ブラジルが韓国に大勝したあとの記事で、筆者は「ブラジルに明るい未来が待っている」と書いた。しかし、それは時期尚早だったようだ。
日本戦後の数日間、ブラジルの、いやブラジルだけでなく南米のSNSのトレンドワードは「ブラジル対日本」だった。セレソン(ブラジル代表)が日本に負けることも初めてなら、2点リードしておきながら逆転負けするのも初めてだ。後半のブラジルは、言い訳もできないほどのひどさだった。
『TVグローボ』で解説を務めていた元セレソンのデニウソンは試合後、こう嘆いた。
「前半のブラジルはまるで飛んでいるみたいに活発で、守備的な日本をかなり凌駕していた。でも最終的には地に落ちて終わった。後半はブラジルらしさも、いいプレーも、根性もなかった。こんなサッカーをしていたらワールドカップでは勝てない。いや、練習試合だって勝てない」
同じく元代表のロマーリオは『スポルTV』で試合を見た感想をこう語っている。
「なんてこった。負けたなんて信じられない。疑問はいっぱいあるが、とにかく驚いて、開いた口が塞がらない。
「この試合は大きな恥辱だ。それも最低の恥辱。ブラジルは世界に醜態をさらした。恥ずべきだ。後半はあまりにも最低で、前半のいいプレーもすべてが吹っ飛んでしまった。2-0で勝っていながら(逆転されて)負けるのはまともなチームでない証拠だ。アンチェロッティは何をした? これは我々のセレソンではない」
そう、この敗戦の元凶はカルロ・アンチェロッティの采配にある。
【日本を圧倒すべきだった】
アンチェロッティ・ブラジルには時間がなかった。この試合のあとに公式戦はなく、今のところ来年のワールドカップまでにふたつの親善試合が決まっているだけだ。だからアンチェロッティがこのアジアツアーで多くの選手を試したいと思うのは当然だろう。
多くの選手を試してみるのは大事なことだ。だが――それをこの日本戦でやってはいけなかった。おそらく日本は、アンチェロッティがブラジルのベンチに座ってから一番強い対戦相手だった。ここまでワールドカップ予選ではエクアドル、パラグアイ、チリ、ボリビアと戦い、そして親善試合の韓国戦があった。だが、ワールドカップの常連国であり、世界で最初にワールドカップ行きの切符を手にした日本が最強だろう。だからこそテストすべきは、この相手、このタイミングではなかった。
繰り返すが、いろいろな選手を使ってみることが大事だ。しかし、今のブラジルにとってはもうひとつ重要なことがあった。それは「恐れ」を払しょくし、自信を取り戻すことだ。
ここ最近のブラジルはネガティブな出来事の連続だった。2026年ワールドカップ南米予選では史上最低の5位で、出場チーム数が増えていなかったら出場権を逃す危険さえあった。
だが、韓国戦に大勝し、いかにもブラジルらしいプレーをして笑顔を取り戻した。だからこそブラジルの未来は明るいとも書いた。今、何よりも大事なのは、この自信をより強固にすることだった。ブラジルは日本に全力でぶつかり、圧倒し、その強さを証明すべきだった。アジア最強のチームに勝つことは、ブラジルの自信をより深めたことだろう。そしてメンタル面において、ワールドカップへの重要なステップとなったはずだ。
【アンチェロッティは理解していない】
しかし、アンチェロッティは韓国戦からスタメンを8人も変えた。ロドリゴ、マテウス・クーニャ、エデル・ミリトンといった中心選手がスタメンから外れた。それどころか後半にはヴィニシウス・ジュニオール、ガブリエウ・マルティネッリ、ブルーノ・ギマランイスも下げてしまった。
残ったのはこれまで代表で一度も一緒にプレーしたことのない選手たち。
日本は歴史上、初めてブラジルに勝った。しかし、相手は本当のブラジルではなかった。日本のチームにとってもサポーターに対しても失礼なことだ。日本はいいチームだった。いつものように真面目で、組織立ち、運動量もある。モチベーションも高かった。だが、ブラジルが最高の選手を揃えていたら、初勝利はまだ先のことだっただろう。
日本はやるべきことをした。5人で守り、日本のバリアを抜け出そうとするブラジルをしっかりと抑えた。特に鈴木淳之介のプロフェッショナルで質の高いプレーには、多くのブラジル人が称賛を送り、「あれは誰だ!」と話題になっていた。堂安律は相変わらず危険な選手だし、鎌田大地の動きもインテリジェンスがあった。久保建英はもちろん、中村敬斗も上田綺世もいい選手だ。
しかし、だからブラジルが敗れたというわけではない。
結局、アンチェロッティはブラジルのことを何もわかっていないのだろう。ブラジルのサッカーも、ブラジルにどんな選手がいるのかも知らない。知っているのはレアル・マドリードの選手ぐらいだ。そして、ブラジル人にとってメンタルの持ちようがどれだけ大事なことなのかを理解してはいなかった。
【状況は一気に厳しくなった】
韓国戦で自分たちは何でもできるという気持ちになっていただけに、この急展開はブラジルの選手のメンタルを直撃した。試合後のヴィニシウス・ジュニオールの呆気にとられた表情がすべてを物語っている。
私は日本に感謝したい。こんなやり方ではダメなことをアンチェロッティに教えてくれたからだ。今回、もし日本に勝っていたなら、勘違いはワールドカップ本番まで持ち越されてしまっていたかもしれない。
アンチェロッティはまだポルトガル語を十分にしゃべれないが、サポート役としてブラジル人の手を借りようとはしない。ジーコ、ドゥンガ、カフー、カカ......彼らはもちろんブラジルのことをよく知っているし、アンチェロッティの母国語のイタリア語も話せる。アンチェロッティが望めばセレソンの復活に喜んで手を貸すはずだ。今回の出来事で、アンチェロッティが再考してくれることを願う。
率直に言って、私はアンチェロッティをすでにキャリアの終わりに近い監督だと感じている。レアル・マドリードのフロレンティーノ・ペレス会長はそれをわかっていたから、引き留めなかったのではないか。もうヨーロッパの十指に入る監督ではないのかもしれない。
ただし、アンチェロッティは世界の代表監督のなかで一番の高給をもらっている。それを森保一が叩きのめしたのだ。森保監督は幸運だ。彼はすばらしい選手を擁している。今の選手たちは、ブラジル人が知るカズ(三浦知良)や中田英寿よりも上だと思う。
ただ、繰り返しになるが、日本もこの試合で勘違いしてはいけない。日本の勝利の喜びに水を差す気はないが、もしブラジルがベストメンバーをそろえていたら、まったく別のストーリーになっていた可能性がある。まあ、何につけ慎重な日本人にとって、それは杞憂にすぎないだろうが。
いずれにせよ、アンチェロッティにとって状況は一気に厳しくなった。
「アンチェロッティはレアル・マドリードの選手を長くプレーさせなかった。それはなぜだ?」(サンパウロの日刊紙『O Estado de Sao Paulo』)
「東京の夜は最低の形で終わった。これはアンチェロッティの初黒星でもある。選手の力量のなさが原因でもあるが、それ以上に監督の力量に疑問を感じる」(ブラジルの大手日刊紙『Lance!』)
最も冷静かつ辛らつに分析したのは、有名ジャーナリストのマウロ・セザル・ペレイラだった。
「日本に負けたこのチームはブラジル代表ではない。ワールドカップには絶対に出場しない。だから選手のことは心配していない。私が心配するのは、ブラジル史上最悪のチームのひとつで、すでに勝っていた試合を落とすことに成功した監督だ。監督は変わらない。ブラジルは彼とともにワールドカップに臨むのだ。ブラジルの伝統を軽んじたアンチェロッティとともに」
アンチェロッティはこの試合で信頼を失くした。ブラジルメディアやサポーターの目はこれからより厳しくなるだろう。
チッチ元監督がカタールワールドカップ後に姿を消して以来、セレソンのベンチに値しない監督たちが次々と来ては去っていった。アンチェロッティの就任でやっとこの問題が解決したと思っていたが、どうやらまだ安心できそうもない。

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