F1第20戦メキシコシティGPレビュー(前編)

 今年もまた、メキシコシティのジンクスが角田裕毅(レッドブル)に襲いかかった。

 スタート直後の混乱を縫って8位にポジションを上げ、周りとは違うミディアムタイヤを可能なかぎり引っ張ってピットストップへ。

順当にいけば、実質10位のイザック・アジャ(レーシングブルズ)の前でコースに戻り、そこからソフトタイヤの優位性を生かしてどれだけ順位を上げていけるか、というレースだった。

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「簡単にポイントが獲れたはずのレースでしたけど、自分たちでそれを投げ捨ててしまいました。自分でどうにかできる範囲のことではないので、フラストレーションを感じます。だけど、これがレースなのでしょうがないですね」

 いつもは2秒台前半で最速をマークすることも少なくないレッドブルのピットクルーだが、今回はリアジャッキのバランスが崩れて左リアが落下してしまい、タイヤ交換に11.85秒もの時間を要してしまった。

 これで約9秒をロスし、角田は入賞圏外まで落ちてしまった。その後にアジャは抜いたものの、入賞圏まで2.626秒届かず11位に終わった。

 ただし、角田がフラストレーションを爆発させたのは、そのピットミスではなかった。

「ストラテジー(戦略)自体は悪くなかった。マックス(・フェルスタッペン)が3位で終わっているので、悪くなかったと思います。(問題だったのは)ピットに入るタイミングですね」

 タイヤがかなり厳しくなってきた31周目、後方からは新品タイヤに交換した上位勢5台が角田に追いついてきた。彼らと争い、抜かれてタービュランス(乱流)を浴びれば、タイムロスを強いられる。

 それを避けるべくピットインを要求する角田に対して、チームからの指示はステイアウト。

その結果として、毎周1.5秒ほど遅いペースで5周走り続けることになり、トータルで約5.7秒ものロスを喫してしまった。

「ラップタイムを失っている! まったく理解できない!」

 角田はレースエンジニアのウッドに対して怒りをぶつけた。だが、彼からの返答は「可能なかぎりディフェンスしてくれ。チームを助けてくれ」というもの。

 角田の背後に迫った5台はフェルスタッペンとポジションを争うライバルであり、彼らを抑え込むことがフェルスタッペンに対する援護射撃になる。そういうチームプレーだった。

【9位になるチャンスを逃した】

「入るタイミングとピットストップのロスで大きく後退してしまいましたけど、自分のやったこと自体はよかったですし、レースペースとしてはレッドブルに昇格してから最もよかったのではないかと思います。タイヤを使いきるという点でも、今回は悪くなかったと思います。それが結果という形に表われなかったのは、すごく残念ですけどね」

 これは戦略ミスではなく「チームプレーを角田にやらせる」というチームの判断であり、角田自身もそれを受け入れたのだから、そこにフラストレーションをぶつけるべきではないだろう。

 しかしそうは言っても、角田自身のレースが犠牲になってしまったことは確かだ。

 トラフィックに巻き込まれる前にピットインしていれば、エステバン・オコン(ハース)の前、9位でコースに戻ることができた。しかし、4位を獲得したオリバー・ベアマン(ハース)と同等のペースがあったオコンが、2ストップ作戦でフレッシュタイヤに履き替えた上位5台に簡単に抜かれて8位から19秒も離されてしまったことを考えると、角田が彼らと戦うことも現実的ではなかっただろう。

 つまり、「チームプレー」で失ったのは9位になるチャンスであり、「ピットストップのミス」で失ったのは10位1点だった。

 もちろんチームはそのことをきちんと理解し、予選でのフェルスタッペンとの僅差やレースペースの改善も事実ベースとして判断している。結果は大切だが、結果がすべてではなく、内容を評価している。

 だからこそ、来季のシート決定もこの10月末ではなく、最終戦アブダビGP前の11月末に延期することを決めた。あと3戦、角田に「内容」と「結果」でチームを納得させるための猶予が与えられたのだ。

◆つづく>>

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