後編:河村勇輝 NBA2年目の挑戦
シカゴ・ブルズと2ウェイ契約を結んだ日本が誇るファンタジスタ、河村勇輝がアメリカで2年目のシーズンをスタートさせる。昨季、メンフィス・グリズリーズの2ウェイ契約選手だった河村はNBAで22試合に出場。
迎える勝負の2年目。NBAでもトップクラスの名門球団と契約した24歳はいったいどんなシーズンを過ごすのか。河村のブルズでの立ち位置を知るため、現在はNBA公式サイトで健筆を振るう大ベテランライター、サム・スミス氏に話を聞いた。
1980~90年代、マイケル・ジョーダンに率いられたシカゴ・ブルズを密着取材した経験を持つスミス氏。著作の『The Jordan Rules』はベストセラーとなり、『マイケル・ジョーダン激闘のシーズン:誰も知らなかったNBAの内幕』というタイトルで日本でも出版されている。それほどの大御所ライターの目にも、河村はエキサイティングな取材対象として映っている様子。それと同時に「ブルズで存在感を発揮するのは簡単ではない」と冷静に指摘しており、その視点は非常に興味深いものだった。
*本文はスミス氏の一人称。
前編〉〉〉河村勇輝が新天地・ブルズで順調スタート
【NBAでは自分自身が"武器"にならなければいけない】
私は、ユウキのことが大好きだ。彼がここまで成長したことには驚かされた。最初にサマーリーグのチームに彼が含まれたとき、正直、ブルズと契約して2ウェイ契約をもらうとは思っていなかった。昨シーズン中、メンフィス・グリズリーズでプレーする彼を少し見たことがあったけど、そのときは控えめすぎる印象だったからだ。
でも、ブルズの一員としてプレーしたサマーリーグでの彼は違っていた。プレーがすごくよくなっていた。とてもアグレッシブで、自分のシュートを狙いにいく場面があった。積極的に攻めていて、スピードもすごく速かったし、全力でプレーしていた。グリズリーズでの彼を以前見たときには、そんな姿は見られなかったんだ。
NBAでは自分自身が"武器"にならなければいけない。自分で得点も狙わないといけないし、ディフェンスに対してプレッシャーを与えなければならないんだ。以前の彼は、ディフェンスを反応させるようなプレーをしていなかった。
でも今は違う。そして、もともと得意としていたハッスルプレーや、コート全体を使ってプレーする姿勢のおかげでサイズの不利を補えていると思う。ディフェンス時にはコート全体をカバーして相手選手にプレッシャーをかけ続ける彼を見ていると、過去のNBAで活躍した小柄な選手たちを思い出すんだ。
【生き残るためには"正しい状況"を見つけることが大事】

でもGリーグでプレーして、そこで自分の力を示すことができれば、話は変わってくる。攻撃的にプレーして、得点を狙いながらも、自分の持ち味──仲間を生かすプレー、ディフェンス、ロールプレイヤーとしての働き──を発揮する。Gリーグでは、得点だけでなく"他に何ができるか"が重視される。だから、少しでも得点ができて、ディフェンスを引きつけられるようになれば、ほかのチームにも『この選手は使える』と印象づけられるはずだ。
繰り返すが、ブルズでチャンスを得るには、ケガ人が出るなどの偶然が必要かもしれない。そうでなければ、定期的なプレー機会は与えられないだろう。ただ、彼がGリーグで結果を出せば、ほかのチームが興味を持つ可能性は高いと思う。
もちろん簡単なことではないが、ユウキと同じサイズの選手はこれまでも存在した。そして、ユウキと彼らとの共通点は、"自分のサイズを意識していない"ってことだ。
彼は自分が5-8(約173センチ)だとわかっていながら、6-8(約198センチ)くらいの選手のようにプレーしている。NBAで生き残っていくには、そういうマインドが必要なんだ。『誰にも怖気づかない』『相手が6-8でも6-9でも、レブロン・ジェームズでも、自分は引かない』──そういう姿勢を持っている。私が彼に感心したのはそこだね。自分のサイズをハンデだと思っていない。自分を"そのサイズの選手"として見ていないんだ。そんな選手だから、私もユウキがこれからアメリカでどんなキャリアを歩んでいくかを楽しみにしているよ。