韓国人Jリーガーインタビュー
キム・テヒョン(鹿島アントラーズ) 前編
Jリーグ30数年の歴史のなかで、これまで多くの韓国人選手がプレーしてきた。彼らはどのようなきっかけで来日し、日本のサッカー、日本での生活をどう感じているのか。
【左利きのセンターバック】
「残り試合、神戸、京都との上位直接対決にしっかり勝つことですね」
10月5日のJ1リーグ第33節ガンバ大阪戦後に彼はそう話した。いよいよ佳境のJ1リーグ。その後、鹿島アントラーズは翌節10月17日のヴィッセル神戸とのアウェーゲームをスコアレスで終え、25日の京都サンガF.C.との対戦も1-1と引き分けた。
3節を残し、首位に立つ鹿島の守備ラインに韓国人プレーヤーがいる。
キム・テヒョン。今季から鹿島アントラーズに加入し、5月以降はリーグ戦のほぼ全試合で先発出場を果たしている。
187センチ、82キロ。自分のエリアに進入してきた選手は、その体躯を生かして抑え込む。一方、最終ラインからのビルドアップでは右足でファーストコントロールし、左足から柔剛織り交ぜたキックを繰り出す。
「左利きのセンターバック」。キム・テヒョンは、レアな存在なのだ。だからこそJリーグクラブが外国人選手にその役割を求める。
2000年生まれの25歳。10代の頃から年代別代表に選ばれる存在だった。2019年にKリーグの蔚山HD(当時は蔚山現代)に加入。しかし出場機会は得られず、2部リーグへのレンタルを繰り返していた。2021年に蔚山に復帰も、またしても機会を得られず。2022年にベガルタ仙台へレンタル移籍した。2024年にJ1(当時)サガン鳥栖で26試合出場後、鹿島アントラーズからのオファーが届いた。今年7月にはA代表にも選出され、E-1サッカー選手権香港戦でデビューを果たしたほか、9月のメキシコ戦でも先発出場を果たしている。
彼は一体、Jリーグでの日々に何を思うのか。
【韓国の「部活育ち」】
実のところ、少年時代に日本についてのイメージはあまりなかった。
「日本と言えば......一度、遠征に行って試合をしたという程度の印象でしたね。あとはアニメ映画の『ハウルの動く城』を観たというくらいで」
ソウル近郊の金浦市育ち。
ある時、試合前日に見知らぬおじさんから「ちょっとシュートを打ってみて」と声をかけられた。左足で蹴ると、ボールは強くゴールポストに当たって、外に出た。
その人から連絡先を聞かれた。しかし、知らない人に心を許すなという親の教えを守り「嫌だ」と断った。のちにその人が地元・金浦市のサッカー名門校の監督だったことを知る。
「結局、中高では地元では有名な通津(トンジン)という中高一貫の学校でプレーしました。高校に上がる時、Kリーグの水原三星の下部組織を兼ねる学校から誘われたりもしたんですが、家から通えるところでやりたいと思ったんです」
だから「いつの日か海外でプレーする」といった夢を描いたこともあまりなかった。むしろそのきっかけを掴める「代表チームが嫌だった」という。
「U-16からずっと選んでいただいていたのですが......あんまり楽しい思い出ではなかったんです。招集された選手たちはほとんどプロのユースチームでプレーしていて、僕は普通の高校から。
Kリーグでは2008年から各クラブにアカデミーの設置が義務付けられた。現在でも名門校にプロの指導者を派遣したり、独自に高校サッカー部を設置するなどの形式でユースチームが運営されている。参考までに直近の2025年10月上旬に招集されたU-17代表の合宿メンバー26人のうち、高校所属選手は3人のみだった。
当時も少数派だった「部活育ち」のキム・テヒョン。高校時代までは「センターバックからドリブルしても突破できた」と言うほど思いどおりにプレーしていたのだった。
そんな環境は、のちのKリーグ時代に苦境を招くものにもなった。
「2部へのレンタル移籍の時代はよかったのですが、2019年、2021年に所属したKリーグ1の蔚山の時代は全くだめでした。ゲーム体力というものを理解できていなかったんです。レギュラー陣と同じように練習して、試合に出ればいいんでしょ? と思っていました。実際に急に試合に出ると、脚の筋肉が固くなってしまう。経験がなかった、ということですね」
言い換えるなら、10代の頃にはほとんどサブの経験がなかった、ということだろうか。
【日本でイチからサッカーを学んだ】
そんな韓国の"ハイスペック天然素材"がJリーグと出会った。2022年、ベガルタ仙台にレンタル移籍したのだ。
Jリーグ行きの話は、自ら強く望んだというよりはエージェントが提案してくれたものだった。
レギュラーを張った2部リーグ(2019年大田ハナシチズン、2020年ソウルイーランドFC)時代の映像が作成されたはずだが、本人は細かいことを知らない。
売り文句は「韓国U-23代表のセンターバック」だった。しかし、原崎政人監督(当時)率いるチームに加わり、衝撃を受けた。
「もう、イチからサッカーというゲームのプレーについて学ぶ感じでした。しっかり蹴ってパスを出して、ポジションを変える。基本をまず重要視する。ビルドアップする時の距離感とか動き、そういうのが日本で、またあらためてやり直すような感覚でした」
Kリーグ時代「新人は無条件で1日3度のトレーニング」を課されたこともあった本人にとっても、Jリーグのトレーニングは「別の意味でキツかった」という。
「なぜ今、自分はこの年齢(当時22歳)でこんなことを学んでいるのか。そんな葛藤もありました。日本の選手たちはこういったことを若い時から学ぶのか、と。韓国にも技術的に高い選手はいますが、日本の選手たちはこういった個人戦術のベースがあるのだなと感じたものです」
それでも、1年目からJ2リーグで30試合の出場機会を得た。
「まず左利きという特徴は必ずチームのなかで生かそうと。ビルドアップ時のキックでしっかり展開できるところ。そしてスピードや、フィジカル、攻撃的にプレーすること。そういった点には自信がありました」
【礼儀正しい日本の姿に驚いた】
一方で、多くのコリアンJリーガーたちがぶつかる、「韓国よりもゆるやかな先輩・後輩の関係(つまりは年下の選手が慣れ慣れしくしすぎる)」「時に日本人選手たちの勝負へのこだわりが弱く見えることに対する葛藤」などの文化的な壁はあまり感じなかった。このあたりは、韓国で急激に進む世代間の感覚の変化が表れている。
「上下関係に関しては、僕は年下の選手がフランクに接してきても大丈夫でした。日本では韓国よりも先輩に対して意見を言える雰囲気も心地よいものです。年齢に関係なく、何か不満があれば喧嘩してでも解決していく。そこは韓国と違いました。遠慮なくやる。
仙台時代、チームメイトから「テテ」というあだ名をつけられた。最初は「なんのことだろう」と思っていたが、本名が「キム・テヒョン」であるBTSのメンバー「V」のあだ名から来ているのだった。
「話を聞いて、悪い気はしなかったです。いいじゃないですか。ただ本名を正確に韓国語で言うと、最後の『ン』の発音が日本語とはちょっと違うのですが」
いっぽう、ピッチ内外では「すごく礼儀正しい日本の姿に驚いた」。コンビニのスタッフが毎回、しっかりと挨拶してくれるのは韓国と違う点だった。「礼儀正しくされるからこちらも礼儀正しくしよう」と考えるようになった。
日本語の勉強は、2年目の2023年シーズンから本格的に始めた。ピッチで最初に自分自身が使った単語は「アゲロ(守備ラインを上げろ)」だったと記憶している。ただひとつ、難しかったのは英語など外来語が基になるサッカー用語だった。例えば「バックパス」を強いて韓国語でカタカナ表記すると「ベッペス」となる。これを理解するのがちょっとだけ大変だった。
2023年のシーズンを終え、いったんレンタル移籍期間が終了した。2024年からは、J1サガン鳥栖に完全移籍。環境の変化に苦しみながらも26試合に出場を果たした。一方でクラブはJ2に降格。自身は最後の4節で出場機会を失う憂き目に遭った。
進む道を悩んだ。鳥栖に残れば来季はJ2だ。自身はすでにKリーグ時代に2部での修業は積んでおり、葛藤があった。何より、目標としているA代表入りは遠のく。
あれこれと考えを巡らせていた12月の折、部屋で横になっていると電話が鳴った。
鹿島アントラーズからのオファーだった。
>>後編「キム・テヒョンが感じている鹿島アントラーズの伝統の力」につづく
キム・テヒョン
金太鉉/2000年9月17日生まれ。韓国・ 京畿道金浦市出身。レフティのセンターバック。2019年にKリーグ1部の蔚山現代(現蔚山HD)に入団。7月から2部の大田ハナシチズン、翌2020年は同じく2部のソウルイーランドFCに期限付き移籍。2021年は蔚山現代に戻り、2022年にベガルタ仙台へ期限付き移籍し2シーズンプレー。2024年にサガン鳥栖に完全移籍。2025年からは鹿島アントラーズでプレーしている。高校時代から世代別の韓国代表に選ばれ、今年7月にA代表デビューを果たした。

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