【Bリーグ10年目の開幕】「沖縄愛」を胸に琉球のリング下で体...の画像はこちら >>

後編:ビッグクラブの足跡/琉球ゴールデンキングス

沖縄を愛し、沖縄に愛される男――琉球ゴールデンキングスの重量級センター、ジャック・クーリーを表現するのに最も適した言葉ではないだろうか。

今季でチーム所属7年目。

人生の転機も沖縄で迎えた男は、事あるごとに「沖縄は第二の故郷」と口にする。この夏、アメリカ代表にも初選出された際も、「キングスの一員として出られたことを誇りに思う」と率直な思いを胸に、戦い続けた。

今シーズンも琉球のリング下で大いに存在感を発揮し、チームの勝利に貢献する。

前編〉〉〉琉球ゴールデンキングスが"常勝"であり"挑戦者"であり続ける理由

【「キングスのファンは世界一だよ」】

 沖縄は第二の故郷――。西地区の強豪である琉球ゴールデンキングスのジャック・クーリーは、折に触れてそう言う。満ち足りた笑みを浮かべて。その表情を見れば一目瞭然だ。決してファン向けのリップサービスなどではなく、胸の内から出た言葉だということが。

 米国イリノイ州の出身。34歳。206cm、115kgの重量級センターとして琉球のインサイドを支え、琉球では7年目に入る。生え抜き14年目の岸本隆一に続き、チームで2番目に長い在籍年数だ。

 米ノートルダム大学を卒業後は、NBAや欧州のリーグを転々としていた。

当時は1シーズン以上、同じチームに在籍したことはない。その過去を振り返れば「第二の故郷」という言葉の重みはいっそう際立つ。2019-20シーズンに琉球に加わってからは、まるで探し求めていた居場所にたどり着いたかのように、腰を据えた。

 2025年1月のオールスターゲームでは4大会連続4回目の選出をされた。チームの本拠地に深い愛着を持ち、自身もまた、多くのファンに愛されている。

 沖縄に特別な思いを持つ理由は何か。そう問われた時、クーリーは必ず「ファン」、そして「沖縄の人たち」の存在を挙げる。ホームコートの沖縄サントリーアリーナはもちろん、アウェーの地ですらも「ゴーゴーキングス!」の大声援を響かせる熱狂的な応援。会場や街中で温かい言葉をかけてくれる人たち。

「キングスのファンは世界一だよ」

 この言葉を口にする時もまた、面持ちが笑みで満ちる。

【圧巻のリバウンド力と新たな武器】

 Bリーグ全体に「クーリー=リバウンド」という印象が深く根づいているほど、空中戦に強い。3度のリバウンド王獲得はB1史上最多。リーグトップクラスを維持し続ける琉球のセカンドチャンスポイントの多さに大きく貢献し、4シーズン連続でチャンピオンシップ(CS)ファイナルに進出している強さの土台を支える。

 もちろんサイズとパワーの優位性はある。ただ、それだけに依存していない。以前、本人にこだわりを聞いたことがある。

「リバウンドは誰が一番ボールを取りたいと思ってプレーしているかが一番重要なこと。そのための情熱を持ち、どれだけの努力をしているかが大事なんです」

 その言葉どおり、ボールに対する執着心は突出している。献身的にゴール下でポジションを取り、一直線にボールをつかみにいき、しつこく、何度でも食らいつく。学生時から、尊敬する父に「リバウンドはどれだけハッスルできるかだ」と言われ続けていたという。父はバスケ経験こそないが、息子の成長を促すために自ら学び、助言をくれた。コートに立つクーリーの心中には今もこの格言が響く。

 昨季は新たな武器も手にした。ゴール下で体を張るため、チームで最も多くファウルをもらう。そのため、最も多くフリースローを打つ。

その成功率がキャリアハイの80.9%を記録したのだ。これまでは60~70%台だった。

「すごいおもしろいことが起きていました」と振り返る。なぜなら、成功率向上のきっかけが「ケガ」だったからだ。昨季途中に利き手である右手親指を痛め、サポーターを装着してのプレーを余儀なくされた。「もしかしたら、それがいい助けになっていたのかもしれません」。余計な力が抜けたのか、リリースが安定したのか。明確な理由は不明だが、それを機にシュートの感触がよくなったのだという。

 ファウルを使って簡単なシュートを防いでも、1点ずつ着実に積み上げられる。重量級センターを相手にするうえで、これほど厄介なことはない。今季も高確率を維持したいところだ。

【14を背負って臨んだアメリカ代表】

 今夏には"第一の故郷"であるアメリカ代表として「FIBAアメリカップ2025」に出場した。

選出は初。惜しくも3位に終わったが、「コンディションを整えられた感触がある」とBリーグ開幕に向けて一早く体を作ることができた。

 星条旗に加え、背には"ミスター・キングス"と称される岸本の14番を背負った。普段は45番を着ける。「アメリカ代表として、そしてキングスの一員として出られたことを誇りに感じました。すばらしい経験をチームに持ち帰り、今季に生かせられたらと思っています」と、チームへの還元に意欲的だ。

 琉球に加入してから6年。来日した翌年の2020年に沖縄県内の役所に婚姻届を提出して結婚し、その後に子どもも授かった。

「自分の人生における大きな出来事が起きたのも沖縄でした。それもあり、特別な感情を抱いています」

 南国の"小さな島"に深い愛着心を抱く。

 沖縄のために----。その思いがハードワークの原動力になっていることは間違いない。

2022-23シーズンに琉球が初優勝を飾った際は、コート中央のマイクで「沖縄は小さな島だけど、そんな小さな島のチームが優勝できたんだ」と誇らしげに語っていた。出身地はアメリカでも、沖縄を代表して戦っている気持ちは人一倍強い。

 ホームゲーム後にメンバー全員がコートを一周する際は、必ずクーリーが最後まで残る。視界に入る一人ひとりに丁寧に手を振り、柔らかい笑みを向ける。大黒柱としての力強いプレーだけでなく、誠実な人柄もファンの心をつかむ大きな要因だ。

 所属7シーズン目も「すごい楽しみにしていることは変わりません」と、2025-26シーズンの開幕に向けて高揚感をうかがわせる。昨季の準優勝メンバーがほぼ残留し、さらに日本代表の佐土原遼も加入して厚みが増した。「自分が在籍してからのキングスで、ベストと言えるチームに仕上がっている」との自負がある。3シーズンぶりの王座奪還へ、決意は固い。

 今季も琉球のゴール下にはクーリーがいる。巨体を揺らし、シーズンを通してひたすらに体を張り続けるはずだ。第二の故郷である沖縄のために。

心から愛し、愛されるファンと、再び優勝の歓喜を共にするために。

編集部おすすめ