アジア以外のW杯出場国に対し、両ウイングバック(WB)にアタッカーを配置する3-4-2-1がどこまで通用するのか。これは、来年に控えたW杯に向けた準備を進める日本にとって、本番での戦い方や登録メンバーを決めるうえで、最大のキーポイントと言っても過言ではない。

サッカー日本代表は攻めきれず、守りきれず 戦術は迷宮入りのま...の画像はこちら >>
 先月の北中米カリブ海勢(メキシコ、アメリカ)との2試合に続き、南米勢のW杯出場国と対戦する今シリーズでも、そこが注目ポイントになる。

 しかし、その初戦となったパラグアイ戦を終えた段階でも、残念ながら今後を楽観できるような要素はほとんど見当たらない。スコアは試合終了間際に89分からピッチに立った上田綺世のゴールで2-2に追いついたが、試合内容に焦点を当てると今回も攻守両面で問題が露呈。改善の兆しが見えてこないというのが現状だ。

 では、今回のパラグアイ戦ではどのような問題があぶり出されたのか。攻撃と守備に分けて、あらためて試合内容を振り返ってみる。

【攻めきれない日本】

 まず日本の攻撃を見ていくうえで確認しておきたいのが、パラグアイの守備方法だ。基本布陣は4-2-3-1だが、守備時はおおまかに2フェーズ。敵陣とミドルゾーンでは4-2-4の陣形で圧力をかけつつ、自陣では両ウイングが下がって4-4-2にシフトチェンジして、パラグアイのお家芸とも言えるローブロックでゴールに鍵をかけた。

 ただ、パラグアイがほとんど前からプレスを仕掛けてこなかったことと、ボランチの一角に入った田中碧が最終ラインに下りて4バックを形成してビルドアップしていたのもあり、日本は前半から比較的スムースに前進。3-4-2-1を攻撃的に運用する条件でもある、敵陣でのプレー時間をある程度は長くできた。

 ただし、試合後にグスタボ・アルファロ監督が「日本は(両WBで)幅をとったうえで中央を攻めてくるので、我々はパスコースを消すために中央に密集して守るようにした」と語ったように、パラグアイは日本の1トップ(小川航基)と2シャドー(堂安律南野拓実)へのパスコースを遮断。すると、日本は敵陣でボールを保持しても、相手の守備ブロック外側でのパス回しに終始するという現象が起きた。

 そうなると、当然ながら日本はサイドからのクロス供給にゴール攻略の活路を見出す。その結果、この試合における日本のクロス供給は計24本を記録(前半12本、後半12本)。とりわけ右WBでフル出場を果たした伊東純也は10本のクロスを供給するなど、日本のサイド攻撃における突破口となった。

 しかしながら、中央攻撃をほぼ封じられていたことで、日本のサイド攻撃が単調になった感は否めない。実際、パラグアイのセンターバック(CB/3番、15番)を中心とするクロス対応は精度が高く、日本のクロス攻撃に慌てるようなシーンはほぼなかった。

 確かに日本は伊東のクロスから上田が同点弾を決めたが、それが後半アディショナルタイムにおけるセットプレーからの流れだった点を考えれば、日本がサイド攻撃でパラグアイの守備を攻略したと言うには無理がある。むしろ、クロス一辺倒の攻撃では、W杯レベルの相手に大した脅威は与えられないことが浮き彫りになったと見るのが妥当だろう。

 そのクロス供給を引き立たせるはずの中央攻撃に目を向けると、前半で記録した縦パスはわずか3本(成功2本)。もちろん、そのうちの1本(中村敬斗のプレスを起点に佐野海舟が素早く小川に渡した前半26分の縦パス)が小川のゴールにつながったのは数少ない好材料ではあるが、後半も縦パスが5本(成功3本)しかなかったことは課題と言える。

 結局、アジア最終予選でも見られたことではあるが、日本対策を準備してくる相手に対する「対策の対策」については、今回もそれらしきものが見られなかった。

 サイドを起点にして相手の守備網を広げた後、いかにして中央を攻略するのか。簡単ではない問題ではあるが、W杯で勝つためには避けては通れない道であるのは間違いない。

【5バックでも守れていない】

 守備面の問題はさらに深刻さを増す。とりわけ9月の2試合で露呈した課題を修正できていないことが、不安を煽る。

 日本の守備の問題は、5バックで守る時間が長くなればなるほど、失点のリスクが必要以上に高まってしまうところにある。それは、特に自陣ボックス付近での守備に慣れていないアタッカーがWBを務めるリスクと深い関係にある。9月のアメリカ戦では、それが失点に直結してしまったのは記憶に新しい。

 その問題を回避するために、日本は前からのプレスを機能させ、ボールを失った直後の即時回収と合わせて、敵陣で攻撃し続けることを目指してきた。しかし、予想されていたこととはいえ、アジアではある程度それができても、W杯レベルの相手との対戦になると、そう簡単にはいかないのが現実だ。

 9月に対戦したメキシコは、開始から約15分こそ日本の前からのプレスに慌てたが、その後、立ち位置を変化させてプレス回避に成功。試合の流れを大きく変えた。

 この試合でも、日本はメキシコ戦同様に、試合開始から2シャドーが前に出て相手CBに対してプレッシャーをかけ、1トップがボランチをマーク(この試合では小川が相手のダブルボランチのひとりをマーク)。両WBがサイドバック(SB)にプレッシャーをかけることで前からハメに行ったが、それを研究済みのパラグアイは、試合開始からプレス回避に成功。そのために多用したのは、ロングボールだった。

 しかも1トップの9番(アントニオ・サナブリア)は、ボールを収める能力にも長けているので、ロングボール戦法がより効果を示した。

パラグアイが前半に記録したGKおよびDFによるプレス回避のロングボールは計9本。そのうち5本はマイボールにつなげて反撃に成功し、20分には決定機も作っている。

 もちろん、パラグアイもパスをつなぎながら日本のプレスを回避するのが理想なのかもしれないが、ロングボールでこれだけ日本陣内に前進できたことを考えれば、十分に効果的な日本対策だったと言っていい。逆に、4バックで戦ったアジアカップでロングボールに苦しんだ日本としては、3バックでもロングボール問題が再燃する格好となってしまった。

 できれば自陣に下がって5バックで守りたくない日本は、意図的かどうかは別にして、この試合の後半ではミドルゾーンにおいて4バックで守るシーンが垣間見られた。右WBの伊東が右SBとなり、右シャドーの堂安が右MFに落ち、左WBの中村が左MFになって4-4-2を形成した(南野と小川が2トップ)。

 これがひとつの解決策だったのかもしれないが、しかし自陣ボックス付近では5バックで守るかたちに変化するため、特に守備時の中村の立ち位置が曖昧な印象を受けた。それにより、アメリカ戦に続いてこの試合でもWBにアタッカーを配置する弊害による失点を許している(パラグアイの2点目)。

【システム運用は迷宮入りか】

 確かにこの試合で左WBを務めた中村にしても、あるいはこれまでの三笘薫や前田大然にしても、献身的に守備に戻るプレーには目を見張るものがある。しかしその一方で、自陣ボックス付近における守備方法については、専門職のDFには及ばないのは当然だ。とりわけW杯レベルの相手であればそれを見逃すわけもなく、このままでは今後もそのディテールの部分によって失点してしまうケースが十分に予想される。

 失点を上回るだけの決定力を兼ね備えているわけでもなく、かといって敵陣で攻撃し続けるだけのポゼッション能力があるわけでもないなか、果たして両WBにアタッカーを配置する現在の3バックシステムを本番に向けて継続することはできるのか。

 次のブラジル戦は今回の試合とは異なる構図になると予想できるが、そのなかで森保一監督はどのような戦い方を選択するのか。アメリカ戦の後半で採用した4バックを機能させる術を持っていない現在、日本の選択肢は限られている。

 迷宮入りが現実のものとなりつつある現在、ブラジル戦が今後の行方を大きく左右する可能性は高いと見ていい。そういう意味でも、見逃せない試合になりそうだ。

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