得点に絡むことはなかった。
ピッチを去ったタイミングでは、1-2で負けていた。
それでも、10月14日の東京スタジアムで久保建英が見せたプレーには、大きな価値があった。史上初めてブラジルから勝利を奪った痛快な逆転劇は、彼の仕掛けが布石となっていたはずだからだ。
立ち上がりからブラジルにボールを握られたが、20分前後から徐々に前進できるようになる。そのなかで、久保がファイナルサードで違いを生み出していく。まずは21分、ペナルティエリア右外でボールを受け、縦へ突破していく。対峙する左SBカルロス・アウグストの足が届かないところから、右足でグラウンダーのクロスを入れた。
そのまま日本がボールを保持していくなかで、今度は4バックとアンカーの間で鎌田大地からボールを引き出す。すぐにターンして、ペナルティエリア内の上田綺世へパスを通した。
試合は26分に動く。ブラジルに3人の関係で左サイドを崩され、右SBパウロ・エンリケにゴールを喫した。GK鈴木彩艶にはセーブするチャンスのないシュートだった。
直後の28分、左CB鈴木淳之介から久保へ浮き球のパスが通る。
久保がブラジル守備陣にストレスを与えていくものの、次の1点もブラジルに奪われてしまう。32分、今度もまたGK鈴木彩はノーチャンスだった。
試合の流れがブラジルに傾いていたわけではないのに、あっさりと2点を先行されてしまう。直前の試合で韓国を5-0で撃破している勢いは、メンバーを大幅に入れ替えても持ち越されていたのかもしれない。
39分、久保がまたも仕掛ける。左サイドへ流れてボールを受け、縦ではなく横へドリブルしてシュートのタイミングを図る。ペナルティアーク内でルーカス・パケタに倒されるが、ホイッスルはならない。
【1対1の場面でもれなく勝負】
なおも久保はゴールへ向かっていく。40分、右サイドからカットインしてカルロス・アウグストの前へ身体を押し込み、バランスを崩されながらもペナルティエリア内へ持ち出す。インテル所属の左SBが、後方から身体を寄せてくる。久保が思わず倒れるものの、ここでも主審は笛を口に運ばない。
前半アディショナルタイムにも、久保が右サイドを崩す。タッチライン際で堂安律からのパスを収めると、スピードに乗って縦へ持ち出す。左CBルーカス・ベラウドを振りきって右ポケットまで運び、右足でクロスを入れる。しかし、DFにブロックされた。
1対1の場面でもれなく勝負を挑み、相手DFを翻弄した。明確な意図を持って、久保は「仕掛ける責任」を負ったのだ。
「誰かがあれぐらいやらないと、ホントに格下みたいな感じになってしまう。結果としてクロスをマイナスに送ったほうがよかったな、とかいろいろとありましたけど、やっぱりこっちも一発あるぞっていうのを見せておかないと、流れを引っ繰り返せない展開になってもおかしくなかった。そこは積極的に、特に2失点してからは無理にでも仕掛けていこうかなと思いました」
ペナルティエリア内で倒されたシーンについては、「どうなんでしょうね」と切り出す。さらりと本音を明かした。
「まあ勝ったからいいですけど、公式戦だったらちょっと取ってほしかったですね、あれは」
1-2というスコアと前半のパフォーマンスを考えれば、後半開始早々の54分での交代は早い印象だ。ただ、久保は左足首の痛みから、10日のパラグアイ戦の出場を見送った経緯がある。
森保一監督との事前の話し合いでは、「最初から45分か、無理をしても60分」というプレータイムの制限が設けられていた。「なんかその(前半で交代する)雰囲気をちょっと感じたんで、いける、いけるって言いました」と、久保は苦笑いを浮かべた。
「今日のタイミングで戻ってきて、いいところまで持ってこられたので、これだったらもうちょっとやりたいなって思いました」
【2点のビハインドは許容できない】
ブラジル戦に間に合わないかも、と覚悟した瞬間もあったという。ただ、チームから途中離脱するつもりはなく、スタッフの献身的なサポートと本人のがんばりで試合出場までこぎ着けた。
「やっと久しぶりに、試合中に痛みなくプレーできたので、そういった意味では一歩前進かなと思います。今日は痛くてもやるつもりだったんですけど、思ったよりチームの助けになれてうれしかったかなと思います」
今回招集された日本代表のメンバーで、久保は国際Aマッチ出場が5番目に多い。ブラジル戦が46試合目だった。豊富な国際経験を持つ24歳は、ブラジル撃破という歴史的勝利も冷静に受け止める。
「親善試合なので、喜ぶところは喜んで。でも、何も変わってはいないと思います。これで安心しないように。ひとまず勝てたので、ここからより内容を突き詰めていきたいなと、個人的には思っています」
ブラジル相手に2点差を引っ繰り返したのは、間違いなく評価できる。
ワールドカップまで8カ月という時間を踏まえて、久保は「世界を見渡しても、まだ完成されたチームってほとんどないと思います」と言う。「日々進化していけるのはありがたいですけど、特に守備のところ」と、ディフェンスを課題に挙げた。
それぞれが守備のタスクを担いながら、ファイナルサードで勝負に挑む。仕掛ける責任を負う。そうした攻撃的な姿勢を個々が磨いていくことは、結果的に守備の負担を軽減することにつながる。
久保が積極的に仕掛けていた時間帯は、ブラジルにほぼチャンスを与えていない。