10月24日、神戸。9000人以上が入った「GLION ARENA KOBE」は、華やかに活況を呈していた。

世界のトップリーグでも、これほど観客が盛り上げる試合はなかなかない。SVリーグは世界一のリーグにまた一歩近づいたと言える。

 2年目の開幕戦、SVリーグ初代王者であるサントリーサンバーズ大阪は、昨シーズンのレギュラーシーズン1位だった大阪ブルテオンとのアウエーゲームに乗り込んでいた。結果から言えば、セットカウント3-1で逆転負けだった。出足で躓いたことになるが......。

「勝てなかった悔しさはありますが、いいプレーも出せましたし、チームを作る段階なので、成長できるようにやっていきたいです」

 今シーズンからサントリーでキャプテンを務めることになった髙橋藍の声に暗さはなかった。

 昨シーズン、髙橋はチャンピオンシップで大逆転の立役者になり、MVPも受賞した。その点、SVリーグで突出した"勝負強さ"を見せている。その彼が見通す連覇への王道がある――。

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 実は昨シーズン、サントリーは開幕戦でブルテオンになす術なく敗れている。パリ五輪後で選手の合流が遅れ、髙橋も足首の状態が万全ではないなど、出遅れていた。シーズンを折り返し、昨年12月の天皇杯で優勝を飾ったあと、彼らは軌道に乗った。
結果的に、その成長曲線がレギュラーシーズン後のチャンピオンシップで優位に働いたと言える。

「正直に言えば、去年も"そうやって負けて、自分たちは強くなった"というのはあります。(去年の開幕時より状態は悪くなく)今日は1セット目で巻き返して取れていたし、3セット目も終盤は追いつけました。そこをポジティブに捉えて、これからの戦いに挑めるようにしたいと思います」

 髙橋はそう語り、ネガティブな様子はなかった。

 サーブで崩し、ブロックで勝負する。それが昨シーズンの"王者の構文"だった。サーブだけでも多彩で、髙橋のショートサーブは異彩を放っていた。そしてドミトリー・ムセルスキーや小野寺太志が立ちはだかるなど"制空権"を握った。

【2戦目にして初戦の課題をクリア】

 この試合に関しては、全体的にサーブの効果率が低かったことが劣勢につながったか。

「自分たちはブロックディフェンスが強みです。サーブからしっかり崩してブロックで勝負する。今シーズンはさらに関田(誠大)選手がコンビを組み立てていく感じですかね」

 髙橋は言うが、ジェイテクトSTINGS愛知から移籍してきた関田はプラスアルファのキーマンと言える。

関田は今も別次元のプレーで多彩な攻撃を操る。これからコンビをすり合わせたら、彼の独壇場となるだろう。

 言い換えれば、髙橋自身もスパイカーとして違うフェーズに入るということだ。

 翌10月25日、ブルテオンとの再戦で、サントリーはポテンシャルの高さを示した。結果はセットカウント1-3の勝利だった。1、2セットを連取したが、3セット目を奪われ、4セット目も拮抗した展開で、失っていたら流れを持っていかれていたところで、踏みとどまった。

 試合全体を通して言えば、サーブ効果率が目に見えて上がっていた。髙橋もエースはなかったが、初戦の4.7%が10%と倍以上になった。前日の課題をクリアしていた。

「基本、自分がサーブを打つときには、ブルテオンの前衛のブロッカーの高さを意識していました。無理してサーブを打って、リスクを負うよりは、(ブロックの)一枚数を減らす、って。ショートサーブでミドルをなくすのもそうだし、"ミスは少なくして攻めていける"効果的なサーブを打つ意識をしていました」

 髙橋はそう説明したが、サーブの工夫がブロックディフェンスも旋回させた。

それはチーム全体の戦いのプランにつながるものだった。甲斐孝太郎もリリーフサーバーとしてジョーカーになっていたし、巨人イゴール・クリュカは3本のブロックポイントを取って壁を形成していた。

「そこは自分たちのやろうとしていることがはまったなって思います。それが昨日ははめられなかった。まだ波があるというか、今日も1、2セットは楽な展開でしたが、最後は競りました。いいものを常に出していけるように、完成度を高めていきたいですね」

 3セット目、サントリーは完全に流れを失っていた。髙橋も一度ベンチに下がるほどだった。彼曰く、「昨日もフル出場していましたし、オリビエ(・キャットHC)も"一度外に出て頭をクリアに"という意図があったのかもしれません」という状況だった。

 しかし、苦境の4セット目がハイライトになっている。

 髙橋には、ヒリヒリとした感覚を楽しめるところがある。西田有志のブロックアウトを狙ったスパイクでセットポイントを取られ、一度は追い込まれた。ミスは許されなかったが、関田のトスをブロックアウトで得点し、24-24のデュースに持ち込む。

そして25-25からプッシュでマッチポイント。最後は髙橋のサーブで崩した後、ムセルスキーがシャットした。

――4セット目、勝負にゾクゾクする表情をしていましたね?

 取材エリアでそう声をかけると、髙橋は明るい声で答えた。

「いい緊張感を持ってやれていますね。ああいう場面こそ、自分は"勝負の世界"だと思っているんで。あそこで勝っていけるか。自分にとってもいい経験だったし、チームとしても勝つことは大事でした」

 開幕連戦は1勝1敗となった。昨シーズンは2連敗だったことを考えれば、仕上がりは悪くない。

「今のチームはチーム力が上がっていくと、去年以上になるはずです。連覇するには、去年以上の力をつける必要があるでしょう。他のチームのレベルも上がってくると思いますし、そこで準備しないと」

 髙橋はそう言って、常勝チームの主将の顔を浮かべた。

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