことが重くのしかかった。
【ミスによる失点が多い】
しかし、何よりも深刻なのは守備のミスによる失点だ。ボールロストが相手のトランジションを生むきっかけとなり、第2節エスパニョール戦(2-2)のような失点につながっている。第4節レアル・マドリード戦(1-2)でも、ミケル・ゴティが不可解なバックパスをキリアン・エムバペに送ってしまったことでゴールを許した。
さらに、第1節バレンシア戦(1-1)ではGKアレックス・レミロがビルドアップの際にボールをロストし、第5節ベティス戦(1-3)では守備が非常に消極的だった。
常に自滅を繰り返している状況では勝つことなど難しい。逆転勝利が1年半以上もなく、ミスを犯し続け、相手に先制点を許してきた。そのため第6節マジョルカ戦は、勝利もクリーンシートも一度も達成できないまま、降格圏に沈んだ悪い状態で臨むことになったのだ。
だがこの試合はすべてがうまくいった。自陣で深刻なミスを犯すことなくリードを奪い、守備を固めて勝利を成し遂げ、初の無失点試合を達成した(1-0)。この3日後、士気を高めたチームは戦略を立て、昨季の王者バルセロナに挑んだ。
最終的に1-2の敗北を喫したが、この1週間で戦った2試合はポジティブなものをもたらし、新チームが成長するためのターニングポイントとなるだろう。より安定し、ミスが減り、見せ場も増えた。マジョルカ相手に初勝利を収め、あと一歩でバルサからも勝ち点を獲得するところだった。バルサ戦では8カ月ぶりの出場ながら先制点を決めたアルバロ・オドリオソラを含む多くの選手が好プレーを見せ、手応えを感じるものとなった。
ラ・レアルはこの後、ラージョ・バジェカーノ戦(第8節、10月5日)とインターナショナルブレイクを経ると、待望のジャンヘル・エレーラがケガから復帰予定で、セルタ(第9節、10月19日)と対戦する。今一度、新たな気持ちでスタートを切り、最近の好調を維持しつつ不安要素をさらに改善し、勝ち点に結びつけていくことが求められる。
【今シーズン本調子とは言えない久保】
今シーズン本調子とは言えない久保建英。個人が成長しチームのレベルアップに応えられるかどうかはまだわからないが、大いに期待されている。
開幕のバレンシア戦では苦しい状況下で重要なゴールを決めたが、9月のインターナショナルブレイク前、すでに本来の彼とは程遠い出来だった。そして代表戦で負傷した後、改善の兆しを見せていない。
試合前には常にテーピングを巻き、試合後にも治療を受けていたため、私はバルサ戦の前日会見で足首の状態について監督に尋ねた。監督は「問題ない。試合後に氷で冷やすのは一般的だ。ロッカールームではほとんどの選手が打撲や筋肉疲労のために、何かしらの処置をしている。彼のことは心配する必要などない。準備はできている」と説明していたにもかかわらず、ベンチスタートになった。本当はかなりの痛みを抱えながらプレーしていたようだ。
実際、マジョルカ戦でもバルセロナ戦でも彼のプレーはそんなによくなかった。先発したマジョルカ戦でチームは初勝利を挙げたが、もちろん彼が中心だったわけではない。
この日の久保は判断ミスが多く、立ち止まった状態でボールを受けすぎ、球離れがよくなかった。かつてのように自らチャンスを作り出す能力を発揮できておらず、ボールを持つたびに何かが起こるわけではない。これはチームにとって大問題だ。
バルサ戦ではローテーションおよびスペースを得るためにゴンサロ・ゲデスが起用されたことで、足首の問題を抱える久保は控えとなった。1-1の状況から起爆剤となるべく後半12分と早い段階で投入されたが、20分が経過するまで姿は見えなかった。その後に2度チャンスを迎えたが、1本目のシュートはポスト(※最終的にブライス・メンデスがオフサイド)、2本目はクロスバーを直撃。その他の場面では動きが鈍く、やや孤立し、主役を演じるのに苦労していた。
【市場価値は下落している】
ドイツの移籍情報サイト『Transfermarkt』における久保の市場価値は、年齢が上がってきたこと、昨シーズンの成績、そしてこの夏ラ・レアルが求める金額に見合うだけの移籍金を真剣に支払おうとするクラブが現れなかったことなどが相まって、契約解除金として設定されている6000万ユーロ(約105億円)から3000万ユーロ(約52億5000万円)まで下落した。
ゲデスがポジションを奪うほどの活躍を見せていないため、久保は次節ラージョ•バジェカーノ戦で足首に問題がなければスタメン復帰するだろう。
彼を必要としているのはラ・レアルだけではない。まもなくワールドカップイヤーを迎える日本にとっても重要な存在である。まだまだ大きく成長しなければならない。
髙橋智行●翻訳(translation by Takahashi Tomoyuki)

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