連載 水沼貴史×平畠啓史『水平感覚』

 国内外のサッカー中継の解説者として活躍する水沼貴史さんと、日本屈指のサッカーマニアで知られる平畠啓史さんが、サッカー界のホットな話題をしゃべり倒す連載。今回はルヴァンカップ決勝について。

勝負を分けたロングスローを語った。

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【毎年盛り上がるルヴァンカップ決勝】

水沼 ルヴァンカップの決勝って、やたら盛り上がるじゃないですか。

平畠 盛り上がりますね。

水沼 決勝のあの舞台の演出、綺麗でしたよ。黄色と紫が。

平畠 あそこでやっぱりサポーターの人たちもちゃんとするというか。クラブに恥かかせたら悪いじゃないけど、「ウチらもこれぐらい集まれるんだよ」みたいな感じになりますよね。昨年のアルビレックス新潟とかもそうでした。

水沼 柏レイソルは、日立台(三協フロンティア柏スタジアム)の何倍もの人が来てましたよね。

平畠 だから、Jリーグってそこの人を増やしておくことが大事だなと思って。いつルヴァンカップの決勝に行くかわからないじゃないですか。いざという時に集まれるぐらいの人数を準備しとかんと。

水沼 友だちが友だちを呼ぶみたいな感じですかね。

平畠 それもありますし、サンフレッチェ広島だったら関東在住の広島生まれの方とかも結構多かったんじゃないですかね。なんかこういう時って郷土愛が出ますから。

 試合は、広島が見事に優勝しました。柏のよさを消していくような戦いで......。

水沼 消すどころじゃないですよ。すごかったでしょう。オールコートマンツーマンみたいなマークが。

 柏はここまでのリーグ戦の走行距離が一番。広島はプレーの強度はあるけど、そんなに走るイメージじゃない。ところがこの試合のデータを見ると、柏が全体で123.085キロのところ、広島は124.945なんですよ。1キロ以上も上回るってなかなかないですよ。スプリントも柏141回に対して広島は168回というすごい数字ですよ。

平畠 それだけ広島はこの決勝に向けて仕込んできたってことですね。

【ロングスローの威力】

水沼 それで、佐々木翔が試合後に「セットプレーの強みが出せました」と言っていたんですが......。出ましたね、ロングスロー。

平畠 出ましたね~。

水沼 中野就斗のロングスローの距離、すごくないですか? なんかあれで肩をちょっとケガしていたらしいですよ。

平畠 ロングスローって昔なら和多田充寿(元ヴィッセル神戸ほか)さんとか、距離も飛んでスピードもあるボールを投げていましたよね。だけど、それをゴールに結びつけようというのは、昔はあまりなかったですよね。

水沼 確かに、合わせる人の入り方とか、守備側の選手をブロックするとかまではなかった。

平畠 だから、ロングスローはいつから「点を取れる武器」に変わったのかなと。

水沼 青森山田高校じゃないですか? そして、黒田剛監督からFC町田ゼルビアみたいな。昔から投げる人はいたけど、中で勝てる人がいないと無理でしょうから。

 今回は投げて、それを荒木隼人がそのままゴールするという。直接ヘディングで入れるって、なかなか見ないですよね。

平畠 ちょっと遅れ気味に入っていって合わせました。

水沼 ボールが来る場所に最初からいるのが今までの大体の手だったのが、スペースに投げてそこに入っていく。

平畠 距離が出ても、コントロールがよくなかったら、そこへ行かないですよね。ロングスローばかり練習しているわけではないという話はちょっと聞いたんですけど。だから、ある程度投げる人の技量があって、中で決められる人がいたら、ゴールが生まれるということですよね。

水沼 この試合、中野は9本投げました。

平畠 投げたボールの軌道が垂れないというか。放物線じゃなくて真っすぐ行くのがすごいですよね。

水沼 ゴール前で合わなかったら、もっと行っているということですよね。普通クロスだと、中が混雑していると一回ファーサイドに振って、折り返してもう一回行け、みたないのがあるけど、それをロングスローでやって頭で折り返して中でヘディングシュートってなったら、もうヤバいですね。

平畠 今の感じだったら、それぐらい投げられる人も出てくる気がしなくもない。やっぱりロングスローはすごいし、今回その威力をまざまざと見せられた感じがしました。

水沼 レイソルはロングスローに対する回答を持ってなかったと言っていたじゃないですか。

平畠 あれはマンツーマンでマークしたら、なんとかなるもんなんですか?

水沼 いや、ならないでしょう。FWを前線に残して相手の選手をたくさん上がらせないようにするとかあるようですけど。それでスペースを広く作っておいて、GKが出やすくすると。CKの守備と同じような考え方ができますよね。

平畠 この駆け引きは、もうひと展開、ふた展開あってもいいですね。ロングスローを投げる人、それを守るチームがどうやって対抗していくか。そして対抗されたらどうやり返すか。

【投げる前の準備もサッカーの面白さ】

水沼 いろんな話題を提供してくれるのがいいですよね。スローインだけでこれだけ盛り上がれるという。

平畠 以前、岩上祐三選手がSC相模原に移籍した時に、最初のゲームでロングスローを投げる場面があったんですよ。岩上選手が準備している時、もうそれだけでスタジアムが盛り上がっていたんです。

ロングスローを投げるのは知っているけど、相模原の方も生では見たことがないわけです。だから期待感がすごいんですよね。「どんだけすごいんだろう」みたいな。

水沼 いいですね。投げる前にいろいろ準備して「もっと早くやれよ!」とかあるんだけど、その準備しているところを観客が見てざわつく感じは結構好きなんですよ。

平畠 そこもサッカーの面白さと捉えていただけるといいですよね。アクチュアルプレーイングタイムを増やしていくのも大事ですけど、ちょっとおまけというか、のりしろみたいなのがあるじゃないですか。そこも楽しみたいんですよ。

 サッカーって基本はずっと動いているので、メリハリじゃないけどちょっと止まったところで、「何するんだろう?」みたいな、こっちに考える隙を与えてくれると楽しいんですよね。

水沼 戦術ですからね。広島はなかなか流れから点が取れずに、ここ数試合ずっと苦労していたわけですよ。それが自分たちの強みのセットプレーで点を取って勝った。

平畠 ストロングポイントって相手も消してくるから、なかなかそれが使えないことも多い。でもそこで勝ちきったのはすごいですよ。

水沼 レイソルとしては本当に悔しいでしょうね。

平畠 悔しいと思いますよ。細谷真大選手のゴールはよかったですけどねえ。でも、今回はこのロングスローで決まりですよ。

水沼 悔しいレイソルですが、リーグ戦に集中ですね。

平畠 首位(鹿島アントラーズ)と勝ち点1差です。今回の悔しさをバネに残り3試合です。

水沼 挽回するチャンスがあります。楽しみですね。

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