『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載vol.2(11)

広島サンダーズ 髙梨海輝 前編

(連載10:倉田朱里が振り返る、初めて石川真佑に会った時の感動「すごい経験をさせてもらったんだな」>>)

【中学3年間で身長が20cmアップ】

 広島サンダーズの髙梨海輝(23歳)がバレーボールに痺れた瞬間がある。

 コロナ禍で挑んだ、高校3年時の春高バレー。準決勝の1セット目の冒頭、Bクイックをズドンと相手コートに叩きつけた。

チームに勢いがついた気がして、肌が粟立った。

【男子バレー】広島サンダーズの髙梨海輝が振り返る、最後の春高...の画像はこちら >>

 それは、バレーをやり続けたことが結実したプレーであり、次の扉を開ける足がかりでもあった――。

 大阪府寝屋川市出身の髙梨は、"血統書付き"のバレー選手と言えるだろう。父は住友電工のセッターとしてプレーし、現在は地元の大阪でジュニアチームを指導している。母は春高で準優勝したスパイカーで、今もママさんバレーを2チームかけもち。その血を受け継ぎ、髙梨も小さい頃から背が高かった。

 しかし、小学校でバレーはしなかったという。両親から強制されることもなく、自宅でニンテンドーDSにかじりついていた。

「小学校は何もしていなかったんですが、中学では部活に入らないといけなかったんです。すでに身長が165cmくらいあったので、バレーかバスケのどちらか、ということになったんですけど、親もやっていたバレーにしました」

 髙梨は柔らかい口調で言う。中学のバレー部は全国を狙うようなチームではなく、"楽しくバレーをする"チームだったという。ただ、髙梨の身長は中学卒業を前に185cmまで伸びていた。

「身長が一気に伸びて、それだけでJOCの手前の選考まで残ったんですが、まったく技術がなくて最後まで残れませんでした。でも、父のつながりで清風高校に練習に参加させてもらって。そこで監督が『来たいなら、来てもいいぞ』と言ってくれたので、進学を決めました」

【コロナ禍でつかんだ成長の手応え】

 大阪の名門、清風高校ではミドル一本に絞ることになった。長身を生かせるポジションだ。

「中学とのギャップで、無茶苦茶しんどかったです!」

 髙梨の声が少し大きくなった。落ち着いた印象だが、冷たい感じはしない。端正な顔つきで実直な印象だ。

「練習時間も長くて、すごく走るし、スパイクを打ち続ける練習もきつかったです。ついていくだけで必死でした。周りは推薦で入った子ばかりだったので、差を感じましたね。スパイクも、(中学から)ネットの高さが変わったので全然打てない。サーブも入らないし、『意味がわからない!』って感じでした」

 それでも、やめることは考えなかったという。

 自分にできることはバレーだけだ――。

そう腹を括っていた。

「『やるしか道はない』って思っていました。親にも相談はしませんでしたね。高1の時はほとんど試合に出られませんでしたが、高2の最後からちょっとずつ試合に出させてもらえるようになりました」

 その後、転機が訪れた。世間はコロナ禍で逆風が吹いていたが、彼はそれを追い風にしたのだ。

「高3の時はコロナ禍で、全国大会が春高しかなかったんです。国体もインターハイもなくて、練習できない期間もありました。各自で走り込む感じだったんですが、自分は毎朝走っていました。ひとりだとサボっちゃうので、近くに住む幼馴染を誘って。しっかり感染対策もして、朝8時から5キロくらいランニングしたり、黙々と体を動かしていました。

 そのあと練習が再開した時に、自分でも驚くほど急に"跳んで叩く感覚"がわかってきたんです。そこからスパイクを打つのが楽しくなり、得意のプレーを作ることができました」

 春高でもその成果を発揮し、チームを3位に導いた。

そして東亜大学でバレーを続けることになり、「バレーしかない」という覚悟はより強くなった。両親からは「大学で頑張っていたら、(SVリーグの)チームから声がかかるから頑張れ」と言われ、そのアドバイス通りに実績を積んだ。

 そして2025-26シーズンからSVリーグでプレーすることになった。トップリーグ 1年目、夢の一歩だ。

【チームメイトになった日本代表のミドルからアドバイスも】

「大学と比べて、何段階もレベルが高いところでプレーしないと通用しません。まず、その順応が難しい。大学で通用していたプレーが通用しないのが、今の一番の課題ですね。今までのクイックでは、ブロックにハマってしまう。サーブも、入れるだけだとチャンスボールになるので、強さの調整、スピードの変化が必要。全部のプレーのレベルを上げないといけません。ついていくのに必死です」

 広島サンダーズでは、縁も感じている。同期入団の柳北悠李は、東亜大学のチームメイト。

さらに遡れば、春高の準決勝では相手チームの選手として対戦し、清風高校が敗れている。

「柳北とは大学1年の時からずっと一緒にレギュラーで出ていたので、やりやすいですよ。このチームにふたりで入れたのは心強いです。僕からしたら、柳北はユース代表合宿にも選ばれる"すごいやつ"って感じですけど、『俺も頑張ろう』って思えますね」

 入団1年目、外国人選手のプレーや日本代表の選手たちを前に「すごい」と思ってしまうことが多いという。しかし、試合のコートに立てるところまできたら、それも変化するだろう。彼はそうやって苦境を乗り越えてきたのだ。

「(日本代表のミドルブロッカーである)西本(圭吾)選手には『腕はこうした方がいいよ』とブロックのアドバイスをもらいました。本当にすごい選手ですね。自分は、まずはワンポイントで使ってもらえるようになりたいです!」

 髙梨は言う。Bクイックで叩きつけた一撃の感覚は忘れていない。

(後編:髙梨海輝が黒尾鉄朗から得た教訓あきらめずに追った先にある「最後に咲う(わらう)ブロック」>>)

【プロフィール】

髙梨海輝(たかなし・かいき)

所属:広島サンダーズ

2002年10月11日生まれ、大阪府出身。192cm・ミドルブロッカー。

中学からバレーを始め、大阪の名門・清風高校に進学。3年時には春高バレー3位に貢献した。その後、東亜大学では1年時の中国大学1部春季リーグでスパイク賞を受賞。2024年の春季リーグではブロック賞に輝いた。卒業後、広島サンダーズに入団した。

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