プレミアリーグ2025-26序盤の明暗
(2)日本人プレーヤー編

◆プレミアリーグ序盤の明暗(1)>>「リバプール連覇の確率はわずか7%?」

 トッテナム・ホットスパーの高井幸大(21歳)は悶々としているだろう。

 11節終了時点で、まだピッチに立っていない。

ひざと足裏の負傷により、個別メニューのトレーニングに明け暮れるばかりだ。4バックでも3バックでも貴重な戦力として期待されながら、プレミアリーグデビューの日は予定すら組めない状況である。

 外交的ですぐに周囲と打ち解ける明るい性格の高井であっても、ままならない現状には焦りと不安を抱いているはずだ。しかし、復活を急ぐあまりの過度なトレーニングで、負傷箇所が悪化したアスリートを何人も見てきた。今はリハビリに励み、来るべきデビューに備えるしかない。

(※データはすべて11節終了時点)

【プレミアリーグ】開幕3カ月の日本人評 三笘薫のプレーが窮屈...の画像はこちら >>
 そう、焦る必要など微塵もない。「全体練習に復帰する日は近い」「大いに期待している」と、スパーズのトーマス・フランク監督は相好を崩しながら高井の現状を語っている。指揮官の笑顔は心強い。

 高井のスパーズデビューは、チャンピオンズリーグを含めて6試合が予定されている12月か、あるいは来年1月か。日本期待の大型DFは、まもなく晴れ舞台に姿を見せる。

 ブライトンの三笘薫(28歳)も、コンディションは思わしくない。足首に不安感を抱き、今シーズンは6試合の出場に留まっている。

11節を終えて1得点・1アシスト。この結果は本人も不本意なはずだ。

 ただ、三笘のことをあれこれ言う以前に、彼が所属するブライトンの補強に触れなくてはならない。今年の夏にジョアン・ペドロがチェルシーへ、ペルビス・エストゥピニャンはミランへ新天地を求めた。マンチェスター・ユナイテッドから好条件のオファーが届いたカルロス・バレバは残留となったものの、ブライトンでのプレーに集中できていない。

 ステファノ・ツィマス(ニュルンベルク→)やチャラランポス・コストゥラス(オリンピアコス→)といったニューカマーは有望株だが、即戦力であるかは疑問だ。要するに、昨シーズンと比べて今シーズンは明らかに戦力ダウンである。

【遠藤航を起用しづらくなった理由】

 特に、エストゥピニアン退団のダメージは大きい。彼を失ったことで、左サイドでの三笘は窮屈そうに映る。三笘と組む左サイドバックのマクシム・デ・カイペルやフェルティ・カドゥオールとの相互理解を深めるには時間が必要だろう。彼らは三笘が欲するスペースに進入してきたり、距離が遠すぎたり、まだまだチグハグなプレーも少なくない。

 周囲の期待が大きいゆえに、三笘には常にハイパフォーマンスが求められる。無理で酷(こく)な注文だ。

しかし、序盤戦の出来は悲しすぎる。一刻も早くベストコンディションを......。

 そして、遠藤航(32歳)の所属する昨季王者のリバプールはブライトン以上に緊急事態だ。11節を終えて6勝5敗・勝ち点18は、首位アーセナルと早くも8ポイント差。リーグ戦で4連敗を喫し、カラバオカップ(リーグカップ)も4回戦で早期敗退した。

「シーズン前にいろいろなことが起きた。昨シーズンのようにうまくいかない」

 フィルジル・ファン・ダイクは8月の段階で警鐘を鳴らしていたが、現状はキャプテンの不安を大きく上回っている。

 なかでも、ルイス・ディアスのバイエルン移籍が全体のバランスを崩した。前線で相手ボールを追い続ける献身的なアタッカーがいたことで、昨シーズンまでは3列目と最終ラインの負担が軽減されていた。しかし今シーズンは、彼の「フィルター」がかからないことで失点が激増している。由々しき問題だ。

 その結果、遠藤にもスポットが当たりにくくなっている。

主導権を完全に握って逃げきりを図る際に切り札として重宝されてきたため、今シーズンのようなシチュエーションだと起用しづらいからだ。

 また、アレクサンデル・イサク(ニューカッスル→)やフロリアン・ヴィルツ(レバークーゼン→)といった新戦力に順応期間が必要であることも、遠藤にとって向かい風だ。獲得のために1億ポンド(約185億円)以上の巨額を投じた両選手のフィットを優先せざるを得ない。

 しかし遠藤は一切、愚痴をこぼさない。常に万全の準備を整える「プロの鑑(かがみ)」だ。日本代表キャプテンが必要とされる時は、いずれ必ずやってくる。

【田中碧がプレミアで成功するには】

 イングランドにわたって2シーズン目。田中碧(27歳)とリーズの関係は申し分ない。昨シーズンはプレミアリーグ昇格の立役者となり、選手間の信頼も非常に厚い。

 ただし、スピード、強度、精度、プレッシャーなど、チャンピオンシップ(実質イングランド2部)とプレミアリーグでは次元が違う。開幕から11節を消化し、途中交代も含めて8試合出場は及第点だろう。現在の田中は世界最高峰に適応すべく奮闘中だ。

 リーズが16位であえいでいるとはいえ、田中がその責を負うべきではない。

この夏、強化担当セクションはプレミアリーグで戦えるだけのメンバーを揃えられなかったから。ダニエル・ファルケ監督(解任は時間の問題との噂も......)はポゼッションを軸に据えたいのだろうが、チャンピオンシップで通用したプランもプレミアリーグでは限界がある。

「相手からボールを奪う場合、相手をブッ飛ばして取ったほうが『こいつ、守備メッチャできるじゃん』となるわけで、イメージで言うと」

 田中は『U-NEXT』のインタビューでこう語っていた。開幕3カ月足らずでプレミアリーグの難しさを理解しつつある田中のイメージを、リーズ全体が共有すべきだ。

 一方、今季のパフォーマンスがすこぶるいいのは、クリスタル・パレスの鎌田大地(29歳)だ。オリヴァー・グラスナー監督によると、「2シーズン目を迎えて、プレミアリーグの水に馴染んできた」という。鎌田本人も「慣れと相互理解」を好調の理由に挙げ、自信を深めている。

 今シーズンのクリスタル・パレスは、日本代表のクレバーなMFを中心に回っていると言っていい。オープンプレーでは彼を経由してチャンスが創られ、セットプレーでは正確な右足がスリリングなシーンを演出している。さらに、プレスの強度を使い分けたり、さりげないポジションの修正でパスコースをさえぎったり、オフ・ザ・ボールの際の準備も怠らない。

【日本人の底力を最高峰のステージで】

 もともと、広い視野から繰り出されるバリエ--ション豊富なスルーパスと、的確な状況判断に基づく粘り強い守備には定評があった。1年ほどかかったとはいえ、いよいよ鎌田の進化が発揮され始めている。

日本が誇る「中盤の将軍」は、一点の曇りもなく序盤戦を終えた。

 もちろん、各クラブにはそれぞれの事情があるのだから、プレミアリーグでプレーするすべての日本人選手に及第点が与えられるはずがない。現状打破に苦しむ者、チャンスを待つ者、才能が開花した者......。

 今シーズンは、まだ70パーセント以上も残っている。序盤戦で得た教訓を糧(かて)に、最良のフィナーレを迎えることが重要だ。クラブでテッペンを狙うもよし、個人タイトルを目指すもよし。日本人の底力を、世界最高峰のステージで──。

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