F1第21戦サンパウロGPレビュー(後編)
◆レビュー前編>>
マックス・フェルスタッペン(レッドブル)は予選16位Q1敗退の衝撃から、大胆なセットアップ変更と新品パワーユニットの投入で、ピットレーンスタートを選んだ。
しかし、勝負をあきらめてはおらず、スタートから全開だった。
「エンジン屋の我々としては効いたと思いたいですし、実際にシーズン終盤に差しかかっており、どのエンジンも距離が進んでいるなかで新品エンジンを投入しているので、メリットは確実にあったと思います。残り3戦に向けて、いい状況にあると思います」
スプリントレース以前のセットアップに戻し、そこにさらに手を加えて臨んだ決勝では、マシンが生き生きと走った。レッドブルのアグレッシブな姿勢は、予選では失敗に終わったが、今回は成功に結びついた。
一方の角田裕毅(レッドブル)は、予選からセットアップを変更することなく決勝に臨んだ。
スプリント後に語っていたとおり、セットアップ自体は改善して金曜の謎のグリップ不足は解消した。予選ではタイヤを使いこなせなかったものの、それはマシンそのもののセッティングとは別の問題だと判断したためだ。
事実、スタート直後のセーフティカーでハードタイヤを捨てた角田は、決勝で最も有利なミディアムタイヤの新品が3セット残っているという利点を生かした攻めの戦略を採った。実質的にレースのほぼすべてをミディアムで走り、なおかつ3セットを使ってプッシュし続けるという戦略だ。
最終スティントは、タイヤ条件が同じメルセデスAMG勢とほぼ同等のペースで走ることができた。つまり、上位グリッドからスタートしていれば、上位争いができたということになる。これは間違いなく大きなポジティブ要素だ。
【「10秒」が極めて重く響いた】
「ペースは悪くありませんでしたし、特に最終スティントはよかったと思います。でも、その時点ではすでに完全にポジション争いから遅れてしまっていましたからね。接触があったのは残念です」
角田が語るとおり、レース序盤の6周目にランス・ストロール(アストンマーティン)に追突し、10秒加算ペナルティを科されたことで集団から大きく遅れを取ってしまった。集団のギャップが広がらず密集して走っていたことで、「10秒」が極めて重く響くことになってしまったのも不運だった。
しかし、リスタート直後の攻めの姿勢ゆえとはいえ、避けられた接触とペナルティだったことも事実だ。
集団が密集するなかで急減速したフランコ・コラピント(アルピーヌ)に対して絶妙な回避アクションをとり、リアを大きくスナップさせながらもインに空いたスペースへ飛び込んで前に出たまではよかった。しかし、さらに前にいたストロールの速度とターンインに対する目測を見誤ってしまった。
「(ブレーキングで)体勢は崩しましたけど止まりきってはいましたし、僕自身は接触したことすら気づかなかったくらいなので、何が起きたのかは映像をちゃんと見直してみないと何とも言えません」
この10秒加算ペナルティがなければ、最初のピットストップを終えるとエステバン・オコン(ハース)の10秒後方に戻り、タイヤ差を生かしてオコンにはあっという間に追いついたはずだ。
そうすれば、彼を抜いて12位。その後は1ストップ作戦で7位に留まったリアム・ローソン(レーシングブルズ)がタイヤに苦しみながら後続を抑え込んだトレインに加わり、ここでもタイヤ差を生かして抜いていければ7位まで浮上できた可能性もあった。
ピットクルーが勢い余ってマシンに触ってしまい、10秒加算ペナルティが消化できずさらに10秒を科されたものの、それはレース展開には影響していない。実際には最初の10秒加算ペナルティを科された時点で中団グループの入賞争いからは脱落し、最後尾まで落ちてしまっていたからだ。
同じ最後方からのスタートでも3位表彰台のフェルスタッペンに対して、実質最下位の17位。角田にとっては、あまりにも大きな差をまざまざと見せつけられたレースだった。それがレース後に見せた複雑な表情と、「すべてがうまくいかなかった」という言葉の意味だ。
【ドライバーとしての完成度の差】
ペナルティがなかったとしても7位争いが精一杯だった角田と、フェルスタッペンの差はどこにあったのか。
それは、第1スティントで集団をズバズバと抜いて中団グループをクリアできたフェルスタッペンと、トレインに捕まって抜けずに埋もれた角田の差だ。ここで、「このレースをどこで戦うのか」というその後の戦う場所が決まってしまった。
マシンのスペック差、セットアップ差、PUの差はもちろんある。しかし、タイヤマネージメントの差、一発で仕留めるバトルの差も大きかった。
それはマシンとレースに対する自信の差であり、それに裏打ちされたレース遂行能力の差だ。その差はこのレースに限らず、ありとあらゆる場面で出ている。
世界トップクラスのドライバーのすさまじさを知り、学び、それを自身の成長につなげられるか。
何もかもがうまくいかないレース週末ではなく、たとえそうだったとしても、自分自身は攻めるだけ攻めてミスを犯すことなく、可能なかぎりうまくいかせる。そんな力強いトップドライバーへと成長できるのかどうか。それに値するドライバーなのかどうか。
2026年にこのチームに残留できるかどうかは、まさにそんな姿勢と資質が問われている。



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