【連載】
谷口彰悟「30歳を過ぎた僕が今、伝えたいこと」<第29回>
    
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◆第28回>>リハビリ中にダントツでうれしかった瞬間「芝生の匂いを嗅いだ」

 10月14日、東京スタジアム──。谷口彰悟が364日ぶりに日本代表のユニフォームを着てピッチに立った。

 昨年11月8日のベルギーリーグ・メヘレン戦で負傷し、告げられた診断は左足首のアキレス腱断裂。日本に戻って懸命なリハビリを続けながら、北中米ワールドカップ出場を決めたバーレーン戦はスタンド席で見届けた。

 シント・トロイデンで試合に復帰できたのは昨シーズン最終節。谷口彰悟は「アキレス腱断裂」という過去と、どう向き合いながら新シーズンに臨んだのか。

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谷口彰悟が抱えていた「アキレス腱、再断裂」の怖さ 最大の懸念...の画像はこちら >>
 1年ぶりに日本代表のユニフォームに袖を通し、ピッチに立ったことで大きな刺激を受けた。同時に自分の現在地を見つめ直し、あらためて明確に目標を見据える機会になった。

 アキレス腱を断裂するケガを負ったのは、ちょうど1年前の2024年11月8日──。

 手術とリハビリを経て、昨季最後の公式戦にわずかだが出場した。ケガをして以降、新たに自分の身体と向き合い、やり始めたこと、取り入れたことを継続して、シント・トロイデンでの新シーズンに臨んだ。

 幸いプレシーズンからしっかりとトレーニングを積むことができていたが、当初は正直、プレーに対する怖さもあった。アキレス腱は再断裂するケースも多いと聞いたことから、自分の身体(足)にどこまで負荷をかけていいのかわからなかったからだ。

 再発を怖れて慎重に調整を続けていたが、身体を追い込まなければコンディションは上がらない。

一方で、コンディションを上げようとしすぎると、足に負担がかかる恐れがある。術前よりも足首の可動域は硬さがあり、痛みを伴うこともあったため、今までにない調整の難しさを感じた。

 ある種のジレンマだった。練習は普通にできていたが、今はやるべきなのか、それともセーブするべきなのか。毎日が手探りで、内心では怖さも抱えていた。

 それでもプレシーズンでは30分、45分、90分と、順調に練習試合の出場時間を延ばしていた。球際に厳しくいくプレーや相手のスプリントについていく動きも、コンディションが上がるとともに違和感はなくなってきため、試合を重ねていけば、さらに感覚も研ぎ澄まされていくだろうとの手応えもつかんでいた。

【勝てば勝つほど遠のく先発機会】

 強いて懸念を挙げるとすれば、在籍するシント・トロイデンのホームである大王わさびスタイエンスタジアムが、天然芝ではなく人工芝だったことだ。

 天然芝と人工芝とでは、足にかかる負担や疲労は異なる。練習では人工芝も経験していたが、やはりリバウンドがあったため、公式戦の強度と負荷に耐えられるか、一抹の不安があった。そのため、どうしても慎重にならざるを得なかった。

 ワウター・ヴランケン監督に素直に思いを伝えると、ホームで行なわれるリーグ開幕戦での先発出場を回避することになった。ヴランケン監督は、「無理はしなくていい。

シーズンは長いから徐々にやっていこう」と、僕の心境を理解してくれた。

 そうした背景もあり、ベンチで迎えたヘントとのリーグ開幕戦に、チームは3-1で勝利する。その結果を受けてヴランケン監督からは、試合内容も伴っていたため、ひとりだけメンバーを入れ替えるのは難しいと伝えられた。

 僕自身もその状況や監督の判断は、十二分に理解できた。

「常に試合に出る準備だけはしておきます」

 ケガの影響で慎重になったとはいえ、自らほかの選手にポジションを譲る決断をしたわけだから、監督が下した判断に対して、僕が異論を唱えることはできなかった。チームは第2節のシャルルロワ戦に1-1で引き分け、その後は3連勝を飾る。5試合を終えて無敗と、しばらくメンバーが変わるようなタイミングは訪れなかった。

 9月には日本代表の活動が控えていたこともあり、そこでの復帰も視野に入れていたため、はやる気持ちもあった。

 当時の自分に与えられていた仕事は、試合終盤に途中出場して、試合を締めるクローザー的な役割。それ自体は貴重な経験として得るものもあったが、自分が役割を全うし勝利に貢献したところで、状況が覆るわけではない。勝利した試合で評価されるのは、あくまで先発出場した選手たちだからだ。

 チームが勝てば勝つほど、自分が先発復帰する機会は遠のいていく。

勝利はうれしい一方で、選手としては複雑な心境だった。

【一つひとつ思い出しながらプレー】

 そこには当然、焦りもあった。だが、すべては自分の判断により招いた事態。その決断を後悔したところで、何かが変わるわけではない。後ろを見るよりも、いつか来るチャンスを確実につかむために、前を向こうと開き直った。

 転機が訪れたのは8月末だった。夏の移籍期間で右サイドバックを担っていた選手が移籍したのである。そのため、センターバックを務めていたレイン・ヴァン・ヘルデンが右サイドバックに回ることになり、自分にセンターバックとして先発出場する機会が巡ってきたのだ。

 ヴランケン監督からも「次は(先発で)行くぞ! 大丈夫か?」と聞かれ、試合は人工芝のホームだったが、今度は強くうなずいた。

 先発に復帰した9月15日のウェステルロー戦は0-3で敗れたように、自分自身もPKを献上するなど、対応が甘かった。ただし、約1年ぶりの先発だったがプレーした感覚的には、見えているところやビルドアップについては決して悪くなかった。むしろ課題を感じたのは守備のところ。どこかイメージと実際のプレーが合致していない感覚があった。

 簡潔に言い表せば、それを「試合勘」と呼ぶのだろう。危機察知能力によって、いち早く相手の攻撃を読んで対処する。そこは自分の武器のひとつだと思っている。それだけに、試合の流れを読みきれない自分にもどかしさがあった。

 久々の先発出場とあって、試合中も「今、何をしなければいけないのか」「今、何をしてはいけないのか」、今まで自分が蓄えてきた経験を、一つひとつ思い出しながらプレーしていた。

 こういう場面では、こう対応していたよな。こういう状況では、こう動いていたよな──。センターバックとしての経験という引き出しを一つひとつ開けては、そこに何が入っていたのかを思い出すかのように。

 そうした試合勘については、数をこなす、要するに試合を重ねていけば合致してくる感覚があった。一方で、自分自身のプレーに集中しきれない状況にあった。

 なぜなら、チーム全体として守備には改善すべきポイントが多々あったからだ。それはスタートから試合に出るようになって感じた「チームの課題」でもある。

チームメイトにはミーティングでも伝えたが、キャプテンも任され、チーム全体をまとめることを期待されている以上、そこから目を背けるわけにはいかなかった。

【代表復帰につながったゲンク戦】

 しかし、約1年ぶりにピッチに戻ってきたばかり。自分のプレーにフォーカスしなければならず、正直、そこまでの余裕はなかった。

 だから、時にはチームのことに目を向ける前に、「自分がやるべきことをやれよ」と、自分自身に言い聞かせもした。その一方で、センターバックというポジション柄、組織的な守備を構築して未然に相手の攻撃を食い止めなければ、最終的にしわ寄せが来るのはセンターバックである自分のところになる。

 鶏が先か、卵が先かではないが、チームとしてのプレーが先か、それとも個としてのプレーが先か。ここでも再びジレンマを抱えた。

 同時に、だからこそ自分に苛立ちを覚えてもいた。

 以前の自分であれば、たとえ相手に崩されたとしても、窮地に陥ったとしても、持ち前の危機察知能力を生かして、相手を食い止められていた。

 それが、自分のコンディションや試合勘が戻りきらずにいるため、最後の際のところに顔を出せない、最後の一歩で足が届かない状況を作ってしまっていた。チームとしての課題はありつつも、自分のパフォーマンスでチームを助けることができない現実に直面した。

 失点するたびに、「ここを止めてこそなんぼだろ」「ここを止めてこそ谷口彰悟だろ」と、自分に問いかけた。

 危機察知能力の感度を上げる。その感度の高さによって、自分はここまでプレーを続けてきた自負があるだけに、今も、これからも、追い求め続けていくことになるだろう。

 ただ、先発復帰して3試合目のゲンク戦は、退場者が出た影響もあって1-2で敗れたが、チームとしての守備も改善され、自分自身のコンディションも戻りつつあった。ほんの少しだが殻を破れたというか、光が射した試合になった。

 そうした手応えが、日本代表への復帰につながったと思っている。同時に1年ぶりとなる日本代表の活動では、自分がワールドカップ出場を目指すうえで、取り戻さなければならないものがより明確になった。

◆第30回(最終回)につづく>>


【profile】
谷口彰悟(たにぐち・しょうご)
1991年7月15日生まれ、熊本県熊本市出身。大津高→筑波大を経て2014年に川崎フロンターレに正式入団。高い守備能力でスタメンを奪取し、4度のリーグ優勝に貢献する。Jリーグベストイレブンにも4度選出。2015年6月のイラク戦で日本代表デビュー。カタールW杯スペイン戦では日本代表選手・最年長31歳139日でW杯初出場を果たす。2023年からカタールのアル・ラーヤンSCでプレーしたのち、2024年7月にベルギーのシント・トロイデンに完全移籍する。ポジション=DF。身長183cm、体重75kg。

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