フットサル女子日本代表・松本直美インタビュー(全2回中の後編)

女子フットサル代表・松本直美は「三足のわらじ」 狙うは「ワー...の画像はこちら >>

 松本直美は、日本女子フットサルのトッププレーヤーである。日本代表をアジア女王にけん引し、アイコンのひとりになった。
日本女子フットサルの歴史にその名前を刻んだ。

 今年11月には、はじめて開催されるワールドカップで「世界一」に挑む。

 松本は、芸能事務所『ホリプロ』所属のタレントでもある。プレーはもちろん、タレント活動をすることでも、フットサルの普及や人気拡大への貢献を目指している。タイでフットサル教室を開催したときには、100名以上の少年少女が参加したという。

 もっとも、女子フットサルの競技環境は甘くない。代表選手でも、働きながらボールを蹴っている。それが当然と思っていたが......。アジアカップで、松本は衝撃を受けた。

「代表選手は、大半がプロだよ」

 アジアカップ決勝で戦ったタイの選手たちと話す機会があって、そんな話を聞いた。「フットサルに集中できたら強いはずだ」と妙に納得した。そして環境を変えるために、少しでも活動することにしたという。

「フットサルの楽しさを知ってもらいたいです」

 そう語る松本の想いは切実だ。

「フットサルを取り巻く環境を変えたい、っていうのもあって、タレント活動をしているのはありますね。まだまだマイナースポーツで、自分たちのチームはホームゲームの観客動員数が多い方ですが、セントラル方式なのもあって観客が100人いないときも多々あるので。だから、もっと多くの人にフットサルの魅力を届けたいな、って。もっと気軽に見てもらえるようにしたいです!」

 彼女はサッカーから離れた後、どのようにフットサルと巡り会い、新たに人生を賭けることになったのか?

【「日本代表になるので料理人をやめます」】

 高校卒業と同時に、松本はサッカーの道から離れ、料理人になることにした。父が板前で、寿司職人だった。子どもの頃、誕生日などがあると、お寿司を握ってくれた。それがうれしかった。兄も同じ板前になった影響で、彼女も料理でチャレンジすることにしたのだ。

 1年間、料理の専門学校に通った。和洋中パティシエのなかからフレンチを選び、ホテルのレストランに就職した。

「最初は洗い物係で。次第にコース料理のアミューズ、盛り付けとか、仕込みをやるようになって。

それから、バンケットという宴会用の大人数の料理も担当しました。カッティングが延々と続きましたね(笑)」

 彼女の心の中に、"サッカーに戻りたい"という衝動は起きなかったという。

 しかしある日、フットサルに呼ばれたときだった。

 何気なくボールを蹴り、仲間とわいわいする時間が無性に楽しく感じた。フットサル選手になる、というのは雲をつかむような話だったが、思い立つとホテルのレストランとは両立できなかった。仕事をやめることには、もちろん葛藤も覚えた。

「ホテルはまだ1年だったし、せっかく調理師免許もとったのに、って両親への申し訳なさと言うか......。でも、両親は『フットサルは今しかできない』って後押ししてくれて。あと、シェフがすごく怖くて(笑)、普通に『やめます』だとやめさせてくれないと思ったので、思い切って『日本代表選手になるんでやめます』って言ったら、『じゃあ、頑張ってこい』って」

【保育士、銀行員、小学校教諭......ノンプロたちが苦労の末に得たW杯出場権】

 言霊の引力があったのだろうか。彼女はすぐに頭角を表わした。月謝を払い、時に仕事を休み、プロでないが故の代償は大きかったが、集中したプレーは高い評価を受け、日本女子フットサルリーグでプレーするようになった。2021年には、現所属先でもある強豪のバルドラール浦安ラス・ボニータスに移籍。

同年には代表にも選ばれ、国際大会で優勝し、MVPも受賞した。そして今年5月のアジアカップで優勝に貢献し、初のフットサル女子W杯の出場権を得た。

「アジアカップはみんなで勝ち取ったものですね。決勝戦の相手はタイで、グループステージでは負けていたので、(勝ちたい)思いは強かったです」

 松本はそう言って、決勝戦の夜を振り返った。

「試合が終わったのは遅い時間で、ホテルに戻ったのは0時過ぎ。当日は、ほぼちゃんとした食事は取れなかったです。次の日の朝5時に出発だったので、私はほとんど眠れずに荷物をまとめて...とにかく全力を出し尽くしたのと眠いのとで、優勝した実感は全くなかったです(笑)。」

 女子フットサルの状況を好転させるには、勝ち続けるしかない。松本だけでなく、全員の代表選手が保育士や銀行員、小学校の先生など、それぞれ仕事を抱えながら戦っている。日本では世界トップを争うようになって、ようやく注目度が高くなる。その意味で、W杯は格好の舞台だ。

「初めてのワールドカップなので、優勝を狙っています!」

 松本は明るい声で言う。

「アジア王者としての誇りを胸に、挑みます。

同じグループのポルトガルは強豪で、これまで一度も勝てていませんが、必ず勝利してグループステージを1位で突破したいと思っています。

 私たちは"ハードワーク世界一"をチームのテーマに掲げています。どんな試合でもチーム一体となって走り続け、自分たちのフットサルをピッチで体現できるように。最後までハードワークし続けて闘います」

 フィリピンで、彼女は新たな道を切り拓く。

「いちばん大切にしてきたのは、"楽しい"という気持ちです。だからこそ、私生活の時間を削ってでも続けられているのだと思います。私は普段こんな(控え目な)感じなので、穏やかな性格に見られがちなのですが、ピッチに立つとファイターなんです。守備からしっかりハードワークして得点につなげるところが自分の強みだと思うので、そこを見てほしいですね。

 初のW杯で、優勝という最高の結果をつかみ獲りたいです!」

 決戦に向け、松本はそう豪語した。

女子フットサル代表・松本直美は「三足のわらじ」 狙うは「ワールドカップで優勝!」

●Profile
松本直美(まつもと・なおみ)
1997年10月22日生まれ、東京都出身。5歳の時にサッカーを始める。ジェフユナイテッド千葉U-18でプレーし、一度は競技を引退。

調理学校へ進学後、ホテルに就職するも、遊びで誘われたフットサルに参加し、忘れていた競技への思いが再燃。ホテルを辞め、埼玉県の「十条FC」を経て、当時日本リーグの「さいたまSAICOLO」に入団。2021年には、現所属である強豪チーム「バルドラール浦安ラス・ボニータス」に移籍した。
2021年6月に日本代表に初選出。2025年4月に開催された「SAT Women's Futsal Championship 2025」で日本代表は優勝し、松本自身もMVPを獲得。2025年11月に、史上初開催となるワールドカップに向けた日本代表メンバーにも選ばれている。

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