前編:河村勇輝 NBA2年目の挑戦
河村勇輝のNBA2年目の挑戦が始まった。あのマイケル・ジョーダンを中心にこれまでNBA優勝6回を成し遂げているシカゴ・ブルズの赤いユニホームに身を包んだ河村は、どのような位置付けなのか。
現地で行なわれたメディアデーの取材を中心にお伝えする。
【新たな環境でも周囲との良好な関係を構築】
まずは順調なスタートを切ったといっていいのだろう。
シカゴ・ブルズの河村勇輝は現地時間10月7日、クリーブランド・キャバリアーズとのプレシーズンゲーム(オープン戦)に後半から出場。14分22秒という限られたプレータイムながらチーム最多タイの5アシスト、3得点をマークし、ブルズが接戦のゲームを118対117で制する原動力になった。
中でも際立ったのは、やはりその流麗なパスワークだった。試合後、すぐにNBAの公式Xアカウントに河村のアシスト集が投稿されたほどで、その紹介ポストには"The dime dropper(dimeはアシストを意味するスラング=アシストを量産する選手)"という記述がされていたことからも、パス能力への評価の高さはうかがい知れる。
「パスの部分は僕のひとつの強み。ノールックパスだったり、そういったもので観客の皆さんだったり、チームにエナジーを与えることができるんじゃないかなと思うので、そこは僕のひとつの役割かなと思っています」
シカゴで9月29日に開催されたメディアデー(キャンプ開始直前の会見)の際には自身もそう述べていたが、実際に今季もコートに立てば多くのハイライトシーンを生み出してくれるのだろう。プレシーズン初戦では3ターンオーバーを喫したが、それはパスの受け手になるチームメイトとの経験不足によるところが大きい。さまざまな意味でコミュニケーション能力に優れた河村なら、さらに呼吸を合わせることは可能なはずだ。
メディアデーの際、新しくチームメイトになったマタス・ブゼリスが「(ユウキは)トラッシュトークが大好きなんだ」とうれしそうに述べていたのが思い出される。
「すごくよくしゃべるし、それがユウキのスタイルだ。
出会ったばかりの新しい仲間とすぐに打ち解け、害のない形でスラング満載のやり取りができる。相手を苛立たせず、良好な関係を築くための接し方を理解している。河村のこういった部分は、オンコートにも生かされているのだろう。稀有なスピード、コートビジョンなどもすばらしいが、何よりもこのコミュニケーション能力こそが最大の長所なのではないかと感じることがある。
「(トラッシュトークの中身は)ここでは言えないことばかりですけど(笑)。アメリカのカルチャーは、僕はすごくいいなと思っています。全員が本当に意識高く、チームメイト内でも競争心を持ってやれているからこそやっぱり練習のなかでも成長できる。もちろんオンコートだけの話で、コートを出ればすごく仲のいいチームメイトです。
昨季、メンフィス・グリズリーズのスーパースター、ジャ・モラントの弟分的な存在になった河村が新天地で誰とケミストリーを奏でるかが楽しみでもある。
【守備でのサイズ不足をどこで埋め合わせるか】
もっとも、NBAへの定着を目指すと考えたとき、河村にはまだ明白な改善点が残っているのも事実である。自身はロングジャンパー(ジャンプショット)、ゴール周辺でのフィニッシュ力の向上を最大のポイントとして挙げていたが、それと同時にキャバリアーズとのプレシーズンゲームでは、やはりディフェンスが課題に感じられた。
4ファウルを犯しながらも(NBAは6ファウルで退場)積極的に相手にプレッシャーをかけていったが、自身の頭上からジャンパーを決められてしまうシーンが見受けられた。身長173cmとNBAでは並外れた小兵であれば仕方ない部分とも言えるのだが、ポジショニング、フィジカルに磨きをかけ、この点を埋め合わせることができるのか。あるいはディフェンスの難しさによるマイナスを上回るほどのインパクトを、それ以外の面で生み出せるのか。河村の今後を占ううえで、この2点は焦点になってくる。
ブルズはガード陣に陣容が偏っていることは盛んに伝えられており、聡明な河村はもちろんそんな容易な状況を理解している。
「僕はチームを選べるようなレベルの選手ではないというのもあります。その意味で、しっかりと評価してくれたブルズに行くことが何より一番自分にとっていい選択だなと思ったんです。PG(ポイントガード)が多い現状はもちろんあり、簡単ではないですが、そのおかげで練習や試合のなかでもいろんなことを学べます。多くのことを吸収し、成長できればいいなと思っています」
シーズン中には必ず故障者は出るもので、移籍する選手や解雇者も出てくる。
もっとも、再建状態だからといって河村をじっくり育ててくれる環境とはもちろん限らない。サマーリーグでの活躍で2ウェイ契約を得たあとでも、背番号8にとって"明日なき日々"は続いていくのだろう。
「常に緊張感を持っています。もちろん保証もないですし、いつカットされるかもわからないという状況です。本当に1日1日、後悔なく、もしかしたら今日が最後の日かもしれないという気持ちを持って、毎日過ごすべきだと思っています。
1日1日、証明し続けなければいけないと思うので、そこの緊張感は常にあります」
NBAで活躍する選手は1~2年目に大きく成長するケースが多く、今季は河村への見方も1年目よりは厳しくなる。アメリカが舞台の壮大なサバイバルレースのなかで、2年目にどんな成長度を見せてくれるのか。常に未来をしっかりと見据える日本のファンタジスタが、危機感と緊張感を糧にし、少しでも確実に前に進んでいってくれることを期待したいところだ。