【五輪へステップ・バイ・ステップ】

 10月17日開幕のフランス大会が第1戦となる今季のフィギュアスケートGPシリーズ。10月1日に開かれた日本の有力選手の記者会見で、鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大)は、今季大事にするテーマを「ステップ・バイ・ステップ」と発表した。

【フィギュアスケート】鍵山優真はどうやってマリニンに追いつこ...の画像はこちら >>

「目標や夢を叶えるためには本当に着実に一歩ずつ進んでいくのが一番の近道だと、今までの経験から感じています。

自分は幼少期からそんなに結果を出せるような選手ではなかったと思っていますが、それでも、基礎の部分など本当にゆっくりと着実に、ひとつずつ自分ができるものを練習し、いろいろな技を身につけ、それを実戦で生かして、というふうに目標や計画を立ててやってきた。それが今の自分につながっている。

 そのスケート人生の経験を生かして、今自分が何をするべきかと考えて目の前にある課題をクリアし、ミラノ(・コルティナ五輪)までの道筋を切り開いていくことができたらいいなと思います」

 こう説明した鍵山の今季初戦は、7月に名古屋市で開催されたローカル大会「みなとアクルシュ杯」。この大会、ショートプログラム(SP)では2本目の4回転フリップで転倒し、フリーは後半の4回転トーループが2回転になるミス。合計277.33点で優勝はしたものの、満足のいく結果ではなかった。

 2戦目となった8月の「サマーカップ」では、SPでは4回転フリップの転倒と連続ジャンプのミスは出たが、フリーでは4回転をサルコウとトーループの2本の構成でノーミス。合計289.72点で優勝していた。

 つづく3戦目の9月のチャレンジャーシリーズ(CS)・ロンバルディア杯は、イリア・マリニン(アメリカ)やアダム・シャオ イム ファ(フランス)という世界トップの選手たちも出場しており、ライバルたちとの位置関係を把握できる大会となった。

 鍵山のSPは1本目を3回転フリップ+3回転トーループに抑え、2本目を4回転サルコウにする構成をノーミス。フリーは4回転をサルコウと後半のトーループだけに抑える構成で、後半2本のジャンプがGOE(出来ばえ点)で減点される出来だった。結果は合計285.91点で2位に入ったとはいえ、優勝したマリニンには20点以上の差をつけられた。 

 それでも、10月になって会見に登壇した鍵山の表情は穏やかで、焦る様子はいっさいなかった。

「9月のCSは左足の痛みがちょっとあったので、結果的に構成を落とす形にはなってしまいました。でも、今は少しずつ足の状態もよくなり、コンディション的にもメンタル的にもストレスなく練習できている状態です。こういう場(会見)に出て、気持ちもめちゃくちゃ引き締まり、すごく充実した練習もやれているなと感じていて。

 ケガをした2年前は痛みがあるなかで練習をしていて、なかなかストイックにできないという状態もあったけど、今はストイックに自分のスケートを追求できている。すごくありがたいなと思っています」

 さらに鍵山は、CSでの手ごたえをこう話す。

「シーズン序盤は難度を少し落とし、プログラムの完成度を上げることを意識して試合に臨みました。CSも難度を落としたけれど、自分としては思ったより点数が出てびっくりして。プロトコルを見たらスピンのレベルがしっかり取れていたり、演技構成点が伸びていたり、ジャンプ以外の部分がすごく成長しているというふうに感じられたので、そこが収穫だったと思います」

 CSの結果を見れば、スピンはSPとフリーはともにすべてレベル4で、GOE加点はジャッジが3~4点をつけているものが多く、フリーの演技構成点は3項目すべて9点台と、全選手中最高の90.74点を獲得していた。

【大技を入れるかどうかは未定】

 鍵山のGPシリーズ初戦は11月7日開幕のNHK杯。昨季終了時に話していた「早めの始動」も今季はできていて、今は余裕を持って取り組んでいる状況だ。そのなかでジャンプ構成についてはこう話す。

「ショートに関してはトーループのコンビネーションとサルコウでいこうと思っています。

ジャンプも本当にいい状態ですし、プログラムに関してもこの4年間を通して自分らしさを出すものをつくっていただいたと思うので、(2022年)北京五輪の自己ベストに少しでも近づけるようにしていきたい。

 フリーは、GPシリーズはまだわからないけど、どの試合も自分が100%自信を持って臨める構成でやりたい。10月の西日本インカレでサルコウとトーループ2本の構成をしっかりとやり、その感触を見てフリップを入れるかどうか、慎重に判断していきたいです」

 同時に、昨季口にしていた4回転ルッツの導入を完全に白紙に戻したわけではない。

「まずは本当に『着実に』ということで、今の構成でしっかりノーミスの演技をしてからフリップを入れたいと思うので、ルッツまでは今は考えてはいません。ただ、練習は続けていこうかなとは思っています。やっぱりフリップを入れただけでは満足はできないところもある。

 夏の試合からすごく感じていたことですが、4回転が2種類でも他の部分で点数が評価されて思ったより点数が出たので、今の状態でもしっかり完成していければいい点数が出るとは思います。でも、自己ベストの更新を考えると、やっぱりフリーでは4回転はもっと必要になってくる」

 勝負のフリーに今季選んだのは、作曲家のクリストファー・ティン氏に依頼したオリジナル編曲の『トゥーランドット』。

「振り付けの段階からすばらしいものになりそうだという予感もあって、練習からすごく楽しく滑れています。夏の試合やCSを通して試合の雰囲気やお客さんの声援がいい相乗効果になってプログラムの真価を発揮するというか、新たな魅力を引き出すものとなっていると思います」

 鍵山は笑顔でそう話す一方で、その曲はまだ完成版ではないと言う。

「このあとに、オペラ歌手のテノールがメインメロディーの部分に入るみたいで。僕としては今の状態で曲を聞くだけでも感動できるぐらいにすばらしいものだけど、完成版は自分でも想像がつかないくらい。

迫力は本当にすごいので、それに負けないくらいに自分のスケートもパワフルで繊細でありたい」

 最強のライバル、マリニンに対抗するためにと過剰に身構えず、着実なステップアップを考えている鍵山。ジャンプの構成難度の進化や、完成版『トゥーランドット』など、鍵山優真への期待はこれからさらに膨らむ。

編集部おすすめ