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前編:ビッグクラブの足跡/琉球ゴールデンキングス

バスケ熱の高い沖縄県の地域性とチームの経営努力により、Bリーグを象徴するフランチャイズチームとしての地位を築いている琉球ゴールデンキングス。

CSファイナルには4年連続進出中、Bリーグ制覇1回、天皇杯優勝1回。

問答無用の実績は、島全体がチームを応援し、チームもまた、島に誇りを返すという循環を生み出している。

Bリーグ誕生前から先んじてプロチームとして育んできた文化は、Bリーグ10年目の節目のシーズンにどのような形として表れるのか。

【育まれた唯一無二の球団文化】

 歩んできた軌跡は「常勝チーム」と呼ぶにふさわしい。直近の2024-25シーズンは準優勝となり、あと一歩頂点に届かなかったが、リーグ史上最長となる4シーズン連続のチャンピオンシップ(CS)ファイナル進出。Bリーグがスタートした2016-17シーズン以来、一度たりともCS出場を逃していないことも特筆に値する。

 一貫して西地区に所属する琉球ゴールデンキングスは"西の雄"と言える存在だ。ただ、琉球には「強豪」のひと言では片づけられない魅力がある。

 沖縄県に本拠地を置く。小さな離島県だからこそ、不利な点は多い。アウェー戦はすべて身体的負担が大きい飛行機移動、都市部に比べて小規模な経済圏----。それでも地域に深く根を張り、さまざまな逆境を跳ね返してきた。2022-23シーズンに悲願の初優勝を手にした際、地元出身の"ミスター・キングス"こと岸本隆一は感慨深げにこう語っていた。

「キングスが歩んできた道を振り返ってみても、何度も壁にぶつかって、それを乗り越えてきました。

見ている人にバスケットボール以上のものを感じてもらえるように、まだまだ頑張っていきたいです」

 華やかなスター軍団というよりも、挑戦者として戦い続ける泥臭さが、強さの根っこにある。そして、個に頼らずに全員で戦う。この哲学が、バスケ熱の高い沖縄の地域性と相まって唯一無二の球団文化を育み、観る者を魅了している。

【補強に成功も常に「アンダードッグ」の姿勢で】

【Bリーグ10年目の開幕】沖縄をもっと元気に!――琉球ゴールデンキングスが"常勝"であり"挑戦者"であり続ける理由
アンダードッグの姿勢が琉球を常勝チームたらしめている photo by Nagamine Maki
 その戦う精神を浸透させているのが、名将で知られる桶谷大ヘッドコーチ(HC)だ。かつてBリーグの前身のひとつであるbjリーグ時代にも琉球を率い、2度の優勝を達成。2021-22シーズンに再び指揮官として復帰してから毎年チームをファイナルに導き、挑戦者という意味をこめて「アンダードッグ(格下、不利な立場などの意味)」な姿勢を選手に求めてきた。

 ディフェンスで体を張り、ルーズボールに飛び込み、最後まであきらめない。ひたむきに戦うスタイルを象徴する要素は多いが、とりわけ強さの土台を支えているのがリバウンドだ。昨季の1試合平均43.4本はリーグトップ。過去3度にわたりリバウンド王を獲得している身長206cmのジャック・クーリー、201cmのヴィック・ロー、206cmのケヴェ・アルマという外国籍選手3人に、211cmの帰化選手で日本代表のアレックス・カークを加えたビッグマン4人がゴール下を支配し、リーグで強烈な存在感を放つ。

 昨シーズンは最終決戦(CSファイナル)で宇都宮ブレックスに1勝2敗で敗れた。今シーズンはその雪辱を果たすべく、この4人のほかにも生え抜き14シーズン目に入る岸本、昨季リーグ新人王の脇真大、守備職人の小野寺祥太など多くの主力が残留した。

 補強も抜かりない。

ファイティングイーグルス名古屋でエースを張っていた日本代表経験のある佐土原遼を獲得。身長192cmでフィジカルが強く、内外から得点できるオールラウンダーだ。琉球が抱えていたウイング陣の「サイズ不足」と「低い3ポイントシュート成功率」というふたつの弱点を克服する存在と言える。25歳と、まだまだ伸び盛り。「優勝リングがほしい」と琉球への移籍を決断した。

 桶谷HCは「彼がいることで、昨シーズンにはなかった選手の組み合わせができると思っています」と言い、戦術の引き出しを増やすキーマンになると見る。盤石な布陣が整い、メディアやファンからは優勝候補の一、二番手に挙げられることが多い。それは同時に、指揮官の危機感を増幅させる要因にもなっている。

 開幕前、最後のプレシーズンゲームとなった9月24日のアルティーリ千葉戦は96対84で勝利したものの、終盤に不用意なターンオーバーが増えて一時は1ケタ点差まで詰め寄られた。桶谷HCは厳しい表情で振り返った。

「最後は『いつでも勝てるだろ』みたいな雰囲気が出ていました。今季のキングスは強いと言われますが、まだ何も結果を残していない。

宜央(佐々宜央アソシエイトヘッドコーチ)が選手たちに『自分たちでトーンセットして、自分たちで強さを作っていく必要がある』という話をしていました。そのとおりです。今シーズンもアンダードッグの姿勢で戦いたいです」

 慢心はいらない。あくまでも挑戦者として、リーグの頂点をもう一度つかみにいく。

【アリーナの熱が生む巨大なホームアドバンテージ】

 琉球を語るうえでは、Bリーグ屈指の熱狂的なファンの存在に触れないわけにはいかない。

 以前は高校の県大会決勝でコート脇に人が幾重にも詰め掛けていたほど、沖縄はもともとバスケットボールが盛んな地域である。戦後、27年間にわたって米軍統治下に置かれ、NBAを擁するアメリカのカルチャーが根づいている影響か、街中にバスケットコートも多い。2007-08シーズンに琉球が地元初のプロチームとしてbjリーグに参入し、強豪にのし上がっていくと、比例してファンの裾野も広がっていった。

 そして、南国の島に渦巻くバスケ熱をさらに可視化したのが沖縄サントリーアリーナだ。日本初のバスケットボール観戦に特化したアリーナとして2021年に誕生した。専用のロッカールームや練習用のサブアリーナも完備した琉球のホームコートである。

 収容能力は8000人超。

すり鉢状に配置された客席、中央に吊るされた大型ビジョン、エンターテインメント性を高める音響と照明......。非日常空間が増幅させるファンの熱は、巨大なホームコートアドバンテージを生む。2023-24シーズンのクラブ決算では、チーム経営の"自力"を示す入場料収入は琉球が3年連続トップ。10億円台に乗ったのも唯一だった。「夢のアリーナ」構想による地域活性化を掲げるBリーグの理念を、先んじて具現化していると言っていい。

 クラブの活動理念は「沖縄をもっと元気に!」。選手たちもよく「沖縄のために」と口にする。島全体がチームを応援し、チームもまた、島に誇りを返す──この循環こそが、琉球を特別なクラブにしている。「常勝チーム」「挑戦者」という相反する呼称がいずれも似合う不思議な二面性も、ファンを惹きつけてやまない理由だろう。

 昨季に続き、Bリーグ、東アジアスーパーリーグ(EASL)、天皇杯を含めた3つのタイトル奪取に挑む。海外でのアウェー戦も含めた厳しい日程だからこそ、先に目を向けすぎることはない。ローとともにキャプテンを務める小野寺は「一日一日を大切にしてステップアップしていきたい。

各タイトルで優勝をするため、みんなが同じ方向を向いて戦っていきたいです」と話し、地に足をつけた歩みを見据える。

 Bリーグ史の中で華々しい実績を積み上げてきた琉球が、現行リーグで最後となる2025-26シーズンにどのような戦いぶりを見せるのか。ちなみに、bjリーグのラストイヤーとなった2015-16シーズンは優勝で締めくくっている。後世まで語り継がれるであろう節目のタイトル奪取に、再び挑む。

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