現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」
久保建英はラージョ・バジェカーノ戦で再び途中出場するも、チームは2連敗で降格圏内の19位にまで沈む緊急事態となった。サン・セバスティアンの地元紙『ノティシアス・デ・ギプスコア』で、長年レアル・ソシエダの番記者を務めるマルコ・ロドリゴ記者が、久保の足首負傷を取り巻く状況やチームの現状をレポートする。
【監督も足首の問題を認める】
久保建英は9月の日本代表戦で負傷してラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)に戻った後、苦境に陥るチームに貢献しようと5試合すべてで痛みに耐えながら、身体的に無理をしてプレーしてきた。
遡ること9月6日、オークランド(アメリカ)開催のメキシコとの親善試合で、左足首を捻挫したことからすべてが始まった。次のアメリカ戦を欠場し、サン・セバスティアンに戻った後もまだ痛みがあったにもかかわらず、レアル・マドリード戦(1-2)で途中出場した。久保は負傷後、リーグ戦の招集メンバーから一度も外れていないが、ピッチでの彼の様子からまだ足首に問題を抱えているのは明らかだった。記者会見では、久保のこの状況に対する質問が頻繁にセルヒオ・フランシスコ監督に投げかけられることとなった。
バルセロナ戦(1-2)の前日会見で、久保が今季初勝利を挙げたマジョルカ戦(1-0)で交代した後、ベンチで負傷箇所をアイシングしていたことを聞かれると、セルヒオ・フランシスコは「タケの足首は問題ないと明確にしておきたい。試合後に選手が痛みをケアするのは当然のこと。試合後のロッカールームでは80%の選手が何らかの問題を抱え、治療を受けている」と気にすることではないと強調した。
しかしその翌日、久保はベンチスタートとなり、試合後に「今週は休む」と宣言。そのためラージョ・バジェカーノ戦、さらにはパラグアイとブラジルとの親善試合に向けた代表戦の招集メンバー入りが危ぶまれたが、翌週のチーム練習に参加し、その3試合で招集されたことは驚きとなった。
そしてラージョ戦に向けた監督会見でセルヒオ・フランシスコは、久保に関して1週間前とは異なり、「彼はここ数試合、動きが制限される軽い痛みがあった」と問題があったことを認めた。
【クラブの緊急事態で起用され続ける】
クラブ内では、最も重要な選手のひとりである久保が代表招集による過密日程でコンディションを崩さないか常に懸念されている。それでも代表戦へ参加したいという彼の強い想いも私は十分に理解できる。
まず忘れてはならないのは、これまでの代表戦において、攻撃陣に多くの選択肢を持ち頻繁にスタメンを入れ替えている森保一監督にとって、久保は不動のレギュラーではなかったということだ。
2022年のカタールW杯、ラウンド16クロアチア戦前日に体調を崩した久保は、ホテルでチームの敗退を見届けるしかなかった。不本意な形でW杯に別れを告げざるを得なかった彼にとって、忌まわしい記憶を塗り替えたい気持ちは誰よりも強いはずだ。
そして、久保がラ・レアルで常にプロフェッショナルな振る舞いをしてきた事実から、彼の代表招集がサン・セバスティアンで何の怒りも招かなかったのも理解できる。
確かにふたつの親善試合への出場は、彼の足首にとってベストの選択肢ではないだろう。だがラ・レアルで久保がチームのために全力を尽くしてくれているのも明らかな以上、彼が日本代表のユニフォームを着て戦う権利を得ていることに、異議を唱える者はいない。
私はそう理解しているし、セルヒオ・フランシスコも「もし久保がラ・レアルで招集されてラージョ戦に出る準備ができているなら、日本代表にも参加できる状態にある」と、この件についてこれ以上話すことはないとした。
負傷している久保が起用され続けていたのは、選手層の問題というより、順位的な問題によるものだ。5季連続で欧州カップ戦に出場していたラ・レアルにとって、降格圏に沈む今の状況は緊急事態だ。この状況から抜け出すべく、監督はベストの選手を常に起用し続けているが、本来はもっと多く休養を与えるべき選手、たとえば久保のようなフィジカル面に問題のある選手にうまく対処できていない。
久保を休ませても、ゴンサロ・ゲデス、ミケル・オヤルサバル、さらに最近左サイドバックで出場しているセルヒオ・ゴメスでカバーできたはずだ。実際、ゲデスは3試合でその役割を務めている。
【バレネチェアは活躍を見せているが...】
久保はチームに貢献しようという強い意志をこれまでも常に見せてきたが、今季はその責任の一端を、ラ・レアルの地元サン・セバスティアン生まれ、クラブの下部組織出身で久保と同学年のアンデル・バレネチェアが担っている。16歳でトップチームデビューを果たした彼のポテンシャルがずば抜けていることは以前から知られていたが、これまでケガに苦しめられパフォーマンスが安定しない選手との印象を持たれていた。
今季はその殻を破って飛躍的な進化を遂げ、左サイドでプレーする右利きのウインガーとしてラ・リーガ開幕からの8試合すべてに先発し、チームで最も違いを生み出す選手という地位を久保から奪う活躍を見せている。
バレネチェアに今季見られる変化として、まずフィジカル面の著しい成長が挙げられる。ケガをせず、最後までプレーできるようになったのは大きい。今季3試合でフル出場しているが、それまで90分間プレーしたのは、2021年12月の国王杯が最後だった。
さらにプレーへの関与が大幅に増えて、久保の右サイドよりも左サイドからの攻撃が多くなっている。持ち味の攻撃的な姿勢や1対1の強さを発揮しつつ、ドリブル、クロス、シュートなどを駆使してゴールに向かうことはもちろん、コンビネーションプレーに積極的に関わり、味方の決定機を演出するプレーにも磨きをかけている。
バレネチェアの好調ぶりはデータにも表われており、重要なスタッツで久保を上回っている。両選手ともに1ゴールを挙げているが、それ以外の成績は以下のとおりだ。
バレネチェアは久保を、アシスト数(3対0)、ドリブル成功数(21対7)、シュート数(13対8)、パス成功数(224対155)、クロス数(36対20)で凌駕している。これらはシーズン序盤の数字にすぎないが、ピッチ上で見せてきたことを裏付けるものだ。
それでも、久保の総合的なレベルの高さ、足首のケガが回復間近であること、そしてバレネチェアが調子を崩す可能性がある点も考えると、シーズンが進むにつれて、久保は必ずいつもどおりの存在感を取り戻していくはずだ。
ただ、現状の久保のプレーは悪化の一途を辿っている。直近のラージョ戦(0-1)がまさにそうだった。ゲデスとの交代で最後の30分間出場したが、右サイドで孤立し、機動力を発揮できず、ほとんどプレーに関与できなかった。さらに、ピッチに入った途端に負傷箇所付近に2度激しい打撃を受け、痛みからピッチに倒れ、足を引きずりながら立ち上がるシーンもあった。全体的に精彩を欠き、コンディションがよくないことが伺えた。
この日のプレーから推測するに、久保がパラグアイやブラジル相手に本領を発揮できる可能性は低いかもしれない。しかし、彼にとって代表招集がどれほど重要であるかを我々は承知しているし、今のラ・レアルを取り巻く緊迫した雰囲気から、一旦、心理的に距離を置けるのはいいことかもしれない。
【極度の成績不振】
ラ・レアルここまで、8試合1勝2分5敗という極度の不振に陥っている。そのため久保は監督の去就が不明確なまま、日本へ飛び立ったに違いない。その後、10月6日に即座の解任がないことが明らかになった。
しかし、クラブはこのまま結果が出なかった場合に備え、すでに指揮官の後任候補を探っている。
髙橋智行●翻訳(translation by Takahashi Tomoyuki)