10月11日、おおきにアリーナ舞洲。SVリーグ初代女王の大阪マーヴェラスが、ヴィクトリーナ姫路に、セットカウント2-3とファイナルセットの末に敗れている。
「ホームで開幕戦を迎えて、たくさんの方に見に来ていただきました。会場もプレーしやすい雰囲気でしたし、もちろん勝つつもりだったのですが......連敗は自分たちも予想外というか、何がダメだったのか、まだ整理つかない部分もあります」
マーヴェラスのセッター、塩出仁美はそう言って、試合後の会見で悔しそうな表情を浮かべていた。
なぜ、波乱は起こったのか?
ヴィクトリーナ側から見たほうが、見通せるものがあるかもしれない。ヴィクトリーナはセットカウント1-3で勝利した前日から、先発を3人入れ替えていた。セッターの大島杏花は、Vリーグでのプレー経験しかない27歳の"ルーキー"だった。日本代表の宮部藍梨は、ミドルブロッカーからオポジットに転向しての先発デビューだ。
いわばひとつの"賭け"だったが、これが功を奏した。
「出だしはよくなかったですが、"絶対にあきらめない"という粘り強く勝つバレーができました」
ヴィクトリーナのアヴィタル・セリンジャーHCはそう言う。1セット目は空回りし、17-25で落としたが、2セット目は28-26で競り勝つ。3セット目は23-25と再び奪われるも、4セット目は25-22で奪い返し、ファイナルセットは15-11で逆転した。
「セッターの大島は、このレベルで(長い時間)プレーするのは初めてで、本来の力を出すには馴染む時間を要しました。
セリンジャーHCが言うように、ふたりは尻上がりに調子を上げた。
大島は1セット目こそタイミングが合っていなかったが、2セット目はカミーラ・ミンガルディを使ってリズムをつかみ、自身もトリッキーなツーアタックを決めた。3セット目からは宮部と波長が合い始め、4セット目はトスワークが波に乗り、ファイナルセットは先行するエースを取った。
【最多得点を挙げた宮部藍梨】
SVリーグのコートで躍動した大島は、記念すべき日をこう振り返っている。
「6月から合流し、今日で4カ月目くらい。仕事をしながらプレーするのとはまた違うハードさですが、バレーにフォーカスできています。チームのみんなのストイックさも見て、新しく入ったなかでも"劣るわけにいかない"って思っていたので、今日は勝つことができてホッとしています。ようやく、SVリーガーの一歩を踏み出せました」
宮部も、オポジットとして輝きを放っている。
3セット目の終盤から、相手セッターの塩出を潰すようなスパイクを入れ、徐々に真価が見えてきた。4セット目からは対空時間の長いジャンプで、高めでセカンドテンポの大島のトスをストレート、クロスに打ち分け、ブロックアウトやプッシュにも成功。無双状態に入った。
「1、2セット目は、個人的に全然ダメでした」
宮部は言う。
「スパイクが決まっていないし、オポの仕事が最初できていなくて。レフトのカミーラにトスが集まり、負担をかけてしまって反省ですね。後半になってスパイクも決まり、レシーブも上がり"すごいよかった"とは言いたくない(出来)ですが、ある程度のプレーは見せられたし、今後は1セット目から(本来のプレーを)出せればと思います」
ふたりが才能を解き放ったチームは強かった。相乗効果で、他の選手も躍動した。たとえばミドルブロッカーの伊藤麻緒は丹念におとりとなって跳びながら、クイックも次々に決め、マッチポイントのブロックは出色だった。大型外国人選手たちを相手にしても制空権を譲っていない。
「かわいいだけじゃだめですか?」と、会見でアイドルグループのヒット曲にかけた挨拶をして、一躍、人気者になった野中瑠衣は、その印象と逆に実直なプレーをしていた。オポジットだが、リベロ並みのレシーブを披露。リリーフレシーバーのような役もこなし、チームに貢献していた。かわいいだけではない。
「私みたいに飛び抜けた武器がない選手は、ディフェンスからでも、サーブからでも、オールラウンドに挑戦して、と思っています。どんな起用法でも自分の価値を見せ、持ち味を発揮できるように、ベンチにいるときも、できる役割をまっとうすることだけ考えていました」
野中はそう言うが、姫路陣営は健全な共闘精神を共有できていた。
キャプテンである佐々木千紘はこう語っている。
「この試合に臨むにあたって、"私たちはチャレンジャー"という共通認識でした。どうやったら有利に展開できるかを考えて、サーブで崩し、ブロックディフェンス、という作戦がうまくいったと思います」
挑戦者の"賭け"が、波乱のカギだったか。
もちろん、リーグは始まったばかりで、44分の2に過ぎず、果てしない戦いが続く。
マーヴェラスも内容が悪かったわけではない。前日にフル出場したエース、林琴奈を下げた(リリーフサーバーのみ)ことも、少なからず影響していただろう。長丁場の44試合を戦う戦略で、女王のピーキングはずっとあとという設定だろう。長身ミドルブロッカーのサマンサ・フランシスも来日10日足らずで、アジャストするのはこれからだ。
とはいえ、開幕ダッシュの意味も小さくない。
「44試合の流れを決めるので、開幕2勝できたのは良かったです!」
殊勲者、宮部の声は弾んでいた。



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