現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 左足首に問題を抱えていた久保建英だったが、公式戦4試合ぶりに戦列復帰したバスクダービーで好プレーを見せ、チームも勝利を収めた。

 今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、久保がケガで休んでいた時のチームを取り巻く近況を書いてもらった。

久保建英はバスクダービーで力強く復帰して監督も安堵「我々が望...の画像はこちら >>

【今季の注目選手がケガで離脱】

 今シーズン、ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)で最も注目される選手は、やはりヤンヘル・エレーラだ。その理由は獲得時の期待の大きさ、ケガでデビューが遅れたこと、そしてミケル・メリーノを売却した昨夏以降、ラ・レアルが必要としていた特徴の選手だったためだ。

 それだけに、開幕当初のヤンヘル・エレーラ不在は、ラ・レアルがチームのバランスを見出す上で大きな痛手となっていた。ボールロスト後のカウンターで何度も決定的な失点を許したような事態は、彼がいたなら回避できたかもしれない。彼は指揮官のセルヒオ・フランシスコから電話で「相手のカウンターを食い止めてほしい」と求められたことを入団発表セレモニーで明かしていた。

 もちろん彼の役割はそれだけではない。連係面や得点能力に優れ、ラ・レアルが切実に必要としている"試合を支配する"能力を備えている。デビュー戦となったラ・リーガ第9節セルタ戦(1-1)の前日、セルヒオ・フランシスコは「8番のポジションで起用するつもりで獲得したが、さらなる可能性を与えてくれる。ダブルボンランチ、中盤ダイヤモンド型の一角、インサイドハーフとして機能できる」と説明していた。

 セルタ戦でスタメン出場したヤンヘル・エレーラは、ジョン・ゴロチャテギとダブルボランチを形成し、チームを勝利に近づけるレッドカードを誘発した。続くホームデビュー戦となったセビージャ戦(2-1)でも先発し、勝利のカギとなるPK獲得に貢献している。

 ところが、そのセビージャ戦で再びヒラメ筋を負傷。残念ながら復帰を12月あるいは来年まで待たなければならず、チームにとって悲劇的な事態となっている。

 彼の欠場で重要になるのは、試合を重ねるごとにパフォーマンスを向上させているカルロス・ソレールだ。少なくとも彼が復帰するまでそのポジションで先発するはずだ。ベニャト・トゥリエンテスとパブロ・マリンもベンチからより多くの出場機会を得られるだろう。

 問題はヤンヘル・エレーラ復帰時にも発生する。カルロス・ソレールが好調なら、そのレベルを考えるとベンチに置くのは難しい。さらに、チームで重要な役割を担うブライス・メンデスもいる。そのためセルヒオ・フランシスコは、今のシステムを維持するためにどちらか一方をベンチに置くか、レギュラーに据えているゴロチャテギの代わりにヤンヘル・エレーラをアンカー、カルロス・ソレールとブライス・メンデスをインサイドハーフで起用するか、もしくはシステム変更するかを選択しなければならない。

【久保不在でもラ・レアルは好調】

 競争力を取り戻したチームは、久保が負傷欠場した公式戦3試合で2勝1分けという好成績を残した。セルヒオ・フランシスコはその初戦となったセルタ戦でシステムを5-2-3に変更した。右ウイングは置かず、インサイドとアウトサイドの役割を兼務したブライス・メンデスが非常にいいプレーを見せた。そして終盤、右サイドに投入されたゴンサロ・ゲデスが試合の流れを一変させてカルロス・ソレールの同点弾をアシストし、1-1で引き分けた。

 続くセビージャ戦では久保のポジションを、最大のライバルであるゴンサロ・ゲデスが務めた。いつも以上に多くの仕事をこなした彼は大いに貢献した。

攻撃面では久保不在が大きく影響したものの、2-1で勝利している。

 3戦目となった国王杯の相手は6部のネグレイラ。控え組が全員起用され、純粋なウインガーを置かず、パブロ・マリンがやや右寄りでプレーし、3-0で勝利した。

 これまでの試合を振り返ってみると、久保出場時のチームが特別よかったというわけではない。ラ・リーガ開幕のバレンシア戦(1-1)では自らのゴールでチームに勝ち点1をもたらし、続くエスパニョール戦(2-2)では0-2から同点に追いつくプレーに関与して幸先のよいスタートを切り、第6節マジョルカ戦(1-0)でも勝利に貢献したのは確かだ。

 しかし偶然か否か、バルセロナ戦(1-2)とラージョ・バジェカーノ戦(0-1)では久保の途中出場後に決勝点を決められ、オビエド戦(0-1)とベティス戦(1-3)は彼がピッチに立っている間に失点を許して敗北を喫する結果となった。

 これらはもちろん久保の責任というわけではない。しかし、彼のパフォーマンス低下とラ・レアルが失点したタイミングが一致しているのも事実だ。久保の輝きがないのは寂しいが、彼不在のなかでもラ・レアルはうまく機能し、今シーズン最高の瞬間を迎えている。

【力強く復帰した久保】

 そうしたなか、久保にとってバスクダービー(3-2)ほど戦列復帰にふさわしい舞台はなかった。

 右ウイングで起用されたゲデスがすばらしい活躍で得点を挙げたが、後半18分に"試合の流れを変える起爆剤"として投入された久保も、最初2回のプレーでアスレティック・ビルバオを震え上がらせ、3万8000人の観客を沸かせた。どちらのプレーも右サイドでボールを受けた際に持ち味を発揮し、中に切り込んだものだった。

 始めにイニゴ・ルイス・デ・ガラレタのイエローカードを誘発。2回目は攻撃の起点となってザハリャンのゴールをアシストしたが、最終的に自身のオフサイドにより取り消された。ケガから復帰したばかりだったにもかかわらず、いい時間を過ごしていた。

 セルヒオ・フランシスコは試合後、久保の状態について質問された際、「彼の足首が試合に出られる状態であることが確認できた。我々が最近見ていた姿とは違っていたよ。ボールに触れるたびに対峙した相手に脅威を与える能力を発揮し、まさに我々が望むタケだった」と安堵の表情を浮かべて答えていた。

 ラ・レアルのシーズン開幕時の状況は新プロジェクトのスタートとしては理想的ではなく、セルヒオ・フランシスコはクラブに信頼を寄せられて新監督に就任したものの、何節も降格圏に沈んだことから早くも解任の危機に瀕していた。

 10月と11月のインターナショナルブレイク間に行なわれる試合が最後通牒と見られていたが、セルタと引き分け、その後に公式戦3連勝を達成したことで、見事に危機を乗り越えた。その相手にはセビージャ、アスレティックとの重要なホームゲームが含まれているが、特にバスクダービーでの勝利がすべてを決定づけたと言っていい。もし最大のライバル相手に大敗していたら、間違いなく彼の任期は終わっていただろう。

 現地ではチームの低迷時、クラブがセルヒオ・フランシスコを解任した場合に備え、すでに新監督候補と口頭合意に至っていると報じられていた。具体的にチアゴ・モッタ氏とエディン・テルジッチ氏にオファーを断られた一方、ガルシア・ピミエンタ氏はオファー待ちをしていたとされている。

さらに4人目の人物まで言及されていた。しかし、チームが調子を取り戻した今、ラ・レアルのベンチを狙う監督たちは、もう少し待たなければならないようだ。

髙橋智行●翻訳(translation by Takahashi Tomoyuki)

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