SVリーグ開幕戦で注目を集めた選手たち(後編)

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 放たれるジャンプサーブを、涼しい顔でレシーブする。時速100キロを優に超えるスピードと重さをものともせず、セッターに返して攻撃へつなげる。

その1本が得点に結びつくと、大阪ブルテオンの山本智大は床を叩き、右手を強く握りしめ、大きなガッツポーズで喜びを表現した。

【男子バレー】山本智大は厳しく評価されるリベロのポジションで...の画像はこちら >>

「重要な場面でいいサーブが入ってくる。特にアライン(・デ・アルマス)のサーブはかなりよかったので、自分にもプレッシャーがあった。その状況でしっかり、1本で返すことができたので、自分に対してだけでなく、今度は相手にプレッシャーも与えられる。その気持ちが、そのまま(ガッツポーズになって)出ました」

 今季のSVリーグでは、運営面や競技面でさまざまな変更がなされ、アップデートを遂げている。リベロに関わる大きな変更のひとつが、相手のジャンプサーブ時にトスを上げたタイミングで動き出してもいい、とルールが変わったことだ。

 これまではローテーションによって、リベロの守るポジションが中央になることもあれば、右端、左端になってアウトサイドヒッターがふたり並ぶ場面もあった。相手のサーバーとのマッチアップを考えてローテーションが組まれているが、たとえば昨季、SVリーグのMVPを受賞したニミル・アブデルアジズ(ウルフドッグス名古屋)のように、リベロやどんなレシーブの名手でもなかなか返せないサーブを打つ選手もいる。

 サーブが勝敗を左右するのは、今に始まったことではないが、近年は特にサーブの得点率が上がるなか、いかにそこで失点せず、自チームのチャンスにつなげるか。そこが問われている。

 返球率を高めるには、リベロがレシーブするのが好ましいが、サーブを打つ側からすれば"守備専門"のリベロは戦略として狙う以外、安易にサーブを打ち込む相手ではない。レシーブをしてから攻撃に入るアウトサイドヒッターを狙い、少しでも攻撃へ入るタイミングを遅らせるなど、プレッシャーをかけるのが一般的だが、それではリベロの出番がない。

【ルール変更はジャンプサーブの返球に長けた山本に朗報】

 ジャンプフローターサーブのように、打たれてから少し間があるサーブをレシーブする際は、隣の選手が守るコースまで範囲を広げたり、ポジションをスイッチすることもできたが、瞬きする間にボールが飛んでくるジャンプサーブではそれも不可能だ。今回のルール変更はディグを得意とし、フローターよりもジャンプサーブの返球に長けた山本にとって、朗報と言うべきものだった。

「ルールが変わってからは、僕が少しでも多く真ん中(のポジション)で取れるケースをつくりたい、と監督に話しました。そのほうが、甲斐(優斗)や(ミゲル・)ロペスに取らせるよりも返球率は高くなる。それに今年はより攻撃力が高いので、僕が1本目を取ればその分ふたりは攻撃に専念できる。チームがよりよく回るように、もっと自分ができることを発揮できると思うし、まだまだ磨いていけると思っています」

 加えて、チームのセッターがアントワーヌ・ブリザールになり、ネット際の高さもある。それも山本には大きなプラスだという。

「今までの感覚だと(ネットを)超えたと思うボールも、余裕でさばいてくれる。むしろちょっと突き気味で返すと、『低い』と言われるので、サーブレシーブにかかるストレスが相当減りました。僕は今まで小柄なセッターとしかやってきていないので、どちらかというと高さよりも突き気味に返すことを優先していた。でも彼(ブリザール)には『高く山をつくって落としてくれ』と言われるので、パスをする側からすると本当にありがたい。しかもそこでセッターの攻撃もあるし、自チームのサーブからのトランジションも、ブロックが高いから抜けてくるコースが明確なのでめちゃくちゃ拾いやすい。やっていて、かなり楽しいですね」

 昨シーズンはパリ五輪を終えてから間もなく、SVリーグが開幕した。

レギュラーラウンドは44試合と、一気に試合数が増えただけでなく、在籍する外国籍選手のレベルも一段、二段と引きあがり、リーグ自体のレベルも格段に上がった。

【「新しい挑戦をしている実感がある」】

 そのなかで、レシーブがうまくいかなくても、攻撃面でフォローすることでバランスがとれるアタッカーと異なり、リベロはミスが許されず、攻撃で挽回することはできない。隣の選手をフォローしたために守備位置が広がった結果、逆を突かれてサービスエースを取られた1本だったとしても、リベロが取れなければ、「リベロなのに」という目が向けられる。

 縁の下の力持ちでありながらも、厳しい評価を下されることが多いリベロ。そんなポジションの面白さを自らのプレーで見せてきたのが山本であり、共に切磋琢磨してきた小川智大でもある。世界にも名を轟かせる日本が誇るリベロの存在は、バレーボールの楽しみがディフェンスにもあることを、何度も何度も印象づけてきた。

 当然、それだけ厳しい戦いが続けば、心身ともに疲弊する。ロラン・ティリ新監督のもと始動した日本代表で、山本や石川祐希、髙橋藍、小野寺太志といったパリ五輪を戦った選手たちは、ネーションズリーグが始まってから合流。信頼関係の現れとも言えるが、大会終盤に合流してから本来の力を発揮するのは容易ではない。小川はネーションズリーグの大半に出場し、世界選手権のトルコ戦とカナダ戦にも出場したが、ストレートで敗れ、予選敗退という屈辱も味わった。

 それからまだ1カ月半、日本代表では厳しいシーズンを過ごした山本が、SVリーグ開幕戦でようやく本来のパフォーマンスを披露し、何より楽しそうにプレーしていた。満員の観衆のなかでも声が響き、レシーブが得点につながれば大きなアクションで喜びを表現した。

「(ブルテオンの)監督も代わって、(新監督のトーマス・)サムエルボさんは誰に対しても同じように接して、同じように怒る。その結果、チームが同じ方向に向かっているのを感じるし、新しい挑戦をしている実感があるので楽しい。もちろん"優勝"という目標はありますけど、そこだけを見すぎず、目の前の試合を楽しみながら成長していきたいです」

 そう語った山本だけでなく、個々やチームがどんな変化を遂げていくのか。長く、熱く、楽しいシーズンが始まった。

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