シンガポールは角田裕毅(レッドブル)に優しくない。

 2022年から2年連続でリタイアに終わり、昨年ようやく初めての完走を果たしたが、高温多湿のレースで疲労困憊の末、ノーポイントに終わった。

 しかし角田自身は、今年のシンガポールGPを楽しみにしている。

【F1】角田裕毅は今年のシンガポールGPが楽しみ 「異例の手...の画像はこちら >>
「ここは湿度も高いですし、ナイトレースでなおかつ市街地サーキットでもあるのでいろんな要素が絡み合っていて、ドライバーにとっては最もタフなレースのひとつですね。でも、だからこそ楽しいですし、今週末に向けた準備もしっかりとやってきました。

 このサーキット自体はすごく好きです。去年はいいフィーリングで走れました。決勝ではポイントが獲れなかったもののペースはよかったですし、特に予選は(Q3進出を果たすなど)かなり楽しめたので、レッドブルのクルマで走るのが楽しみです」

 角田の表情が明るいのは、このシンガポールに来る前に日本に立ち寄ってきたからではない。その前にはイギリスのファクトリーにも足を運び、前戦アゼルバイジャンGPの好走をしっかりと振り返り、さらなる改善の努力をしてきたからだ。

 つまり、自信があるのだ。

「今までの入賞は、ちょっと運によるところもありました。だけど、バクーでは運など一切関係なくポイントが獲れて、明らかにこれまでとの違いが見えたので、今週末に向けてはモチベーションが高まっています。

 詳しいことは言えませんけど、(アゼルバイジャンGP前には)ずっと前からやりたかったかなり大きな変更をマシンに加えてもらいましたし、僕のドライビングスタイルも5戦ほど前からマックスの走りから学んで変えてきましたので、その両方が一体となって改善が果たせました。それがなければ、アゼルバイジャンGPの6位は無理だったと思います」

 長らく悩まされてきた原因不明のロングランペース不足がバクーではっきりと解消し、ここからはより純粋なパフォーマンス改善に集中することができる。

マシンの改善とドライビングの改善が一体となって、相乗効果でさらに飛躍的に速さを増していく──。角田のなかでは、そんなイメージができているようだ。

【RB21の真価が問われる今週末】

 レッドブルが急激にマシンを改善させて連勝したイタリアGPとアゼルバイジャンGPは、いずれもストレート主体でロードラッグ仕様の空力パッケージを使用するサーキットだった。

 しかし、ハンガリーGPやオランダGPなど真逆のハイダウンフォースサーキットではこれまで苦戦してきたレッドブルだけに、同じくハイダウンフォースのシンガポールGPでも苦しむ可能性がないとは言えない。ましてや、ここ数年は毎年のように苦しんできたシンガポールだ。

 ただ、昨年はマクラーレンと0.2秒差の2位であり、決して苦手としているわけではない。今年のオランダGPにしても、マクラーレンに次ぐ2番手だった。ハイダウンフォースサーキットではマクラーレンが強すぎた、と言うほうが正しいだろう。

 フロアの改良やセットアップ方向性の変更によってドライバーが扱いやすいマシンとなったRB21の真価は、ついにこのシンガポールで問われることになる。

「レッドブルのクルマがダウンフォースレベルの低いサーキットのほうに合っているのは事実です。ハンガリーやオランダに比べれば、(モンツァやバクーでの)ペースのよさは明らかでした。それにここはバンピーで、伝統的にレッドブルがあまりいい結果を出せていないサーキットでもあります」

 角田自身もそう認める。

 ここ数戦でレッドブルが採り始めたドライバーフレンドリーなマシン作りに加えて、フリー走行でさまざまなトライをしてアグレッシブにマシンの限界を探っていく手法が、今週末のシンガポールでも新たな境地を見せてくれそうだ。

「ここ数戦はいい流れができているのも事実で、他チームがシーズン中にはやらないようなことまで毎レースいろんなことを試しながら、セットアップ的にもいい方向に進んでいます。今もまだ新しいことを見つけようとトライを続けていますので、ハンガリーやオランダとは違ったパフォーマンスを発揮できると思っています」

【金曜にいい結果が出なくとも...】

 そのアイデアのひとつとしてあるのが、前述のような最大ダウンフォースの空力パッケージではなく、ややダウンフォースを削ってストレートで稼ぐという方向性だ。これまでにない異例の手法だが、それこそがまさに今のレッドブルが採っているアグレッシブな姿勢というものだ。

「ここはハンガリーほどハイダウンフォースを必要としないかもしれません。以前のシケイン(ターン15~18)があった時は間違いなくハイダウンフォースサーキットでしたけど、今は4本のDRS(※)ゾーンがあるので少しダウンフォースレベルを下げても戦えそうですし、それが僕らにとっては助けになるかなと思います」

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 だからこそ、金曜日で目に見える結果が出なくとも、予選・決勝では最高のパフォーマンスを引き出してくる。それが連勝した過去2戦のレース週末だった。

 その点において王者マックス・フェルスタッペンにやや後れを取っていた角田も、バクーではそのアグレッシブな手法を採るための土台固めができた感触をつかめている。

 だからこそ、言える。

「今まで以上に自信がありますし、特に自分自身の走りに関しては自信があります」

 角田裕毅がシンガポールの週末にどんな走りを見せてくれるのか、楽しみにしたい。

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