寬仁親王牌で嘉永泰斗がGⅠ初決勝&初優勝 「長かった」の言葉...の画像はこちら >>

【ニュースター誕生】

 初のGⅠ決勝出場にして初優勝――。競輪界でまた新たなヒーローが誕生した。

 10月23日(木)から開催された『第34回 寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメント』。

26日(日)の決勝で、9選手のなかで最年少の27歳、嘉永泰斗(熊本・113期)がGⅠ初制覇を果たした。これで嘉永は年末に行なわれる最高峰のレース『KEIRINグランプリ2025』への出場を内定させた。

 この寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメントは、1990年にアジア初となる世界選手権自転車競技大会が前橋で開催されたことを記念して『1990年世界選手権自転車競技日本大会特別記念レース』としてスタート。1994年から現行の名称として開催されてきた。

 今回の会場となった前橋競輪場は日本最初のドームバンクで、決勝の日の外は小雨がぱらつく肌寒い天候だったが、室内は上着を脱げるほどの心地よさ。日曜日開催ということもあって、往年の競輪ファンはもちろん、家族連れや女性の姿も数多く見られた。

【絶好の位置から初戴冠】

 今開催では、何度か落車があったり、優勝候補筆頭だった脇本雄太(福井・94期)が3日目に練習中のケガで欠場したりするなど、波乱の様相を呈していたが、決勝には、いずれも実力のある9人のタレントが揃った。

 戦前の予想どおり、犬伏湧也(徳島・119期)、松本貴治(愛媛・111期)、小倉竜二(徳島・77期)の四国勢、吉田拓矢(茨城・107期)、恩田淳平(群馬・100期)の関東勢、清水裕友(山口・105期)、河端朋之(岡山・95期)の中国勢がそれぞれ連携し、古性優作(大阪・100期)、嘉永のふたりが単騎として戦った。

 レースは序盤、四国勢、古性、中国勢、関東勢、嘉永の並びで進む。「ひとりだったので流れを見て行けるところで行こうと思った」という嘉永は、最後尾に位置していたが、関東勢についていったことが結果的に奏功する。

寬仁親王牌で嘉永泰斗がGⅠ初決勝&初優勝 「長かった」の言葉に隠された苦難の道のりとは
序盤は最後尾に位置(5番車・黄色) photo by Kishiku Torao
 残り2周半になると関東勢が透かさず前に出て、それについていく形で嘉永は3番手に。「後ろを見る余裕はなく吉田さんたちの動きに集中していた」嘉永は、そのまま必死に関東勢に食らついていくと、ラスト1周になったところでも3番手をキープしていた。

「絶好の位置だ!」

寬仁親王牌で嘉永泰斗がGⅠ初決勝&初優勝 「長かった」の言葉に隠された苦難の道のりとは
残り1周で3番手につける嘉永(5番車・黄色) photo by Kishiku Torao
 嘉永にとってまたとないチャンスが訪れた。
その状況から「踏んだら行ける」とみた嘉永は、2番手の恩田を捉えてバックストレッチを2番手で駆け抜けると、最終第4コーナーでついに吉田を捕まえる。さらに加速した嘉永は2番手に上がってきた松本に1車身以上の差をつけてゴール線を1着で通過した。

寬仁親王牌で嘉永泰斗がGⅠ初決勝&初優勝 「長かった」の言葉に隠された苦難の道のりとは
最終局面で振り切って1着でゴール photo by Kishiku Torao
 GⅠ初制覇に嘉永は「うれしいし、信じられない」と喜びを口にした。

 関東勢をけん引し5着となった吉田は「脚力を残した状態の古性選手と嘉永選手が(後方に)いるのはきつかった。最近は先行をしていなかったので、そのツケが出た」と語れば、3着の古性は「嘉永選手が強くて僕が弱かっただけ」と悔しさをにじませた。

【地元開催への出場を目標に】

 嘉永は決勝前日に、「やっとここまで来られた」とGⅠ初決勝の感想を語ると、優勝会見でも「(ここまで)長かった」と素直に話した。

 嘉永がデビューしたのは2018年7月、20歳の時。ここまでの約8年間で、何度か落車を経験し、ケガも多く、ヘルニアの手術も行なっている。2019年には失格により約3カ月間出場できなかった苦い過去もあり、自暴自棄になっていた時期もあったという。楽しい日々はあっという間に過ぎ去り、辛く厳しい日々は長く感じるものとよく言うが、「長かった」という発言はつまりそういうことだろう。

「昨年は調子を落とし苦しい時期があった」というが、近年ではGⅠの常連で、今年は全GⅠに出場。とくに自身も語るように、準決勝に勝ち進んだ8月のGⅠ『オールスター競輪』の頃から上り調子となり、9月のGⅡ『共同通信社杯競輪』では決勝に進出して4着に入っている。

これらのことからも今回の優勝が決してフロックではないことがわかる。

寬仁親王牌で嘉永泰斗がGⅠ初決勝&初優勝 「長かった」の言葉に隠された苦難の道のりとは
優勝会見では冷静にレースを振り返った嘉永 photo by Kishiku Torao
 また、ここのところの好調は、来年2月に地元・熊本で開催されるGⅠ『読売新聞社杯全日本選抜競輪』への出場権の獲得もモチベーションのひとつだった。今回の優勝で来年は最上位クラスの9人にあたるS級S班で戦うと同時に、同GⅠへの出場もほぼ確実になった。「それを目標にやっていたので本当にうれしい」と嘉永。そして「責任のある位置。プレッシャーがかかると思うけど、負けないようにまたこれから練習していきたい」と気を引き締めた。

 2025年に残すビッグレースは、11月19日(水)からの『朝日新聞社杯競輪祭』と年末の『KEIRINグランプリ2025』。嘉永という新たなスターがどんな旋風を巻き起こしてくれるのか、そしてこの先、競輪界にどんな変化をもたらしてくれるのか、今から楽しみだ。

【Profile】
嘉永泰斗(かなが・たいと)
1998年3月23日生まれ、熊本県出身。中学まで野球に励み、高校から自転車競技を始める。高校卒業後に競輪学校(現:日本競輪選手養成所)へ入学し、2018年、20歳で競輪選手デビューを果たす。2020年にS級2班に特別昇級し、2022年からS級1班となる。

2025年9月のGⅡ「共同通信社杯競輪」で4着となり、同年10月の「第34回 寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメント」でGⅠ決勝初出場初優勝を飾った。

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