一昨季(2023-24シーズン)の10月、三笘薫は親善試合(カナダ戦、チュニジア戦)の日本代表招集を辞退している。代表戦明けのプレミアリーグには休まず出場した。

翌11月に行なわれたワールドカップ2次予選(ミャンマー戦、シリア戦)も、帰国後、足に張りが出たという理由で日本代表から離脱した。しかし、代表戦明けのリーグ戦には1試合休んだだけで、2試合目の後半早々から出場を果たしている。ケガは軽傷。休養の意味合いも多分に含まれていたと見る。

 今回はどうだろう。直近のプレミアリーグ第6節チェルシー戦。後半22分、途中交代でベンチに下がるまで、どこかを痛めた様子はなかった。

 試合は後半9分、それまで1-0でリードしていたチェルシーに退場者(CBトレボ・チャロバー/イングランド代表)が出たことで流れが一変する。ブライトンが逆転勝ちを収めることになるのだが、三笘はそのレッドカードを誘発するプレーに大きく貢献していた。快足を飛ばし、プレッシャーをかけ、相手CBを追い詰め、混乱に導いた。ケガを引きずるプレーにはとても見えなかった。

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 その直後には今季一番のプレーも見せている。
後半16分、CBヤン・ポール・ファン・ヘッケ(オランダ代表)の見事なサイドチェンジのボールを足もとに収めると、目の前に現れたチェルシーの右SBリース・ジェイムズ(イングランド代表)に対し、三笘はキックフェイントを見舞った。右足で内へ蹴ると見せかけておいて、身体を縦方向に舞うように翻したのだ。屈強なイングランド代表DFを嘲笑うかのような、完璧に逆を取る鮮やかなフェイントだった。

 だが、さすがはチェルシーである。左ウイングのエステヴァン・ウィリアン(ブラジル代表)がジェイムズのカバーに現れる。三笘はそこで局面を打開すべく、内側にポジションを取った自軍の左SBフェルディ・カディオグル(トルコ代表)とワンツーを狙う。ボールを預け、ゴールラインギリギリでボールを受け、マイナスの折り返しを図ろうとした。ところが、カディオグルからのリターンは寸前でカットされてしまう。三笘の足もとに届いていれば、三笘がその6分後、ピッチを去ることはなかったかもしれない。

【縦に抜き去ることができたのは今季まだ1回】

 三笘が後半22分という時間帯でピッチをあとにするのはいつ以来だろうか。記憶がないほど久しぶりだ。だが、ファビアン・ヒュルツェラー監督の采配に異を唱えるつもりはまったくない。三笘は今季、いつ先発を外されてもおかしくないプレーを続けているからだ。

この日のプレーにしても見せ場は上記の2回だけ。プレー機会の総数は、チームで1番少なかった可能性さえある。

 右ウイングのヤンクバ・ミンテ(ガンビア代表)と比較するとわかりやすい。ウイングプレーの総数は、三笘が後半16分に初めて披露するまで、ミンテは7、8回、敢行していた。躍動するのは右ウイングばかり。左ウイングは見るからにおとなしい、闘争心のないプレーに終始した。

 走るスピードは落ちていない。レッドカードを誘発した相手にプレッシャーをかけるランニングには、目を見張るものがあった。だが、ボールを受けると慎重になる。固まるように動けなくなる。それ以前の問題として、積極的にボールを受けたがっていない。周囲も三笘にボールを預けようとしない。

 ところ変われば気分も変わるのではないかと、日本代表のメキシコ戦、アメリカ戦にも目を凝らしたが、三笘のプレーはブライトンの三笘と変わりなかった。精神的な問題のようにも見える。かつてのような果敢さはない。対峙する相手に飲まれている感じだ。

 相手に1対1を仕掛け、縦に抜き去ることができたのは今季ただ1度。ジェイムズをキックフェイントでかわしたチェルシー戦のワンプレーが初めてだ。日本代表戦も含めて、である。

 相手の逆を突いて縦方向に抜けない症状は、実は昨季から現われていた。10ゴールを奪ったことは特筆に値するが、それは内方向への比率が急激に増した証でもある。「内へのプレーも覚えた」と言えば、ウインガーから、総合力の高いアタッカーへと変貌を遂げたように聞こえるが、ウインガーに問われているのはそのバランスだ。基本は縦。そこに内への動きをどう混ぜ合わせるか。

【プレミアで3本の指に入る左ウイングだった】

 抜けない可能性がある縦に対し、カットインにその心配はない。楽な選択肢、弱気なプレーでもあるのだ。難易度が高いのは縦。勝負という言い回しもできる。対するカットインは勝負ではない。自ら得点を決める可能性は芽生えるが、それ以外は、縦を突いてマイナスに折り返すプレーに比べ、チャンス度で劣る。

 ミンテは右だけでなく左でもプレーできる。チェルシー戦でも左で縦抜きを決めている。一方、三笘は右ができない。多機能的ではない。入れ替わることができない。左がダメならそれでおしまい。

右ウイングと入れ替わり、気分を変えることができない。これは三笘に限らず、堂安律、中村敬斗らにも言えることだが、そうした意味では古典的なウイングだ。日本代表の問題点でもある。選手配置の選択肢を狭める一因になっている。

 三笘は右肩上がりを示す日本サッカーを象徴する選手だった。世界ナンバーワンのプレミアリーグで5本、いや3本の指に入る左ウイングだった。それが日本代表に好影響を与えていた。勇気、勢いをもたらしていた。その三笘が失速すれば、日本の先行きに暗雲が立ち込める。 

 メキシコ戦、アメリカ戦で日本の得点がゼロに終わった理由でもある。わかりやすいのはアメリカ戦で、三笘が途中交代でピッチに入っても、状況は少しも改善しなかった。日本の劣勢はむしろ加速した。

 ブライトンの次戦は10月5日のウォルバーハンプトン戦だ。そこで三笘は先発を飾ることができるか。飾ることができれば、今回の招集見送りが故障ではないことを意味する。森保一監督は会見で、三笘を招集しない理由について多くを語らなかったが、その答えはウルブス戦に隠されている。

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