【フィギュアスケート】坂本花織の演技は「まだ60パーセント」...の画像はこちら >>

【前戦の敗北から学んだ基礎の大切さ】

 11月8日に行なわれた、フィギュアスケートのNHK杯女子シングルフリー。最終滑走の坂本花織(シスメックス)は、演技が終わった瞬間に両手を宙に突き上げた。

 その演技は、後半の3回転フリップ+3回転トーループで4分の1回転不足でGOE(出来ばえ点)加点は伸びなかったとはいえ、減点はないノーミスだった。

 坂本にとって今季2戦目だった前戦のGPシリーズ・フランス大会では、224.23点の高得点を出しながらも、227.08点でGPシリーズ初参戦初優勝を果たした中井亜美に次ぐ2位。敗因は、フリー終盤のスピン2本の取りこぼしだった。

「練習で(スケートリンクが)貸し切りの時間帯はジャンプと曲かけの練習をメインで、シーズン初戦の木下グループ杯前は週2回くらい一般滑走の時間帯にスケーティングやスピンの練習もしっかりしてけっこうよかった。けれど、フランス大会までは疲労もあって一般滑走(の時間帯)に行けなかった。

 それを怠ったせいでスピンのミスが出てしまったので、基礎をコツコツやることは大事だとフランス大会であらためて思い知りました。その後は、少しずつでもスピンの練習をしておかなければいけないと思い、週1回くらい一般滑走に行っていました」

 坂本がこう話すように、NHK杯ではスピン2本でフランス大会より3点近く上積みし、「ベストな演技ができた」と話す。前日のショートプログラム(SP)との合計は、今季世界最高得点の227.18点として優勝。中止になった2021年を含め、5年連続のGPファイナル進出を決めた。

【まだ60パーセントの出来】

 SPに比べると、フリーは「気持ちにあまり余裕がなくて、表情も少しこわばっていたと思います」と、坂本は振り返る。朝の公式練習は納得できないところもあり、その不安で緊張感もあったという。それでも演技前半は、スピードに乗った安定感のある滑りを見せていた。

「緊張はしていたけどいい緊張感で、ふだんどおりというか練習みたいな気持ちで少しフワフワしていました。でも、3回転サルコウを降りたあとから急に心拍数が上がって緊張してきて、『あっ今、試合中や』という感じで目覚めて。

そんな感じは初めてだったので楽しかったです」

 坂本は笑顔でそう話す。坂本の演技について中野園子コーチは、「今日の出来はまだ60パーセントくらい。もう少し滑り込んで後半のスピードをもっと上げれば、コレオシークエンスもより感動的なものができる。スピンを含めてひとつずつ見るとすごくいいものができているので、全部ひとつの曲のなかでできるようにしたい」と話す。

 まだまだ伸びしろを感じさせるなか、坂本は現在の状態や課題をこう分析する。

「ジャンプの安定感は取り戻せてきているし、クオリティの部分ではだいぶ加点もついてきたかなという感じはあるけど、ステップとスピンで取りこぼしがあるのでそこが課題です。ショートも今回はひとつ取りこぼしがあったし、演技構成点もすべて9点台に乗ったとはいえ、まだギリギリな項目もある。フリーも正直、余裕はあまりなかったので自信のつく練習が必要だなというのをあらためて感じました」

【練習がめちゃくちゃ楽しい】

 プログラムがなかなかハマらなかった昨季は納得できない演技も多く、勢いに乗れずモヤモヤした状態が続いた。だが、五輪シーズンである今季はここまで順調に来ている。

「今年は環境が変わってたくさん練習が積めるようになり、そのおかげで細かいところも納得いくまでできるようになったので、GPシリーズも初戦から220点台を出してどんどん加速できるような試合ができている。今はこの波に乗って行こうという感じ。

 五輪の選考基準のひとつにもなるGPシリーズでファイナルまで行けたのはホッとしているけど、もう一段階上を目指していけるように、これからの1カ月を頑張っていけたらなと思っています」

 今季は、競技者としてのラストシーズン。

ふだんの練習から充実感を覚えている。

「今年で最後と決めてから練習がめちゃくちゃ楽しい。もちろんきついですけど、つねにやりがいのある練習が毎日できているので、それはすごくいい傾向だなって思います」

 フィギュアスケートを楽しむ気持ちを持っていることが、今の坂本自身に心の余裕を生んでいる最大の要因なのだろう。

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