奥川恭伸が語る2025年シーズン(前編)

 ヤクルトの奥川恭伸は9月28日、神宮球場での本拠地最終戦に登板した。奥川自身が最大の目標として掲げていた、「1年をケガなく投げきること」を見事に達成した。

そして10月に入ると、二軍の戸田球場で2026年シーズンへ向けて始動していた。

「イメージはばっちりできています」

 練習を終えた奥川は、今シーズンを振り返りながら、来季への自分自身の期待について語った。

「実際に投げてみないとわからないことって多くて......そのなかで気づきがたくさんあった1年でした。今は『これをしたい』『あれをしたい』というのがたくさんあります(笑)。オフに『どれだけ課題を潰せるかな。それができた時にどんなピッチングができるかな』って。それが楽しみですが、ワクワクした状態で、オフはしっかり過ごしたいですね」

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【自信を持ってマウンドに立てなかった】

 今シーズンの奥川は18試合(100イニング)に登板し、4勝8敗、防御率4.32、奪三振77、与四球33。二軍でも4試合に登板して21イニングを投げた。

「合わせると121イニングで、来年以降、十分に規定投球回を狙える数字なので、そこはプラス材料かなと思います。2021年に105イニングを投げた時は、中10日で回してもらってのものでした。でも今年は『中6日で回っても余力はあるな』という状態で、1年間投げられた。そこは自信になりましたし、次につながるシーズンになったと思います」

 残した数字について、奥川はこのように語った。

「貯金ができなかったのは、すごく申し訳ないと思っています。

今は悔しさも経験して、今のままでは抑えられないという現状も知って、とにかくやってやろうという気持ちになっています」

 奥川はこれまで右ヒジ痛や左足首の骨折など、度重なるケガに苦しみ、長く暗い時期を過ごしてきた。しかし今季、初の大役となる開幕投手をまかされると、6回を投げて7安打を許しながらも無失点。勝敗こそつかなかったが、見事にチームの期待に応えてみせた。

 しかし、その後は苦しいピッチングが続くことになる。開幕から5試合で0勝3敗、防御率5.61。5月4日には成績不振により、一軍登録を抹消された。

「開幕で勝てなかった。2戦目、3戦目に打ち込まれた。勝ちたい、勝てない、勝ちたいから点をやれない、やれない意識が強くなると、大量失点になってしまう。その繰り返しというか、打たれる怖さもあって、自信を持ってマウンドに立てなかったです」

【石川雅規からのアドバイス】

 5月の戸田では「いろいろありましたね。たくさんアドバイスを聞きましたし、何かきっかけがほしかったので外部のトレーニング施設に行ってセッションを受けたこともあります」と、活路を見出すのに必死だった。

 また石川雅規とのキャッチボールでは、「平地だとうまくいくんですよね」と話すと、「これを傾斜でどう生かすかだね」と助言をもらい、そのままブルペンに入ったこともあった。

「石川さんは『平地でいいボールを投げる人はたくさんいるけど、ピッチャーは傾斜を制してナンボだから』って。それはずっと言われていて、あとは『傾斜で投げている量が少ないんじゃないか』とも。それもあって、登板間のピッチングはそれまで傾斜で投げるのは一回だったんですけど、キャッチボールのあとにけっこう入れるようにしました」

 そんな時間のなかで、「奥川にこんな一面があったのか」と思わせる場面も何度かあった。キャッチボールで感触がしっくりこないと、がっくりと肩を落とす。そのまま力なく歩いている姿をチームメイトに冷やかされると、「オレはこういう人間なんだよ」とやさぐれた。

「シーズンに入る時って、少しは自分に期待するじゃないですか。規定投球回に近いイニングを投げたい、そうすれば2ケタ勝利も見えてくる......そんなふうに思っていたんです。でも、それが完全に打ち砕かれてしまって。ケガで投げられなかった時期のことを思えば、『こうして投げて悩めることは幸せだよ』というアドバイスももらいましたけど。正直、どっちもつらいですよ、って。そんな感じでしたね(笑)」

 ブルペンではサイドスローで投げることもあった。

「『もっと腕を縦振りで、縦振りで』って言われるんですけど、そんなの自分でもわかってるんですよ(笑)。

それなのに『横振りだ、横振りだ』って言われ続けるから、『じゃあもう横から投げてやるよ!』って思うくらいでしたね(苦笑)。あの時期は、本当にストレスがたまっていました」

 また、ブルペンで真っすぐだけを43球投げた日もあった。今シーズンの真っすぐは、被打率.349とかなり打ち込まれた球種だった。

「もともと真っすぐありきで、変化球を生かしていくスタイルだったのですが、その真っすぐを簡単に弾き返された。もうピッチングにならなかったですし、勝負にならなかったですね。そこでもう一回、打たれないというか、打ちづらい真っすぐを目指そうと。ここ(戸田)では、フォームの修正に取り組んでいました」

 その成果は、6月になりようやく表れるようになる。

つづく>>

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